第8章 フレイの剣とか、そういうやつ?

第56話 GOGO海賊島!


「え?」


 きょとんとするカラスミ氏。

 フレイがなにを言ったのか、理解できなかった。


「受ける、と言ったんですよ。カラスミさん」

「あ、いやいや。待ってください。フレイさん。なにか誤解があるのでは?」


 自分で持ちかけた話のクセに狼狽している。

 仕方がない。

 いくらC級とはいえ、あまりに危険度が高い仕事だからだ。


「誤解も六階もありませんて。捕まってる人がいるんでしょう? だったら助けないと」


 笑ってみせるフレイだった。


「それに、海賊の本拠地ってことはきっと島だよねー 船たのしみだねー」


 デイジーもにこにこだ。

 批判めいたことは言わない。

 だって、困っている人を見捨てるような男が、彼の大親友のわけがないのだから。


「では仲間を紹介しますね」


 席を立ったフレイが、目を白黒させているカラスミ氏に告げる。

 そして、紹介されていくうちに安心どころか卒倒寸前の状態になる豪商であった。


 デイジーがマリューシャー司祭さまだってのは、まあ良いとしても。

 服装と年齢がいろいろあれだけど。


 エルフの精霊使いも、まあぎりぎり納得できるとしても。

 C級だからね。そのくらいの隠し球は不思議ではないだろう。


 しかし、ダークエルフの大魔法使いウィザードとか、魔王アクアパツァーの四天王の一角とか、カオスドラゴンとか。


 異常すぎる。

 やばすぎる。

 モンペンを滅ぼすつもりなのかってレベルの戦力だ。


「あと、とくに芸のない俺と、戦士のガル。それからまったく何の役にも立たないエクレア」


それがしの紹介が雑である。仕方がないことだが」

「むしろ私の扱いが悪すぎ!」


 まあね。

 魔王の四天王とか邪竜とかに比べたら、半裸だけじゃインパクトは薄いのだ。

 せめて上半身裸にバイキングへルムとか、そのくらいじゃないと。


「無視すんなーっ」


 地団駄ダンスを踊るエクレアであった。

 ともあれ、こいつを連れて行くのは無理なので作戦行動中はカラスミ氏に預かってもらわなくてはならない。


 あと、女性を近づけないように言っておかないと。

 モンペンまできて問題を起こすのは避けたいからね。


「むっきーっ!」


 怒ってる怒ってる。





 翌朝、フレイたちは船上の人になっていた。


 波を蹴立てて走る帆船。

 目指すは海賊島・・・

 その通称の通り、海賊どもの本拠地だ。


 あきらかに拙速だが、時間をかけて良いことなどなにひとつない。

 カラスミ氏の作戦が失敗して、すでに数日が経過しているのだ。


 捕らわれている冒険者が奴隷として売られる前に、あるいは手慰みに殺される前に救出しなくてはならない。

 したがって準備など最低限だ。


「これが船かー すごいねー!」

「そうね。けっこう揺れるけど面白いわ」


 デイジーとミアがはしゃいでいる。

 なにしろ初めての経験なので仕方がない。

 フレイだって興奮を隠せないくらいだ。


「とはいえ、準備不足なのは事実だけどな」

「兵は巧遅よりも拙速を尊ぶものじゃ。どのみち内部の構造など判らぬのじゃから、あれこれ悩んだところで意味はなかろうよ」


 それでも警句めいたことを言うリーダーの肩を、ぽんぽんとカルパチョが叩く。


 敵の情報はほとんどない。

 数も、質も、どの程度の打撃で逃げるのかすらも、まったく判ってないのだ。

 そんな状況で襲撃に踏み切るのは、もちろん先述のように時間的な制約があるからだが、これ以上の情報収集は不可能という側面もある。


 海賊どもの情報に詳しい人間、などというものがモンペンに居住しているならともかく。

 そんなものがいるわけがないし、いるとしたら町の動向を探るために海賊たちが放ったスパイだけだ。


「それにまあ、作戦自体は堅実だしね」


 パンナコッタが笑う。

 船に乗っている冒険者は六名。

 フレイ、ミア、デイジー、ガル、カルパチョ、パンナコッタだ。


 エクレアはカラスミ邸で留守番。

 では、最後の一人はどこにいるのか。


「堅実かなぁ」


 首をかしげるリーダー。

 呟きを圧して虚空に吠え声が響く。


 見上げれば、蒼穹を舞う漆黒の巨大なドラゴン。

