5章 神に捧げる覚悟

「お兄さんはとてもびっくりしました。結婚披露パーティーがまさか、下着披露パーティーになるなんて」

「…………すみません」


 なかなかどうしておかしな方向に大盛況だったパーティーの翌日の午後。

 ずいぶんと寝坊したメルは、目覚めるなり東宮殿アナトレイのエリアルの居室に呼び出され、至極もっともな説教をされていた。窓際の椅子に座るエリアルと、机の前に気をつけの姿勢で立つメルは、傍から見ればまるで教師と生徒のようである。


「『いやあいいもの見せていただきましたアハハ』とか言うお礼の言葉もいっぱいもらったわけだがね、お兄さんはそんな破廉恥なパーティーをしたかったわけではないんだよ。そういうのは人目につかない所でひっそりやるから楽しいんだ。お前に露出の趣味があろうがなかろうがどうでもいいが、脱ぐならせめて内輪の前だけでやってくれ。ほら、今なら脱いでもいいぞ」

「いえ、そういうアレな趣味はないですっつーか脱がせようとすんな離せ!!」


 席を立ち、近くにやって来たエリアルが伸ばしてくる手を食い止めながらメルは叫ぶ。

 ぎりぎりと力比べをしていると、コンコン、と遠慮がちなノックの音が部屋に響いた。


「兄上、そろそろ説教は終わったか? メルが悪いんじゃないんだ、あんまり叱らな――って何をやってるんだ兄上まさかまたメルを」

「うわ違う! 違うからなアリス! お兄ちゃんをそんな目で見るな!」


 ぶんぶんと手を振り身の潔白を訴えたエリアルは、メルを庇うように立ったアリスの頭をぽんと叩き、わかったよ、と反対の手を出口へ振った。


「説教は終わりだ。もう行っていいぞ、メリルローズ。ま、言いたかったのはほどほどにな、ってことだけだ」

「……はい。すみませんでした」


 ぺこりと頭を下げ、アリスと共に部屋を出たメルはそれで、と傍らのアリスを仰ぎ見た。


「おかげで助かりましたけど、俺に何か用だったんですか? アリス」

「いや、用事はないけど。ていうか、用事がないから、メルと一緒に居たいなと思って」

「……そうですか。じゃあ、散歩でもしましょうか」

 無邪気に笑うアリスに、メルも笑って手を差し出す。

「? なんだ?」

「お手をどうぞ、姫君」

「……ありがとう、騎士さま?」


 差し出した手に指を乗せたアリスと顔を見合わせて笑ったメルは、アリスの手を恭しく引き、階下へと誘った。




□□□


「そろそろいい頃合じゃないかな? あの二人」

「――ッ、っと、シア殿か……」


 二人が去った後、静寂の戻った部屋に、前触れなく幼い声が響いた。

 反射的に肩を震わせたエリアルは、衝立の奥からひょこりと現れた白い子供を横目で見やり、ふうと息を吐いて言う。


「気配なく現れるのは止めてくれ、心臓に悪い」

「人の驚く顔を見るのが好きでね。特に殿下みたいな小生意気な小僧のはおもしろい」

「悪趣味な魔法使い殿だな、まったく」


 ぽすりとソファに納まった小柄な魔法使いは、驚かせた小僧の恨みがましい視線を受けてくつくつと笑った後、声の調子を改めて言った。


「予想より早いけど、ユニがそろそろ目を覚ましそうなんだ。あんまり待たせると厄介だから、僕としてはそろそろ食事の支度をお願いしたい。君の期待通り、ずいぶん睦まじくなったみたいだからね。――姫君に〝騎士〟の誓いを立てるくらいにさ」


