感動の再会

「……氷翠、どうしてここに?」


 宮原陽向は大きく目を見開き、震える声で五十嵐氷翠に問いかける。


「呼ばれたから来たのよ。陽向、お久しぶり」

「どこで何をしてたのよ!?」


 走り寄ろうとした陽向を、氷翠は上げた手の平だけで制した。冷たい風が強く吹く。


「別に話すことはないわ。ただ……」


 苦しみをにじませた声で氷翠は続ける。


「やっぱりちょっと酔ってるから言わせてもらうけど、感動の再会にはならないわね」

「な、なんで。どうして」

「いつか再会することができたら、こうなるんじゃないかとは思ってた」


 うろたえる陽向を、涼子は黙って見ていた。何が起きているか理解していないということもあるが、口を挟む雰囲気でないということを感じたせいでもある。だが何より寒くてそれどころではなかったのだ。

 氷翠と陽向は中学時代の親友だったが、25年前のある日、氷翠の父が莫大な借金をこさえ一家離散した。言葉にするとたったそれだけの短い出来事ではあるが、その出来事は陽向の心に深い傷を負わせていた。活動的だった氷翠と違い、内向的だった陽向に友人と呼べるのは氷翠だけだったのだ。


「だって、お互いに不幸になるって分かってたじゃない。私は夜逃げした。お父さんもどっかに消えちゃった。あなたは? 何かあった?」


 うつむいた陽向の答えを待たず、氷翠は詰問を続けた。


「特に何もなかったでしょ? 結婚して子供もいるんでしょ? 幸せじゃないの。幸せでしょ?」

「それは……」

「分かってるわ。逆恨みだって。けど納得できないのよ。私だけがなんであんな不幸に巻き込まれないとならなかったのかって、ずっと思ってた」


 吹雪はますます強くなる。もしかしたら氷翠の感情とリンクしているのかもしれない。肌を刺す寒さに耐えきれなくなった涼子は、実に緊張感のない声を上げた。


「あのー。寒いので、この建物の中で話しませんか」

「誰、あなた」

「宮原さんの友人です」

「宮原? ああ、陽向はもう陽野宮じゃないんだっけ」


 感情を映さない濁ったガラス玉のような目で氷翠はこぼした。


「何があったのかは聞きませんが、あなたは氷翠さんっておっしゃるんですよね?」


 氷翠は涼子の問いかけに黙ってうなずく。


「じゃあ宮原さんの娘さん、翡翠ちゃんと同じ名前なんですね」

「……そうなんだ」

「私が言うことじゃないかもしれませんが」

「そうね、あなたに何か言われる筋合いはないわ」


 少しだけ寒さが和らいだ気がした。

 ちらりと横目で陽向を見た氷翠は、建物のドアを押し開ける。


「まさかの人力」


 思わず涼子はつぶやいた。

 自動ドアではないにせよ、誰でも入ることができるようだ。穏健派が攻めてくるということを考慮していなかった可能性はある。


「多分、寒さは私が生んでいるものだから、どのみち建物の中も寒くなると思うけど」


 氷翠にとっては敵、急進派の本拠地へ三人は足を踏み入れた。

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