 ヴェルシュである。


 まずは彼が上空から島にある海賊どものアジトを特定する。位置情報を念話マインドボイスでパンナコッタに送ったのち、ブレスによる攻撃をおこなう。

 間違いなく大混乱になるだろう。

 その隙をついて上陸し、捕らわれている人々を救出するという作戦だ。


「ものすげー大雑把な作戦だとおもうけどなあ」

「じゃが、戦術の根幹は間違っておらぬよ」


 かかかと笑うカルパチョであった。

 チームの中では、最も軍事に詳しい人物だ。

 なにしろ魔将軍だからね。


 このような救出作戦とか潜入作戦というのはセオリーが決まっている。

 最も理想的なのは、相手に悟られることなくこっそりと潜入し、こっそりと虜囚を救い出し、こっそりと撤収することだ。


 しかし現実をみれば、それはなかなか難しい。

 まず地理的な条件がある。島だもの。

 海から船が接近してきたら、そりゃ普通は気付く。


 夜陰に紛れてという手もあるが、地理不案内な島の中で地図もないのに迅速な行動ができるかって話になってしまう。

 だからフレイチームは、プランBを選択した。


 すなわち、なるべく現場を混乱させる、というやつだ。

 フレイの得意技でもある。


 マリューシャー教団の総本山からデイジーを救出したときも、同じような作戦で挑んだのだ。

 そして今回は、あのときよりずっと派手だ。

 ヴェルシュがいるからね。





 咆吼に驚いた海賊どもが、慌ててアジトから転がり出てくる。

 手に手に武器を持って。

 そして、上空の巨大なドラゴンを目撃し尻餅をつく。


 当然である。

 ドラゴンなんて、普通に生活していたら見る機会なんかない。むしろ出会っちゃったら終わりだ。

 ぱくっちょと頭から食われるか、ブレスで骨も残さず焼き尽くされるか。

 たいして嬉しくない結末しか待っていない。


 しかも、ただのドラゴンではなく、古代竜エイシェントドラゴンである。

 普通の人どころか、冒険者だってそうそうお目にかかれるものではない。

 海賊たちが自らの幸運に感謝したかどうかは未知数だが。


 海賊島の上空を旋回するヴェルシュ。


 なにをしているのか、もちろん海賊たちには判らない。

 アジトとの位置や、そこに至るルートを確認し、パンナコッタに送っているのだ。

 攻撃してこないことに安堵する海賊たち。


 気まぐれな竜が通りかかっただけ。

 たまたまだ。

 ドラゴンが人間に興味を持つはずもなく、すぐに飛び去るだろう、と。

 だが、それはさすがに楽観にすぎた。


 ぐっと高度を下げた邪竜が、その巨体に相応しい巨大な口を開く。

 次の瞬間、闇色の閃光がほとばしった。

 漆黒のレーザーブレス。

 木々を薙ぎ払い、大地を削ってゆく。


 海賊どもが悲鳴を上げ、頭を抱えて座り込む。

 弓などを持っている者もいたが、反撃する余裕はないようだ。


 そういう次元の相手ではない。

 逆らうとか戦うとか、そんなことが可能な相手ではないのだ。

 天災と同じである。


 ばっさばっさと翼をはためかせて着陸したヴェルシュが、さらにブレスを放つ。


 よくよく観察すれば、人間や家屋は狙っておらず、海からアジトに繋がる近道をつくっているのだと判るだろう。

 土木邪竜なのである。


 気付いた海賊はいない。

 算を乱して我先に逃げようとしている。

 仲間を突き飛ばしたり、殴りつけたりしながら。

 もともと連携力が低いところに起きた大パニックだから、収まる気配も見せず広がってゆく一方である。


 興味深そうに見物していたヴェルシュだが、やがて天空に向かって一声吠えた。





「リーダー。道を作ったから上がってきてくれ、だそうだよ」

「OK。それじゃみんな。作戦開始だ」


 パンナコッタの言葉を受け、フレイが指示を飛ばす。

 上陸用の小舟から、一斉に仲間たちが飛び降りた。

 帆船では、喫水の関係であんまり島に接近できないのだ。


「救出作戦だけどさ。べつに海賊を皆殺しにしても良いんだよね」


 異常な発言をするのはミアである。

 茶色い髪が、海風になびく。


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