答えのすり合わせ

「ということは」


 二人の昔話を聞いていた涼子は、当事者ではないがゆえの判断を下した。


「お二人にとって不幸だったわけですよね。氷翠さんはその、お父さんの借金で夜逃げ。宮原……陽向さんは唯一の友人が急に消えてしまった、と」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」


 氷翠は目を吊り上げて涼子の話を止める。


「どう考えても不公平でしょ!? 私の方が」

「あ、いえ。なんというかですね、氷翠さんのご不幸はお父さんが作られたものなので……」

「そんなことは」


 わかってると言いたかったのだろう。逆恨みだということを理解している氷翠は途中で言葉を止めた。


「それで、今から調べようと思うんですけど、この世界の誰かがそんなことできるのかって」

「なんで? あなたには関係ないでしょう」

「実は私の母と祖母が……」


 隠すこともなく涼子は全てを話した。心のどこかで氷翠のことを勝手に信頼していたのかもしれない。


「なるほど。家族や友人から孤立させて、戦わなくてはならないようにすると」

「はい、そうなんじゃないかなと」

「で、いつの間にか精神的に疲弊させて、使い切ったらポイと……」

「そこまではわかりませんよ。ただ元気だった祖母は、急に抜け殻みたいになったそうなので……」

「陽向はどう思う?」


 氷翠は急に陽向へ話の矛先を向けた。


「え?」

「聞いてた?」

「あ、うん」

「何ぼーっとしてるの」


 床にしゃがみこんだ陽向は氷翠の顔を見上げ、万感の思いを込めた称賛を口にした。


「変わってないなあって、氷翠が」

「は?」

「そうやってシャキシャキ話を進めるのが得意だったなあって」

「それはどうも」


 氷翠は目を逸らし、陽向に背を向けた。その背に涼子が声をかける。


「そういえば、氷翠さん呼ばれたから来たって言ってましたけど、誰に呼ばれたんですか?」

「わからないわ。スマホ見てたら『あんたも来な』って言われて。おばあさんの声だったけど」

「思い出した!」


 急に陽向が大きな声を上げた。涼子と氷翠がのけぞる。


「私達、昔、殺し合うところだったじゃない?」

「ああ、うん。酔っ払った挙げ句に笑いながら殺し合ってたわね。今は昔より影響ないけど」

「あの時、紫色の光かなにかが急に出てきて、私の頭を襲って気絶させた、気がする」

「あ。ああ、ああ。確かにそうだったわね。それが?」


 陽向は立ち上がり、頭をさすった。当時の衝撃を思い出すかのように。


「なんかしわくちゃな手が、それをしたような気が……」

「それがあなたのお祖母さんってこと?」


 いきなり涼子の肩をつかんだ氷翠は、大きく揺さぶりながら問い詰める。


「どういうこと? もう亡くなってるんじゃないの?」

「な、亡くなってます。30年以上前に。そもそも」


 涼子はセーラー服を整えながら弁明した。


「そもそも祖母がここにいたという証拠もないですし」


 話が途切れる。全員の意見が出尽くされたのだ。あとはこの建物の上の方にいると思われるなにかに話を聞くしかないのだろう。

 誰かが階段を降りてきた。カツンカツンと硬い靴の音が響く。


「いや、あの婆さんは多分あんたの血縁者だ」


 四天王、風のカッツォーネは涼子を指差して言った。

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