流行病でオタクは死なない!

90s若本

引きこもりはコロナで死なず、

オタクは死んだ。

残らず死んだ。

中でもオタクの死に様は凄かった。


M7の大地震でも落ちないように固定した大事なガンプラを、

膝の上からもぎり取られ、上半身のそれをジップロックに入れられ、

醤油と酒大匙2と一緒に漬け込まれたモノを誕生日のプレゼントとして出したのだ。


男はあっという間に母の首を絞め、頭を壁にたたけつけた後、

急いでガンプラの漬け焼きをティッシュで拭きながら、

父とガンプラに、ヤスリをかけ、色を塗った、あの日あの時の子供部屋を思い出しながら泣いた。

いくら拭いても醤油の焦げた汚れが落ちない。


そうだ、

あのガンプラを買ってきてくれたのは、横の死体だった。


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オタクは死ぬ

オタクは滅却する

中でもオタクの死に様は人を動かした


鹿の子は鹿。オタクの子はオタク。ロクな子にはならない。

それでも子孫を残したかった。

妻はデパートの惣菜売り場が大好きだった。

スーパーにはないバラエティが彼女を虜にした。

半額になった瞬間、コロッケを注文してきた彼女に

僕は一目惚れした。

初恋だった。


昨夜買ったスーパーの半額コロッケを温めながら、ふと思った。


オタクの血はここで終わらせる。


その時2階から扉が開く音がした。

コロッケの衣の油の古さが、舌の上に残っていた。


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現金はなかった。

クレジットもなかった。

リボ払いは怖かった。

だが親はいた。


何故、親を頼ってくれなかったんだ。

お前にも家族がいるだろう。

テレビの中では、犯人が家族から問いただされていた。

----でもそれは違うと思う。

そんな空気を作らなかった、あなた方が悪い。

家族の方から大丈夫?現金よと言わなければいけなかったのだ。

だが僕は違う。僕は「家族」というモノの温かさ、尊さを信じている。

こんな心が僕の中にまだあったのだ。

体温が上がった気がする。免疫力向上を感じた。


いくぞ。

扉を開けるぞ。

階段を降りるぞ。

僕は星5を当てなければならぬ。

人類未踏の一歩のように僕の足取りは軽やかだった。


その時、僕の扉は開いた。

魔法使いの年になるのは明日だが、と思った束の間、

口から懐かしい5文字が慌てて出た。



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貯金がないと感情がなくなるのだと思った。

半額コロッケを4分の1にして

4分の1の一欠片を更に潰して、ご飯の上にのせ、

ソースをかけて食べる。

冬からの流行病が夏まで来たというのに、未だに手当が振り込まれないからだ。

来年のオリンピックは決まったというのに。


朝昼間食夜、1日4回の、4分の1コロッケソースご飯はいつまで続くのか。

2階から、大音量でフルコンボを褒め称える可愛い声が聞こえてきた。

今は機嫌が良いのかもしれない。


-----

おかあさん

この5文字を聞いたのはいつぶりだろう、

それだけで目の奥から温かいものを感じた矢先、

おかねくれ

の五文字が引き戻させた。

引き戻される途中、

ある感情のスイッチが押された。


「明日のあなたの誕生日にね」と伝えると

太ったオタクは髭つらの口角をあげた。

私は帰り際に。

白いロボットを引きちぎった。



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「あっ」

それが二人の最後の言葉だった。

上のオタクは、母の血がついたまま、階段で足を滑らせ、

頭から回転しながら落ちた。

ガンプラを持っていたから受け身が取れなかったのだ。

オタクの父は、階段を見上げた瞬間、殺そうと思った息子の顔が目の前に見えた。

それが彼が最後に見た景色だった。


オタクは死んだ。

60分の1のプラモデルの角がオタクの両目に突き刺さって死んでいた。

オタクは死んだが、

母の感情が死んだのは、お金がなかったからだ。

父の心が死んだのは、仕事がなくなったからだ。

オタクが引きこもったキッカケは、自粛だった。


100日前は貧乏ながらも普通の家族だった。


翌日、1世帯につき10万円が支給された。


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