第16話 竜殺しの勇者とか、そういうやつ?
さて、いろいろと
「係員さん。ちょっと大事な話があるんですが」
もうすっかり馴染みとなった
露骨に嫌な顔をされる。
またてめーかよ
そりゃね。
登録初日にA級冒険者のトラブルに首を突っ込むわ、言葉の通じないエルフを仲間にするわ、その日の内に美少女にしかみえないマリューシャー信徒を連れてきて登録させるわ。
謎の行動すぎる。
それでも、
当初、前衛不足の感は否めなかったものの、最初の仕事をこなした際に屈強な戦士のスカウトに成功したらしく、戦力はととのった。
これもまた異例のことである。
新人のE級なのに、どう考えても戦力が過大。
精霊魔法を操るエルフに、いくつかの奇跡を使いこなすマリューシャー信徒、歴戦の武芸者に
等級は必ずしも
それは事実なのだが、目安になるのはたしかだ。
町の周辺で
それで磨かれるのは草の見分け方くらいのものだろう。
安全な仕事だけして小銭を稼いでいる冒険者がいる一方で、最初から強い
そういう世界だ。
おかしいのは、そういう最初から強い連中が、たまたまチームを組んじゃった、という点である。
普通はありえない。
実力がある者は鼻っ柱も強いもんだし、自分以外のツワモノを忌避する。
お山の大将でいたいというのは、べつに珍しい心理ではない。
つまり、リーダーをつとめるフレイには、
あるいはその片鱗のようなものが。
という類のことを、じつは片眼鏡の係員は考えているのだが、口に出したことはない。
なにしろ冒険者なんて生き物は、すぐに調子に乗るから。
ちょっと褒めたら
だからこそ、新人には厳しく当たらなくてはならない。
だが同時にフレイチームには非常に期待している。
次世代のエース、若手のホープ、くらいまで思ってたりするのだが、それを顔に出すことはできないため、ひっじょーに不機嫌そうな、なんともいえない表情になってしまうのである。
もちろんフレイには事情が判らないから、今日も係員さん不機嫌そうだなぁ、あんまり怒らせないようにしよう、と考えるわけだ。
上と下との人間関係なんて、そんなもんである。
「なにかね? フレイくん」
「シスコームの遺跡で手に入れた
声をひそめ、周囲に視線を配るフレイ。
けっこう露骨に。
ちょっと人のいないところで話せないか、というアピールだ。
係員がため息をつく。
「いいだろう。別室を用意する」
めんどくせぇなあ、という顔。
むろん演技だ。
予感がある。
つい先日に結成したばかりの
軽く顎をしゃくる。
ついてこい、と。
借りた鎧立てに、ガルがミスリルのフルアーマーを組み立ててゆく。
さすがは武芸者という感じで、非常に慣れた手つきだ。
じっと係員がみつめている。
ガルの手さばきに感心しているわけでは、もちろんない。
それを組合を通して領主に献上したいと聞いたとき、べつに係員は驚かなかった。
よくある話だから。
どんなに
領主でも騎士でも上級役人でもいいが、
当然の
だからこそ、といえるのか、フレイの申し出に、やや残念さをおぼえたほどである。
規格外の新人も、やはり権力を求めるのか、と。
しかし、組み上がってゆく鎧を見るうち、そんな考えは吹き飛んでしまう。
完成品の
ミスリル銀製の
強い魔力を帯びて白銀に輝くそれは、まさに王者の風格だ。
兜の
「……そのマントもマジックアイテムだね。フレイくん」
「みたいですね。良く判りませんが」
肩をすくめてみせるリーダー。
じっさい、ミアは魔法がかかっているとはいっていたが、どんなものなのか、どんな術式かとかは、さっぱり判らないらしい。
「これを献上するというのかね? これほどのものを?」
うろんげに問う係官。
フレイとしては、もう一度肩をすくめるしかない。
「ミアとガルの見立てでは、金貨十万とか十五万とか、バカみたいな数字でした。そんな額じゃどこも買い取ってくれないでしょうし」
「……低く見積もりすぎだ。もう一桁上にいくだろう。たしかにこんなもの、
もちろん組合の手にも余ると付け加える。
売り買いするようなものじゃない。
「だから献上って話になったんですが」
「自分で身につける、という話にはならなかったのかね?」
むしろそっちが驚きだ。
鎧というのは、自分の命を守る最後の砦である。
少しでも品質の良いものを、と考えるのは当然だろう。
「フルアーマーなんてきたら動きが鈍くなってしまいますよ。ガルはサイズが合いませんし、鎧なんか絶対に着るもんかって信条ですし」
先行偵察や近接格闘をおこなうフレイにとって、重たい鎧など邪魔なだけ。
半裸戦士ガルは、傷こそが生きている証と豪語するような人物なので、当たり前のように鎧なんか着ない。
となれば金にかえるしかないのだが、そんな天文学的な金銭を所有する商家なんかほとんどない。
地方領主とかだって難しいだろう。
「なるほどな……」
係員がやや尖った顎を右手で撫でる。
面白い。
フレイチームは、ようするに厄介払いをしたいのだ。
伝説級と思われるアイテムなんて邪魔なだけ。
たとえば町の武具屋に持ち込んだって買ってもらえるはずがない。むしろ帰り道に後ろから襲われて奪われるのが関の山だろう。
きっちりとそういう判断ができる。
浮かれあがったりしない。
まさにE級ばなれしたE級だ。
この先どこまで伸びるか、すえおそろしいほどである。
「わかった。そういうことであれば、組合が責任を持って領主どのに献上しよう」
「助かります」
「君たちの名前はどうする?」
「できれば伏せていただけたら、と」
「領主どのには伝えないわけにはいかないが、公表はしない、というあたりだろうな」
さすがに誰がゲットしたのかを言わない、ということはできない。
嘘をつくのだってまずい。
だから、領主とその側近にだけはフレイチームの名は伝わる。
苦笑するフレイ。
組合のなかに名前が知れ渡らない、というだけでも万々歳である。
「それと、きみたちは昇級だ。C級にな」
「へ?」
思わず間の抜けた声が出てしまう。
だって、フレイチームの戦歴は、わずか、一。
ゴブリン退治のものだけだ。
シスコーム探求は依頼で動いたわけではないので、戦歴にはならない。
戦歴一のC級とか、ちょっとありえないだろう。
「これほどの
「ああー そっちですかぁ」
特別A級功労賞。
ちょっとありえないくらいの貢献をした者に贈られる賞だ。
二階級特進くらいは当然というか、むしろ
ただ、さすがに登録から
ぎりぎりの配慮だ。
「まいったな」
フレイがぼりぼりと頭を掻く。
ミア、ガル、デイジーも困っちゃった顔だ。
戦歴一のC級冒険者、誕生の瞬間である。
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