 魔法使いの言葉と共に、部屋の中央に球体が生まれる。すぐに平たい水膜となったそれは、手を繋いで庭を歩く少女と青年の姿を鏡のように映し出した。


「……なあ、シア殿。もう少しでいい、ユニの眠りを引き伸ばすことはできないか?」


 机に腰をかけ、視線は〈水鏡〉に向けたまま、エリアルは問う。


「何だよ、殿下。ほだされたのかい? よりによって君が?」


 呆れた子供の声に肩をすくめ、エリアルはぼやくように言う。


「俺だって人間だぜ、シア殿。今さら善人ぶるつもりはないが、幸せな夢は、可能な限り長く見たいと思う性質なんだ」

「だとしたら、尚更早い方がいい。長引けば皆が辛くなるだけさ」

「容赦ねえな、使者殿は。……まあ、道理か。わかったよ」


 ふっと息を吐き、気持ちを改めたエリアルは〈水鏡〉を顎で示し、魔法使いに言った。


「アリスには余計なことを知らせたくなかったが、隠し通せるもんでもねぇしな。どうせなら〝騎士様〟にふさわしいドラマチックな演出で、役者も多い方がいい。折よく舞台に上がりたそうな奴らがいるし――こいつらにかき回してもらうとするか」




□□□


 睦まじく手を繋いで庭を散歩する若夫婦を草陰から覗きつつ、ネイプルスは困惑していた。


(俺はただメル様に暴挙を詫びたいだけなのに、なぜこんなことを……?)


 もう何度も繰り返した疑問をまた胸中で呟いたネイプルスは、こんなことをする羽目になった原因である、傍らの少女をちらりと見やる。金色の巻き毛に葉屑をつけたオペラは、乱れた髪に気付いた風もなく、怒りに燃える瞳で若夫婦を睨んでいた。


(怒り――というよりは、嫉妬か)


 色恋に鈍いと揶揄されることの多いネイプルスだが、分かりやすすぎるオペラのメルに対する敵意から、彼女がアリステアに恋慕を抱いていることは容易に知れた。しかし意外なのは、オペラもまた、ネイプルスが語った顛末を聞き、あっさりと「メリルローズ様に好意を持っているの? 悪趣味な男ね」と判じたことだ。ピンと来ず、否定も肯定もできなかったネイプルスを、オペラは勝手に自分の協力者と見なしたらしい。だからこそ、こうして強引に覗きの真似事に付き合わされているのだが、ネイプルスは今もってなお、自分の気持ちがよく分かっていなかった。


(たしかにこうしてお二人を間近で見てみれば、少しばかり胸が痛むような――アリステア様に代わり、メル様の手を引く役目を担いたいよう……な……?)


 そこで、胸中と目の前の光景との差異に気付き、ネイプルスは首を傾げた。睦まじい若夫婦は、なんだか微妙に普通と違った。


「……何だかおかしくはない? 何であの女……いえ、メリルローズ様が、アリステア様をエスコートしてらっしゃるのかしら」

「ああ、なるほど」


 言われてやっと気がついた。それが違和感の正体だったのだ。

 メルは、常にアリステアの前を歩いているのだ。ただ先に立ち急かしているというわけではなく、アリステアの歩幅を計算し、足元を気遣ってゆっくりと歩いている。まるで貴婦人を誘うように、恭しく手を引いて。対するアリステアは照れくさそうに、けれどどこか嬉しそうな風情で、時折顔を見合わせては二人で笑っている。だから、わざとふざけて男女の立ち位置を逆にしているように見えないこともない。見えないこともないがしかし、噴水に至った二人の会話は、更に彼らの謎を深めるものだった。


「やっぱり――何だか妙じゃないか? これは」

「そうですか? 俺は気にならないですけど」


 アリステアを噴水の淵に座らせて、自分は立ったままのメルは首を傾げる。


「だって、私は夫で、君は妻だぞ? 奥さん」

「でも、俺は騎士であなたは主君ですよ、姫君」


 つんと言い合う二人だったが、すこしの間のあと顔を見合わせた彼らは結局、一緒に肩を震わせる。なるほど睦まじい。それはとても結構であるが、しかし。


「……意味がわからない会話ですね」

「まったくもって意味がわからないわアリステア様はどうしてあんな一人称が俺なはしたない方とああもいちゃいちゃいちゃいちゃと」

「………………」


 嫉妬に我を忘れているらしいオペラの同意を得るのを諦めたネイプルスは、そっと、しかし深いため息をついた。




 しばらくの間、噴水で他愛のない話をしていた若夫婦だったが、やがて立ち上がり、元来た道を戻って行った。相変わらず、手を引くのはメルの役目らしい。


 ネイプルスとオペラの潜む茂みの前を通り過ぎる時、彼らは開けっぴろげだった声を初めて潜めた。


「じゃあ、今夜また、ユニの泉で」


 道ならぬ逢瀬の約束のように言い合って別れた夫婦の、双方の背が東宮殿アナトレイを離れたのを見届け、ネイプルスはようやくほっと息をついた。とりあえず、何かを疑っているらしいお嬢様の気は済んだのだろうかと隣を見れば、嫉妬に燃えていたオペラの瞳は、今度はそこに好奇心も交え、爛々と不吉な光を放っていた。


「ユニの泉…… 〈神宮殿サンクチュアリ〉ね!? 相手にとって不足はないわ!」

「……そうですか。お気をつけて」

「何を言ってるの、あなたも来るに決まっているでしょう!」

「…………」


 一応しらばっくれてみたが、やはり駄目らしい。


「……い、せんぱーい! 謹慎中なのに俺にアリバイ工作させて勝手にあちこち出歩いてるネイプルス・スカラー先輩―――――!」


 深くため息をつくネイプルスの耳に、遠くから呼び声が響いた。顔を向けると、何やら包みを持ったスノウが空いてる方の手を振りながら、こちらへ走ってくるのが見えた。


「何の用だ、スノウ」


 近くまで来たスノウは、ぜえはあと息をしながら手に持った包みをネイプルスに差し出した。


「いや、なんか、訓練から宿舎に戻ったら、いきなりこれが部屋に置いてあったんすよ。宛名が先輩なんですけど、でも何故か〝絶対に開けるな〟って書いてあるんです。何ですかね、これ。盛大なフリっすかね?」

「……差出人は書いてないな。開けるなというからには開けなければいいんじゃないか?」

「えっ先輩なにそれほんとつまらない男ですね! 開けるなと書いてあれば開ける、読むなと書いてあれば読むのが真のおと」


 べり。


「あ」

「何かしら? これ。本……のようだけれど、ずいぶん古いわね」


 オペラが勝手に開けた包みの中には、紺色の表紙の本があった。

 さすがに開くなとは書いていなかったそれを、頓着せずにオペラは開く。つられるように、ネイプルスと、そして何故かスノウも、金色の巻き毛ごしに古びた本を覗き込んだ。そして、そこに記されていた内容に、揃って目を瞠ることになる。




□□□


 ユニの泉に訪れたのは、今夜はメルが先だった。

 いつも通り、泉の淵に腰かけてアリスを待つ。しかしメルはすぐ、奇妙な違和感に眉をしかめた。妙に静かなのだ。


(音が……しない?)


 いつもは微かに響いている水音が今日はしない。

 訝しく思い泉を見下ろす。そしてメルは目を瞠った。思い切り手を伸ばしても届かないほどに、水面が遠くなっている。


(ユニの力が弱まっているのか……?)


