第14話 なんかへんなの見つけた!
「なんだこりゃ?」
へんな武具を見つけ、フレイが首を捻った。
小剣のようだが、握りが刃に対して垂直に付いている。
「ジャマダハルだな。パンチダガーとも呼ばれるものだ」
「どうやって使うんだ?」
近づいてきたガルの説明に、やっぱり首をかしげるフレイ。
名前を聞いても使い方がさっぱりだ。
「その握りを持って真っ直ぐに突き出す。拳を振るうのと同じ感覚で相手を突き刺すことができる武器だ」
「へぇぇ」
さっそく握ってみると、けっこう手に馴染む。
近接格闘戦を得手とするフレイにはかなり向いた武器のようだ。
「しかもそれ魔法かかってるわよ。町で鑑定してもらわないとちゃんとしたことはわかんないけど、かなり強力そう」
もらっちゃえば? と、横から口を挟んだミアがそそのかす。
善良な農民をたぶらかす下級悪魔みたいに善意に満ち満ちた笑みで。
「だな。俺が使っていいか?」
それでも律儀に仲間たちに確認するリーダーだった。
もちろんガルにもデイジーにも否やはない。
チームの戦力が向上するのだから。
探索の結果、この部屋にあるマジックアイテムは、ほとんどが魔力を帯びた宝石だった。
あと、少量ではあるが質の高い
そして特筆すべきは、
王侯貴族がまとうような
それが全部
兜、肩当、肘当、手甲、鎧、腿当、膝当、脚甲、鉄靴、マント。
ぜーんぶである。
魔法のかかっていない、普通の鉄で作ったってものすごい高い。
「材料は、たぶんミスリル銀だと思うのよね。マントの方もなんか織ってる糸そのものに魔力があるっぽいし」
むーん、と唸りながら観察するミア。
彼女は武具としての価値は判らないが、魔法金属について多少の知識は持ち合わせている。
「ほえー 高いの? ミア?」
「純度にもよるけど、フルアーマー作るくらいの量のミスリルっていったら」
デイジーの質問に、ぴっと人差し指を立ててみせる。
「金貨千枚ってこと? そりゃすごいっ」
驚くマリューシャー信徒。
それだけあれば、たとえば彼ら四人なら一、二年は働かないで生活できるだろう。
ゆっくりとミアが首を振る。
「二桁くらい間違ってるわよ。デイジー」
下方向にではない。
「じゅ、十万っ!?」
思わず叫んでから、両手で口を押さえる。
慌ててきょろきょろと周囲を見まわしたりして。
彼ら以外だれもいないのに。
愉快な仕草だが、フレイもガルも笑わなかった。
「加工にかかる金を計算に入れれば、価値は五割増しだろうな」
出てもいない汗を拭いながら言う武芸者だった。
もう、そのくらいまでいくと、十万でも十五万でも一緒だ。
一生遊んで暮らせる額なのだから。
「で、マントの方は価値がわかんない。魔法の糸なんて聞いたこともないし」
やれやれと肩をすくめるミアだった。
未知の魔法素材。
そもそも値段なんて付けられるのかどうか。
フレイに向けられた視線は、問いかけている。
これ持って帰る? と。
「あきらかにヤバイよな……」
売ってお金持ちだ。わーい。
という話にはならないのである。
そもそも金貨十万枚とか、ひとつの町の年間予算と大差ない。
買い取れるとしたら、国とかってレベルになってしまう。
もうね。
厄介事の気配しかしませんよ。
「ゆーて、置いてくってのもな……」
せっかく見つけたのに放置というのも、
「そういうときには献上だ。フレイ」
悩めるリーダーに、武芸者が助け船をだしてくれた。
「む? どういうことだい? ガル」
「
と、言い置いて説明する。
ただ、あまりに高価なものだったりすると、扱いに困ってしまうというケースもある。
金に換えることもできず、かといって持っていたら同僚に嫉妬されたり。
そういう場合には、とっとと主君に献上してしまうのだ。
自分には過ぎたるものだから、と。
それはそれで、ご機嫌取りだとか言われるが、手元に厄介事のタネを抱え込むよりは、よほどマシというものだろう。
家に置いておいて、盗賊に入られたりしたら目も当てられない。
盗まれるだけならまだしも、家人に危害を加えられたら、悔いても及ばないのだ。
「したら、この場合は」
「組合を通して、領主さまにでも献上してしまうのがいいだろう」
「そーねー 鎧はともかくマントは惜しいけど」
惜しくはあっても、これ以上の知恵は出ない。
ミアの表情に未練はあったものの、諦めざるをえないのである。
「宝石類だけでもけっこうな儲けだよっ それでいいじゃんっ」
気分を変えるように、にぱっとデイジーが笑った。
とりあえず、全身鎧はバラして布に包み、いちばん力持ちのガルが背負って帰ることになった。
宝石類はデイジーの背負い袋に、竜の爪と目玉はミアのそれに入っている。
フレイといえば、ほぼ手ぶら。
リーダーだから荷物持ちはしないよーん、という理由ではない。
安全確保のためである。
ミアもデイジーも、もうほとんど魔法は使えないのだ。
彼が先行し、安全を確保しつつ仲間たちを誘導する。
帰りの道順はフレイがつけた目印によって最短距離を選択。
もし万が一、戦闘になった場合には、ガルが二人を守る。
「む?」
先行していたフレイが、逃げてゆくモンスターを確認した。
足音の大きさとちらりと見えた後ろ姿。
おそらくは
こちらの接近を悟ると、一目散に逃げ出した。
「なんだ? なにかあるのか?」
首をかしげるが、戦闘に発展はないなら、それにこしたことはない。
十字路の左右に視線を飛ばしつつ、身振りで仲間たちを呼ぶ。
慎重に、かつ迅速に。
なかなかに両立しがたい命題だが、結局のところ最大の安全策とは一刻も早く
たとえていうなら、ざーざー降りしきる雨の中で、最も濡れない方法はなにか、ということになるだろう。
答えは降ってくる雨粒の動きを見きり、避けながら歩くことではない。
とっとと屋根のある場所に入ってしまうこと。
余計なことを考えず、全速力で走って屋根の下にもぐりこむ。
あるいは、トンチの利いた答えなら家から出ない、ということにでもなろうか。
この場合なら、冒険者なんかにならない、というのが一番の最適解だろう。
ただ、フレイたちはすでに冒険者で、現在、
いまさら職業選択の是非を問うても意味がない。
上層部へと進むにしたがい、モンスターの気配がなくなってゆく。
「ありがたいことなんだけど、なんなんだべな」
「ガルの背負ってる荷物のせい、とかだったら嫌よねえ」
どんだけ厄介モノを持って移動してるんだって話だ。
「いや? 単純に
「なんでー?」
「竜の血をかぶっておるから。臭いに敏感な魔物は、怖れて近づかないのかもしれぬ」
首をかしげる仲間たちに、ガルが自説を
もちろん、たしかめる術はないが。
「このまま出口までモンスターが現れないと助かるな」
「そういうことを言ってると、出てきちゃうわよ」
「違いない。じゃ、またひとっ走り、先の様子を見てくる」
ミアとシニカルな笑みを交わし、フレイがすたたたと駈けだした。
出口までは、あとわずかである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます