第21話

健二の配慮で彼女は個室に移り、外部に警備員を配置させていた。


琴美の友人達も見舞いに来てくれていた。

皆んな気を使って事件の事はあえて話題にはしなかった。

そのお陰で、昼間は和やかに過ごす事が出来た。


健二や陽子にはその後の様子を報告してもらっていたが、手がかりになるような情報は得られていない。


稲尾がいる旅館にも捜査の手が及んだが、彼にはアリバイがあり事件とは無関係だという事だった。


(自分を拉致し、監禁した人物が稲尾で無かったら誰なんだろう。

確かに彼はあの親子とは無関係だと言っていたけれど。)


1か月が経ち、彼女の包帯が取れてやっと自由な動きが出来る様になった。


自分の腕と両足をバタバタ動かしてみた。

なんとかベッドから起き上がれそうだ。


ベッドの端に座りなおし立とうとしていた所に陽子の声が聞こえてきた。


「琴美、まだ立ち上がるのは無理よ」


ドアの方を振り向くと、陽子と白杖を持った友似が立っていた。


「陽子!先生も来てくれたのね」


2人はゆっくりとベッドの方へ近づくと、側にあった椅子に腰をかけた。


「琴美君、すまなかった。私のせいでこんな事になってしまって」

友似は頭を下げた。


「先生のせいではないから。

それよりも稲尾さんの事を教えて。

どんな感じの人なの?

倉庫にいた人が彼だと思っていたらアリバイがあるって」


「そうなんだ。稲尾は美苗と萌ちゃんを置いて旅館を継ぐ為に戻っていたようなんだ。

私が知っている彼はそんな人間では無いと思っていたんだが。。警察から彼の声が録音されたテープを聞かされた時は驚いたよ」

友似は愕然とした様子で答えた。



おかしい。

その男はカラクリがわかるか?とも言っていた。

稲尾が何かを知っているに違いないと琴美は確信していた。





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