彼女の矛盾
千屋ゆう子
彼女の矛盾(1話完結)
女が女特有の匂いを撒き散らす時だ。
女が女として生きる為の、女の週。
鉄の匂いを放ち、女は子を腹に宿す為、真っ赤に咲き誇る。
要するに、アレだ。アレ。彼女の月経だ。
半年ぶりに来たそれは、まるで悪夢であり、または悪夢とは掛け離れた事のようだった。
久々に赤く咲いた自分を見て、気が狂いそうな程の愉悦を感じている。
その折に彼女は腫れ上がって鬱血した自分の腹を、ヘラヘラしながらいつまでもさすっていた。
おかしいのだ。彼女は月経の来る妊婦だった。
そこに突如、ボトンと矛盾が産まれた。痛み等無い。無痛分娩だ。
だが彼女の顔は酷く歪み、歯が折れそうな程に食いしばっていた。
動きもしなければ泣きもしない矛盾の尻を引っ叩いた。
けれど、『矛盾の尻』とはどこを指すのだろう。
むしろ彼女が暴れて泣いた。
我が子の尻が見当たらないと、喚き散らす。
誰もが「そりゃそうだろう」と溜め息を吐く。
その日の夜、矛盾に手足が生えた。
可視化された矛盾を、果たして彼女は「愛おしい」と思っただろうか。
だが彼女と矛盾は暫く寄り添った。
彼女に夫が居ない事や、彼女が実は男だという事を、肩を寄せ合い語り合った。
矛盾はそんな養分を吸い尽くすと、地球程の大きさにまでなった。
彼女はその五倍以上はあった。
楽しかったようであまり記憶に残らない短い時間を二人は共に過ごした。
とは言え、矛盾はまた誰かが産むであろう存在であった為、それに対する苦慮は抱かなかった。
月経を一週間程で終えると、今度は矛盾が行方をくらました。
探せばまた産まれる。といった旨の置き手紙があった。
世界には、彼女だけが息づいている。
彼女の矛盾 千屋ゆう子 @idxhacker
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