第12話

「それより、私は琴美の事が心配だわ。

あなた今1人なんでしょう?

良かったらこっちに来なさいよ。一緒に居た方が私も安心だわ」

陽子は明るく琴美を誘った。


「そうね。ちょっとお邪魔しようかな。」


確かに昨日から精神的に落ち込んでいたので、陽子に会って元気になりたいと思った。

電話を切って身支度を済ませると、陽子のいる治療院に向かった。


カンカンカンッ、相変わらず螺旋階段の音がよく響く。

玄関のインターホンを鳴らす前に陽子がドアから顔を出した。


「いらっしゃい」

彼女は優しい声で琴美を出迎えた。


部屋に入ったが、まだ先生は往診から戻っていなかった。


陽子は台所から紅茶と和菓子を持ってテーブルに置いた。

「ここの和菓子美味しいのよ」


患者さんから頂いたという和菓子は、琴美も知っている有名店の物だった。

2人はしばらくお茶をしながらたわいもない話をして笑い合った。


外で螺旋階段を上がってくる音がして、白杖をついた友似が往診から帰って来た。


「あぁ、琴美君。来ていたのかい。

不在にしていて悪かったね」

彼は琴美の声が聞こえて言った。


「先生お疲れ様です。今日は陽子さんとお茶してました。色々ありすぎて落ち込んでいたので彼女と喋って元気になりました」


「そうか、それば良かった。」


「貴方、琴美の所に脅迫状が届いたんですって」

陽子がそう言いながら台所へ彼の分の飲み物を取りに行った。


「脅迫状?それはまた大変な物が届いたね。君宛に届いたのかい?」

彼は琴美のいるテーブル席の横に腰を下ろした。


「私と父宛だと思います。

カッターの刃も貼りつけてあって、指を切ってしまいました。」

琴美は自分の指を摩りながら言った。


「新聞紙の文字を切り取って文章が書かれていたらしいわよ」

友似の紅茶を持って陽子もテーブルの椅子に座った。


「なんて書かれていたんだい?」


「えっと、、」

琴美は写メを出して文章を読んでみた。


「なんか変よね。日本語になっていないわ。子供が書いたみたい。」


「私もそう考えたけど、子供がカッターの刃なんて貼りつけるかしら」


「そうねぇ。。ちょっと写メ見せてくれる?」

陽子は琴美のスマホを覗き込んだ。


「この文字、カタカナとひらがなが混じってるじゃない。

文章もおかしいけど文字もおかしいわ。」

彼女は呆れた顔で言った。


「今回の猫の件と何か関係があるのかな」

友似は紅茶を飲みながら聞いた。


「貴方、あの猫は飼い猫だったらしいわ。その猫の飼い主の奥さんが行方不明になっていて昨日亡くなったらしいの」


ビリリリッビリリリッ


話の途中で電話がなって陽子は治療院の方へ走って行った。


「琴美ちゃん、さっきの文章もう一度読んでくれないかな?」

友似はさっきの文章が気になるらしかった。


モうイエヲうろつくな タめにナらない スぐてをひケ テオクレになるまえに


琴美が読み終わると彼はボソリと呟いた。


「萌ちゃん。。」


(え?先生今なんて?)


話の途中でまだ娘の事も彼女の名前の事も知らない先生がどうして萌の事を言っているの?


琴美は先生の顔を凝視した。


「萌ちゃんの命が危ないかもしれない」


友似はそう言うと、深いため息をついた。



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