ババブラ・スプレマシー
猟犬
「リョウコ、早く来るんだ。一刻も早く」
「無理ですが。娘のピアノ大会なので」
「そっちの都合は聞いてないんだ」
レンタル衣装のドレスから露出した肩が怒りで震える。華やかな服装にそぐわない表情と動作と顔色と感情で涼子はその場に仁王立ちした。
「リョウコの都合は二の次だよ」
スマートフォンが赤く光った後、涼子の姿は忽然と消えていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
是非もなしに
「さすがに40代にその格好をされると、視神経に深刻なダメージが来るね」
「着たくて着てるんじゃないですけど」
どんな売れっ子単体女優でも、四十路になればそれは選ばないと思われるミニスカートをなびかせつつ、涼子は腕を組んで目の前の生き物を睨みつけた。
「で、一刻も早くって言ってたけど、今日はなんで呼んだの、リキュー。すぐに帰らないと沙羅の番がきちゃうんだけど」
「風の四天王をぶっ殺してほしいんだ。あと一匹だけなんだ。リョウコは弱いけど、相性はいいと思う。もしかしたら悪いかもしれない。まあどっちでもいい」
リキューと呼ばれた生命体は、白い小型犬のような体から生えている尻尾を振りながら応じる。
「リョウコは死ぬかもしれないけど、相手にダメージを与えてくれればいい。それが致命傷なら、なおいい。そうしたら僕か、次の代のババマギアがトドメを刺すよ」
「それはつまり」
「うん、捨て石になってほしいんだ」
「わかった、わかりました」
涼子は大人しく言うことを聞いた。どうせ歯向かうだけ時間の無駄だし、何も死にものぐるいで戦う必要はないのだ。
「リョウコは死にものぐるいで戦う必要ないって思ってるだろうけど、相手は殺すつもりでくるからね。ほら、はやく戦闘態勢に入る」
リキューは涼子の心情を正確に読み取り、尻尾でむきだしの足を引っ叩いた。
「いった!」
「ほら、早く」
渋々と涼子はどこからか4つの機械を取り出した。大きさは30センチメートル四方ほど。それが浮かび上がり、ゆっくりとしたスピードで涼子たちの前を進む。
「リョウコは歴代ババマギアの中でも一番弱いけど、これがあるから使い勝手はいいね」
脳波でコントロールするドローンのようなその機械を、涼子はハウンドと名付けていた。リキューが言うように、歴代ババマギアのような肉体的強化は防御力以外にほぼ得られていない。だが手先同然にハウンドを操り攻撃することにより、安全な距離を保ちつつ敵を殲滅することができていた。
だがその戦法が通じたのは、弱い敵の場合である。四天王とまで謳われている相手に有効な手段なのかどうかは、涼子には見当もつかなかった。
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