茶飲み話

「覚悟ができたら言っとくれ。あんたを待たせちまったんで、それくらいはこっちも待つ」

「覚悟ならできてるよ。どうせこの距離じゃ僕は何もできない」


 カッツォーネは目を閉じ、飄々とした口調で言い切った。家族を守る為とはいえ、できれば戦いたくない静江の殺意が薄くなる。ためらいがそのまま口をついた。


「アンタらは、人間じゃあないんだよね」

「そんな下等生物と間違えられること自体、ひどい侮辱だ」

「じゃあ、人間の言葉を喋るアンタはなんだね」

「好きに呼べ。風の精とでも神とでも」


 意思が通じる。もしかしたら話し合いできるかもしれない。


「アンタらは、なんであたしと、あたしの家族を狙うんだい?」


 いぶかしげに眉をひそめたカッツォーネは、疑問に対して疑問で返した。


「僕らが、人間ごときを狙う?」


 首をひねり、真剣に考え込んでいる。答えは見つからなかったようだ。


「何言ってる?」

「アンタら急進派とやらが襲ってくるから、戦うしかないんだがね」

「そっちが一方的にふっかけてきてるんじゃないか」

「何言ってるんだえ?」


 話がまったく噛み合わず、静江は混乱した。あまりに情報が少なすぎて判断を下せる状況ではない。マイルドセブンに火を点け、大きく息を吸い込んだ。

 仰向けの体勢からいつの間にか起き上がっていたカッツォーネも、ショートホープに火を点けて短く言った。


「だいたいわかった」


 それと同時に、背後の地面から飛び出てきたリキューが尻尾を尖らせ、狂乱の叫び声を上げながらカッツォーネの後頭部へ走らせる。


「なに敵と茶飲み話してるんだババア! 早くトドメを!」


 尻尾の刃は空を切った。カッツォーネは静江の背後へ移動していた。


「そいつ、あんたを騙してるよ」

「敵が嘘ついてるに決まってるだろババア! 早く殺せ!」


 静江は目を細めて薄く笑う。


「不思議だねえ」


 カッツォーネに目を向け、


「さっき殺されかけたけど、アンタの言うことのほうが信用できそうだ」


 終わりなき言い争いの起爆剤を投下した。


「だって、人間ごときに嘘ついたって仕方ないじゃん」

「敵の策略だ! シズヱ、殺してから話し合え!」

「お前らがそのばーサーカーを騙して襲いかかって来てるんだろう、一方的に」

「うるせえ、殺すから死ね!」


 力を使い果たし回復途上の風の四天王と、動かない相手くらいにしか強く出れないリキューの戦闘は長くは続かなかった。やがて疲れたのかどうでもよくなったのか、カッツォーネはなにか言いたげな顔で静江を見たが、何も言わずに去っていった。


「で、リキューや」

「なんだよ、ババアが手伝わねから逃げちまったじゃねえか!」

「あたしを騙して何をしたかったんだえ」


 静江の手がリキューへ伸びる。だがそれよりも速くリキューは地面へと消えていた。もとより追うつもりもない静江はすきかいを脱出した。もう会うこともないだろう。

 それよりも今は、隆の容態が気になる。何かきなくさい。静江は自分を取り巻く全てに騙されているような気さえしていた。

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