第3章 絶体絶命のピンチとか、そういうやつ?
第17話 A級冒険者、ふたたび
一気にC級になってしまった。
びっくりである。
はじめて潜ったダンジョンで貴重な
「運が良かっただけじゃねーか」
なんて他の冒険者たちには言われるが、じっさいその通りなので、べつにフレイは反論しなかった。
じゃあてめーらはドラゴンに勝てんのかよ、とか言い返しても仕方ないし。
魔法職と歴戦の武芸者が仲間になったのは紛れもない幸運だし。
性格とか性癖は別としてもね!
ともあれ、シスコームの遺跡から持ち帰った
ほとんどが宝石類だし、腐るものでも減るものでもないから、すぐすぐ金にかえる必要はない。
売れば
今回の戦利品で売却したのは魔晶石と竜の素材。
そもそも魔晶石を採るためにダンジョンに入ったといって良いほどなのだ。
すべて売り渡し、フレイたちはそれなりの金貨を得た。
倒したモンスターどもから剥ぎ取った金銭や貴金属と合わせたら、けっこうな収入である。
で、これをきっちり四人で分ける。
活躍の
俺の方が頑張ったじゃねーかよ、というのはナシ。
俺がリーダーじゃん、というのもナシ。
全員が同格の仲間。
上下関係をチームに持ち込んじゃうと、たいていは空中分解してしまうのだ。
そう考えたら、リーダーなんて良いことのひとつもない。
苦労とか責任ばっかり多くて、報われない仕事である。
誰もやりたがらないのも当然だろう。
ただ、フレイのチームは雰囲気も良く、あんまり彼は苦労していないけど。
ダンジョンで手に入れた武器の分を、儲け配分から差し引こうとするフレイを、笑いながら止めたほどだもの。
いろいろと頭おかしいけど、気の良い仲間たちなのだ。
「よう。大活躍じゃねえか。フレイ」
声を掛けられた。
振り向いた先に立っているのはガイツ。
登録初日に出会ったA級冒険者だ。
「アニキ。久しぶりだ」
フレイの瞳に単純ならざる光がたゆたう。
因縁のある相手なのだ。
自分のチームから追放した役立たずを、彼はフレイに押しつけた。
当時、人間の言葉を理解できなかったミアのことである。
もし彼女が本当に役立たずだったら、フレイの冒険はとっくに終わっていたかもしれない。
「んだよ。睨むなよ。結果としておめえは良い拾いものをしたんだからよ」
ばしばしと肩を叩きながら、会談用のテーブルに誘う。
非常になれなれしい。
わだかまりを解く笑顔を、フレイは浮かべた。
「それこそ結果論だぜ」
「まあな。かっとして係員に噛み付いちまったけど、フレイみたいに翻訳アイテムを買うって手もあったんだよな」
ガイツが浮かべるのは苦笑だ。
我慢できずに手放してしまった。
手放したのは宝石だったと、あとから知った。
どうにもならない。
なくしてしまった銀貨みたいなもんだ。
もう二度と手の中に戻ってくることはない。また銀貨を手にすることがあっても、それはその銀貨だったのか、あるいはまったく違うものなのか、わからないのである。
「ご愁傷様。アニキ」
よくある話ではあるだろう。
冒険者の世界に限らなくても。
使えない従業員だと思って解雇したら、じつはその人物こそが店を支えていたのだ、とか。
もっとも、逆のパターンだって枚挙に暇がない。
自分がいなくなったらこの店潰れるぞ、なんて息巻いて辞めたのに、むしろそのあとの方が業績がのびた、とか。
そんなもんである。
「まったくだぜ。別れた女が遠くで幸せに暮らしていると知った気分ってのは、こういうののことをいうんだろうな」
「判りづらい」
どんな例えだ。
そもそも女性と交際した経験なんぞないフレイには、そんな気分は理解できない。
「んだよ? まだエルフ娘に手を付けてねえのか?」
「女だって知ってたのかよ。つーか、そういう関係になれるわけないだろうに」
「もっともだ」
テーブルを挟み、シニカルな笑みを交わし合う。
チームに恋愛問題を持ち込んでしまったら、ろくなことにならない。
これは冒険者ならずとも常識だ。
「あいつを外したのは、声を聞いたら女っぽかったからって理由もある」
「で、俺に押しつけたわけだ」
「ピン同士なら問題ねえだろうが」
結局、トラブルの原因なんて、突き詰めていけば、金と異性関係に集約される。
チームのメンバーが女を争って対立する、なんてことになったら目も当てられない。
だからガイツは、ミアの能力がどれほど高くても、使い続けるつもりはなかった。
一瞬の判断ミスが死に直結する過酷な仕事だ。
問題なんかいくらでもあるのに、正直、女性問題まで抱え込むのは
正しい判断だと思っているし、悔いてなどいないが、貴重な
このあたりは人間だからしかたがない。
にんげんだもの。
「ピン同士だった期間は短かったな……」
魔法屋に行くまでの間だけだ。
半日もない。
すぐにデイジーが仲間に加わってくれたから。
「運が良いのか悪いのかわからねえな。あっという間に仲間も増えて、あっという間にC級だ」
「昇級まで知ってるのかよ。どんだけ耳が早いんだ? アニキは」
両手を広げてみせるフレイ。
彼らのスピード昇級は噂になっているが、ガイツから見れば二つも等級が下の出来事である。
積極的に噂を聞き集める理由はない。
これがものすごく大きい。
そもそも冒険者の大多数はE級のまま終わる。モンスターとの戦いで死んじゃったり、思ったより実入りの少ない仕事に嫌気がさして他の生き方を探したり。
そんななか、着実に実績を積んでD級に上がったのが、
C級というのは中堅どころ。
押しも押されもしない、なんて言葉が、そのまんま当てはまるような
で、収入も安定してきたし、そろそろ引退して商売でも始めようかなって考える頃合いでもあったりする。
生涯、いち冒険者!
なんて大馬鹿野郎を除けば。
B級ってのは、そういう大馬鹿野郎たちだ。
充分な金があり、あちこちの業界に顔が繋がっているのに、まだ危ない橋を渡り続ける。
生死を賭けたギャンブルに魅せられてしまった連中、という言い方もできるだろう。
さらにその上のA級なんていったら、まさに
組合を支える屋台骨だったり、勇者とか呼ばれる
領主とか国王に謁見した経験がある者だって存在するのだ。
もちろん等級が上がるごとに、人はどんどん少なくなっていく。
完全なピラミッド構造だ。
頂点に立っているのが、ガイツのようなA級冒険者である。
ちなみにザブールにA級は六人しかいない。
そのうち三人がガイツチーム。
フレイなどから見たら雲の上の存在だし、逆にガイツから見ればC級なんて
考えてみれば、
蛮勇といって良いくらいの。
たとえるなら、
鼻で笑われたって仕方がないような場面だったのである。
そうならなかったのは、ガイツが気さくな人柄だったから、というのが一番の理由だろう。
「そら注目すんべよ。立ち上げに協力した身としては」
「協力て。荷物を押しつけただけじゃねーか」
笑いながらしれっと恩を着せてくるガイツに、んべ、と舌を出してやるフレイだった。
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