 それはつまり、刻限が迫っているということだ。メルはぞくりと背筋を震わす。ユニを生かすか、アリスを生かすか。その二択を迫られているような気分になったからだ。


「メル、お待たせ。ごめん、ついシェンナと長話を――……って、どうした? 何か落としたのか?」

「――アリス。いえ、何でもないです」


 慌てて笑顔をつくり泉から距離を取るが、アリスは水面の低さに気付いてしまったようだった。明るかった表情が瞬時に曇る。


「……泉の水、ずいぶん少なくなってしまったな。水脈は大丈夫だろうか。気になるな」

「……大丈夫ですよ。シア様もいらっしゃいますし、きっとすぐに戻りますよ」


 目を伏せて、メルは嘘をついた。

 ユニの力は、このままでは戻らない。糧を得なければ、ユニはこのまま死ぬ。それはすなわち、このフォルベインの終わりを意味している。


(でも――だからこそ、アリスには知られちゃいけない)


 神が死ぬ。水脈が枯れ、土地は乾き、国が滅んで人が死ぬ。

 頭ではわかっていても、メルにとってそれらはまるで実感のわかない、ただの言葉の羅列に思える。けれど、アリスが居なくなる。そのことだけは、胸にしみるように真に迫って感じられた。だからこそ、隠し通さねばならない。彼女を失わないために。


「――メル? どうした? 元気がないな。眠いのか?」

「いえ。何でもないです。元気ですよ、俺は。体力だけが取柄なんで」


 心配そうにメルの顔を覗き込むアリスに首を振る。


「そうか……? ならいいんだけど」

「ええ。大丈夫です」


 笑って頷き、地面に置かれたアリスの手にそっと触れて、持ち上げる。指先がすこし冷たい。それでも手の平はあたたかく、命の温もりを宿していた。


「メル?」


 きょとんと問うアリスを無視して、捕らえた手に唇を寄せた時、視界が上下にぶれた。次いで襲う一瞬の脱力感をこらえ、瞼を持ち上げる。本来の姿に戻ったアリスと、すっかり包めるようになった小さな手が視界に入った。目を伏せて唇を寄せ、やわらかな手の甲に口付けを落とす。すると、戸惑うように指先がぴくりと跳ねた。


「メ、メル……? えっと、その……どうしたんだ? やっぱり元気がない……けど……」


 狼狽した声に視線を上げれば、頬を赤くしたアリスが、それでも心配そうにメルを見ている。その頬に、メルはほとんど無意識に手を伸ばした。

 ――その時だった。


「うっわぁああだめですって先輩ぃぃいオペラ様ぁあああ!! そんな本きっと嘘っぱちのいたずらですから! いきなり本人に見せるとかかなりの嫌がらせですからぁあああ!!」


 静寂を破り響いた意外すぎる声に、メルとアリスはそろってびくりと肩を震わせて、ばかでかい声の発信源へ首を向けた。


「ス――スノウ!? それにネイプルスに……オペラまで……!?」

「――まさかあなたは……メル様? その姿は……それに、そちらの女性はまさか……」


 泉を挟んだ対面で、ぽかんと口を開けている背の高い影はネイプルスだった。その背にしがみつくようにして半泣きになっているのはスノウで、傍らで絶望したように唇を震わせているのはオペラだ。彼女はネイプルスの言葉を引き継ぐように呆然と呟いた。


「……あなたは――アリステア様……ですか?」

「……っ、この人は……!」


 オペラの言葉にはっとしたメルは、アリスを背に庇うようにして三人の目から隠した。しかし、すでに遅い。顔を真っ青にしてふらふらと泉の淵を歩んだオペラは、身を固くしたメルの眼前で立ち止まり、メルの背後のアリスに震える声で問いかけた。


「アリステア様、ですのね? アリステア様は女性で、アリス様で……『神に所望された娘サクリファイス』なのですね?」

「何故それをあなたが知って――……!?」


 言葉の途中で、メルははっとする。オペラの持つ紺色の表紙の古びた本の存在に気付いたからだった。あれは、メルがシアに見せられた〝記録〟だ。いつの間にかメルの部屋から消えていたものだが――どうしてあれをオペラが持っている?


