第3話

カンカンカンッ

琴美は螺旋階段を急いで駆け上がり、ドアを開けた。


「遅くなりました!」


時間ギリギリに治療院に着いた琴美に、先生はゆっくりと返事をした。


「そんなに慌てて来なくても大丈夫だよ。」


トモニ治療院の中休みに琴美は先生から東洋医学の勉強をさせてもらっていた。


友似先生は鍼灸師としてはかなりの腕で、治療院はいつも混んでいた。


彼は全盲で、側には受付の陽子と言う女性が一緒に働いている。

陽子は友似先生の奥さんで、とても優しくハキハキした女性だった。


陽子と琴美は昔からの知り合いで、

琴美が鍼灸師になった理由の一つも陽子の旦那、友似の影響がかなりあった。


「うちの庭で猫が亡くなっていたの。

警察で鑑識にも出して調べてもらったんだけど、交通事故死だって言うの。

でも、何か違う気がするのよ」


琴美は椅子に座りながら話し出した。


「何か不可解な事でもあるの?」

陽子は興味深げに聞いた。


彼女は昨日までの出来事を事細かくはなした。


陽子はしばらく聞いていたが、


「うーん。でも鑑識で何も結果が出なかったのなら、やっぱり事故に合って誰かか琴美の庭に置いたんじゃないの?」


とあまり疑うこともなく言った。


「やっぱり気のせいかしら」

それでも琴美は何か引っかかる気がしていた。


友似はずっと考えている様子だったが、


「その猫は飼い猫かも知れないと思っているんだね?

もしそうなら、警察や家の周辺に迷子猫の張り紙か何か出ているんじゃないかな?

それと、、陽子、琴美君の猫の写真を見てくれないか?」

彼は陽子に向かって言った。


「え?あ、はい。」


陽子は友似に言われて琴美の携帯の画像を見せてもらった。


「確かに飼い猫みたいに手入れされているわね。首輪の後がある感じがしないでもないわ」

陽子は言った。


「僕が知りたいのは琴美君が気になっている首下の傷だよ。人間でいったら胸鎖乳突筋辺りかな?」


「そうね、どうしてあなたわかるの?」


陽子と琴美はびっくりして顔を見合わせた。


「そうか、、その子(猫)は殺害されたかも知れないね。

それと、口から泡を出していたみたいだけど毒では無くて何か薬を飲まされたんじゃないか?

例えば東洋医学ではよく漢方薬を処方するんだが、ある薬と漢方薬を同時に処方したら間質性肺炎が起こったりするんだ。

人間ではない猫なら尚更体内で異常な反応が起こる。

そして、時間が経てば何も体内には残らない。

これはあくまで僕の推理みたいな感じだけどね。」


彼は冗談っぽく言った。


「でも先生、その考え方有りかも知れません。

とりあえず父に頼んで迷子猫の届けが出てないか聞いてみます。」


琴美は先生の推理が自分の気持ちとぴったり当てはまっているような感じがした。






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