第24話

稲尾が継いだと言われる旅館は、人里離れた場所にあり、彼は板長をしていた。


地元の食材を活かした食事が好評で、建物は古さを感じるが逆に趣きがあり、特に露天風呂は観光客に人気があった。


調査をした所、先代の女将が切り盛りをしていた頃に比べると経営方針が変わり、今年に入ってからは内装工事を頻繁に行っているとの事だった。


健二の提案で、少し離れた宿に泊まる事にして、夕食の予約を部下の名前で取ることにした。


「普段玄関先には女将が出迎えるらしい。

食事が済んだ頃に稲尾に挨拶がしたいと話を切り出すから、それまではバレないようにするんだぞ」


健二は琴美に念を押して言った。


彼が何処に潜んでいるか分からない以上、仕方がない。


用心深い稲尾の事だ。

私の素性が分かれば姿を現さないに決まっている。


(どうか上手くいきますように)


琴美は心の中で祈るしかなかった。

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