「メル……? あの本がどうかしたのか? ……『神に所望された娘サクリファイス』とは、何だ?」


 メルの視線を追って本に気付いてしまったらしい。

 問いを発したアリスに、メルはぎくりと背筋を震わせ、オペラは丸く目を瞠った。


「……ご存知なかったんですの?」

「知らない。私はたしかにアリスで……女だけど。『災厄の子』であって、『神に所望された娘サクリファイス』ではないはずなんだか。その本に何か書いてあるのか? ちょっと見せてくれ」

「――駄目だ、アリス!」


 メルの背から抜け出し、オペラの持つ本に手を伸ばしたアリスを、腕を掴んでとっさに止める。振り返ったアリスは、困ったように眉を寄せて笑った。


「メル。君は何を知ってるんだ? 夫婦の間で隠し事はよくないぞ」

「……駄目です。だって、それを見たらあなたは、」

「……なんだろうな。私はつくづく、人にそういう顔をさせてしまう存在のようだ。父上にも母上にも、兄上にも――君にも。その理由があるなら知りたい。でないと私は、自分で自分を本当に、疎んでしまいそうになる」

「アリ、ス……?」


 青い瞳を初めて疲れたように翳らせるアリスに、彼女を留める腕が緩んだ。その隙をつくようにアリスはメルの指を振り切り、オペラの持つ〝記録〟に手を伸ばす。


「……っ、や、やっぱり、これはっ……!」

「悪いな、オペラ。もう借りた」

「――……っ」


 はっとしたオペラが思い直したように本を抱こうとした寸前、アリスはひょいとそれを取り上げてしまった。ぱらりと軽くページを捲ったアリスは、無言のままに視線だけを左右に動かした。ページを繰るごとに、アリスの表情はどんどん静かになってゆく。メルはそれを見守ることしかできなかった。


「――……なるほど、な。そういうことか」


 永遠にも感じられる、実際には数分であっただろう時間の末にぱたんと本を閉じたアリスは、噛みしめるようにゆっくりと呟いた。


「何となく、不自然だとは思っていたんだ。みんな、私を真実から守ろうとしてくれていたんだな。……なんだ、逆だったのか。女であるから迷惑をかけるのかとばかり思っていたが……女であるからこそ、果たせる役目があったのか」


 すでに決意を固めてしまったような物言いをするアリスに、メルはゆるゆると首を振る。


「だめです、アリス」

「教えてくれてありがとう、オペラ。やっと自分の役目を知ることができた。……これでやっと、荷物以外のものになることができる」

「だめだ!」


 叫ぶメルを、アリスは困ったように振り返る。その表情は、やはり笑顔だった。


(……考えろ。考えるんだ。どうすればいい? どうすればアリスを止められる……!?)


 ――手は打っている。エリアルは言った。何かあるのだ。アリスを止める方法が。だがそれは、一体どんな。


(俺に……気付けとあの人は言った。鍵を握ってるのは、俺なのか? だけどこの状況で、俺になにが出来るって――)


 無意識に握りこんだ指が地面を抉る。自分のもののはずなのに、今や多少の違和感を感じる骨ばった手の甲を見つめ――そこでメルははた、と気がついた。


「――……あ、そっか。なるほどなるほど」


 言葉とは裏腹に、むしろきょとんとした心地で顔を上げて、メルはぽん、と手を打った。


「へ?」

「そうか、そうだな。考えてみりゃ単純なことだ。何だよ、ほとんど答え言ってんじゃねぇか、あのひと」

「メ、メル? どうしたんだ?」


 一瞬前の悲壮な感じはどこへやら、唐突にのん気にひとり言を呟き始めたメルに、アリスは笑顔も決意もすっ飛ばした呆けた顔で首を傾げた。拍子抜けしたのかもしれない。


「ああ、いえ、はい、大丈夫です。持ち直しました。俺が行きます」

「い、行くって、一体どこへ――……」

「――その言葉、たしかに聞いたぜ、メリルローズ」

「兄、上……?」


 アリスの疑問を遮ったのは、吹き抜けの二階から階下を見下ろすエリアルだった。


 顔を上げると、視線がかみ合う。笑みを刻んだ口元とは裏腹に眇められた青い瞳に、メルはどうしてか共犯じみた気持ちになって、ふっと肩を竦めて息を吐く。

 それに苦笑で返してから、エリアルは自分を見上げる階下の全員に、顎で階段を示して言った。


「とりあえず、場所を変えろ。説明はそこでしてやる」





 一同を上階の広間へ誘ったエリアルは、向かい合わせに置かれた大きなソファを示して適当に座れと横柄に言い、自分は閉めたばかりの扉に背を預けた。おずおずと腰をかけたのはオペラとスノウで、ネイプルスは彼らの背後に控えるように立った。広間の隅には、あらかじめ呼ばれていたのだろう、シェンナとアンバーの姿も見える。


「兄上。説明って何だ? 私が『神に所望された娘サクリファイス』だと隠していたことか?」

「まあ、座れ、アリス。メリルローズも」


 訝しげな目を向ける妹にエリアルは苦笑する。


「座りましょう、アリス。長引きそうな話ですから」

「うん……」


 メルも合わせて促すと、納得いかない顔をしながらもアリスはソファに腰をかけた。メルもその隣に座る。

 落ち着いた一同を見渡して、エリアルはさて、と口を開いた。


「ここに居るのは大なり小なり秘密に触れた連中だ。とりあえず知る権利はあるだろうから、最初から説明するぜ」


 言い置いて、エリアルは事の起こりから、かつて東宮殿アナトレイの居室でメルに語ったものと同じ話を全員に――主にはアリスにむけて、もう一度語った。『災厄の子』の嘘の理由、『神に所望された娘サクリファイス』、そしてユニの〝食事〟の条件について。


「――ってことで、アリスはアリステア王子になりました、と。俺の話は以上だが、質問はあるか?」


 短くはない話を聞き終えてなお静まり返る広間を見渡し、エリアルは問う。考えこむような沈黙の末、最初に口を開いたのはアリスだった。


「私の話はわかった。それはいい。それで、いつ出てくるのかってずっと待ってて、結局最後まで出てこなかったんだけど……メルは、どうしてなんだ?」

「俺もそれが疑問でした」


 アリスに続き、ネイプルスも声を発する。


「アリステア殿下の――アリス様の性別の逆転と、メル様の逆転。それらは別の理由に基づくものでしょう。なのに、どうしてエリアル殿下はそれを交差させようと思ったんですか? そもそも――どうやって、精霊によるメル様の変化を知ったんです?」


 ちらりと壁際を窺い見たエリアルは、そうだな、と二人の質問に答えを返した。


「メリルローズの呪いの件は、一言で言や狂言だ」

「きょ――狂言?」

「そ。シア殿はユニの眷属だから、ユニの化身たる精霊とも知己だ。特にメイズ村の精霊はお調子者のじじいだったし頼み事は容易かった。ローズの住処は親父が知ってた。本名でないにしろやり取りした手紙が残ってたから、メリルローズの存在を俺が知ることも簡単だった」

「じゃあ、兄上が――兄上とシアが、メルの体を女に変えたのか? 何でだ? 何のためにそんなこと――」


 言葉の途中で、アリスははっと息を飲んだ。まさか、と目を瞠る。


「まさか、兄上。兄上は、メルを――私の身代わりにするつもりか……?」


 その時、壁に掛かった時計が音を三つ鳴らした。一瞬の揺らぎの後で、夜着がすとんと緩くなる。瞠目したままのアリスの体も男に変化した。『神の眠る時ロードロス』が終わったのだ。


「――さて、時間が来たな。シア殿、頼む」

「はいはい。やっと出番だね」


 どこから現れたのか、白いフードの魔法使いは、いつの間にかアリスの背後に立っていた。驚いたアリスが振り向くその前に、ぱしゃんと微かな水音が響き、アリスの体がずるりと傾ぐ。倒れてきた頭をそっと自分の膝に乗せたメルは、銀色の髪に視線を落とし、ため息交じりに口を開いた。


「……精霊の声を聞ける王族の血、アリスとの不自然な婚姻。考えてみりゃ簡単なことだったんですけどね」

「予想外に全然気付かなかったよな、メリルローズは。バカなのか? お前」

「うっさいですよ。王族の自覚も女って自覚もなかったもんで気付くのが遅れたんです。今となっては俺は立派な〝王族の娘〟だったんですね。あんたも最初からはっきり言えばいいのに」


 呆れて睨めば、エリアルは言い訳のように肩を竦めた。


「そこが面倒くせぇ所なんだよ。ユニの糧になりえるのは〝命を捧げる覚悟のある〟娘だけだ。お前が自発的にユニの元へ赴こうと思わなけりゃ意味がないんだよ。覚悟なんて強制できるもんじゃねえし、最初から言ってたら、おまえ絶対アリスと関わろうとなんてしないだろ」

「そりゃそうかもしれませんけど。じゃあ逆に、何も知らせずに時を置けば俺が覚悟を持つって根拠があったんですか? えらい確信に満ちた動きしかしてませんけど、あんた」


 問えば、エリアルは何故か得意げにふふんと笑った。


「そりゃそうだ。アリスを知って、惚れない男なんて男じゃねえよ」

「……さてはバカですねあんた」

「うるせえ。結果的に当たりだったじゃねえか」

「ちょ、ちょっと待って! 待とう!? なんだか普通に会話してるけど、メル、大丈夫わかってる!? メルは娘じゃなくて男だよ!? いいの!?」


 淡々と皮肉を応酬するメルとエリアルに、珍しく静かだったスノウがついに声を上げた。

 必死に抗うようなスノウの問いに、しかしエリアルは軽く答える。


「本来の性別がどうこうって指図は受けてない。ユニの出した条件は〝命を捧げる覚悟を持つ王族の娘〟をよこせってことだ。体が女ならいいだろ、たぶん」

「……その理屈でいくと、あなたでも条件を満たせるのではないですか? エリアル殿下」

「ネイプルス、だっけ? お前あれか、そんなくそ真面目な騎士面しといて自国の王子様に死ねってか」


 エリアルは半眼で生真面目な騎士を睨んだ。そこに魔法使いが口を挟む。


「殿下も最初はそれを聞いたじゃないか。ただ、ユニの糧になるには殿下はあれだね、ちょっと汚れてたね。生贄は純潔な体が大前提だから」


 シアの言葉に、スノウは目を剥いて叫んだ。


「な、な、なんで皆してメルが童貞って知ってるんだーーーーー!!」

「うっせえ黙れスノウ!」

「ちなみにエリアル様の初体験は年上のみぼうじ」

「黙れ毟るぞアンバー!」


 バカ二人を同時に黙らせた後、とにかく、とエリアルは言った。


「お前はアリスの騎士になったんだろう、メリルローズ。なら、その覚悟をユニに示してアリスを守れ」

「あんたに命令されると行きたくなくなりますけどね。……アリスが目覚めれば自分が行くと言うでしょう。だったら仕方ないですね」

「……ユニに嘘はつけないよ。強がり、ではないね?」


 膝の上で眠る、あどけないアリスの顔を目に焼き付けるようにじっと見つめてから、メルはゆっくり瞼を閉じた。そして笑う。


「騎士の誓いに偽りはなし、ですよ、魔法使い殿」

「――なるほどね。いい男になったじゃないか、メル。……いいだろう、合格だ。ユニの元へは僕が導く。ついておいで」


 頷いたメルは、アリスの頭をそっとソファへ下ろしてから、扉へ向かう魔法使いの後を追った。その背に、スノウの涙声が届く。


「メル、何、何なんだよ! お前、死ぬつもりか!? 俺はそんなの認めないぞ!!」

「主君のために命を懸けるは騎士の本分、だろ。……命を懸けて戦うのが、さ」

 苦笑まじりに軽く言ったメルは、言葉の最後で笑みを消し、静かに部屋を出て行った。



「……さて、じゃ、アンバー。こいつらきっちり見張っとけよ。事が済むまで部屋から出すな。シア殿が戻ったら記憶ごまかしてもらうから」


 ほとんど体格の変わらない、今は男の妹を抱えたエリアルは、そう言い残して微妙によろめきながら広間を出て行った。外から鍵のかかる音がして、足音が遠ざかる。それが聞こえなくなってから、スノウはぽつりと呟いた。


「やっぱり……やっぱりこんなのってないよ! メルが童貞なばっかりにこんな……!」

「………………」

「………………」

「うわあ駄目だもう突っ込みすら入らない! どうしよう色々と限界! 俺静かなのだめなんだよー!! 戻ってきてメル————!!」


 頭を抱えて喚くスノウの横で、ずっと視線を伏せて黙り込んでいたオペラが、乾いた声でぽつりと呟く。


「……私のせいですわ。私が嫉妬にかられてアリステア様に全部をばらしてしまったせいでこんな……!」


 別にそれだけが理由でもない気がするが、オペラはすっかりそう思いつめているようで、蒼白な顔のまますっくとソファを立った。


「……なんとかしないといけませんわ。なんとかしないと。でないと、アリステア様に申し訳が……」

「駄目ですよ、オペラ。エリアル様の言いつけですから」

「……マーチン兄……あなた、どうして……」


 ぶつぶつと呟きながら扉へ足を向けるオペラの前に立ちふさがったのはアンバーだった。

 珍しく真面目な顔で眼前に立つアンバーに瞬くオペラの問いに答えたのは、静かに広間を見守っていたシェンナだった。


「……あなたは全部知っていたんですね、アンバー。あなたと同じ女の股から生まれたわが身を呪います。エリアル様の言いつけには何だろうとほいほいほいほい従って」

「だってエリアル様こわいから、じゃなくて、あれでも一生懸命なんだよ、あの人は。アリス様を助けたいってそれだけでさ。君だってそれは同じだろ、シェンナ。それともメリルローズ様を助けてアリス様を死なせるのが正しいっていうのか?」


 歩み寄った妹に、アンバーは困った顔で言い聞かせるように話した。

 そうですね、とため息と共に言ったシェンナはしかし、次の瞬間、兄の細く量の少ない髪の毛を毟る勢いで掴み上げ、背後のドアに叩きつけた。目を見開いて咳をするアンバーに、低く平坦に告げる。


「……バカがどこかで聞いたような理屈を捏ねる。あなたのそういう、最後の最後に正論を述べる小賢しいところが本当に腹立たしいんですよ、お兄様」

「へぶ!?」


 言い終えるやいなやアンバーの鳩尾へ膝を叩き込んだシェンナは、がくりと崩れる兄の髪の毛は掴んだまま背後に立つオペラを振り向き、扉に手をかけながら言った。


「行きますよ、オペラ。アリス様の意見を聞きもしないで、自分勝手な男どもだけに事態を任せるわけには行きません」

「……ええ。行きましょう」


 頷いたオペラを目の端に捕らえ、シェンナはぐっと勇ましくノブを押した。

 ガチリ。


「………………」

「ああ、そういえばあの殿下、外から鍵かけてたよね……」


 微動だにしないノブをガチガチガチガチと鳴らし続けるシェンナに控えめに突っ込みを入れるスノウの後ろで、すっと風が動いた。


「ネイプルス先輩……?」

「手伝え、スノウ。扉を破るぞ」


 シェンナを脇に退かせたネイプルスは長い足を伸ばし、ガン、と木目の浮いた扉を蹴り飛ばした。強い衝撃に両開きの扉がたわみ、一瞬だが隙間が見える。なるほど、二人がかりで体当たりを繰り返せば、破れないことはなさそうだった。


「先輩、俺、先輩のことただの変態だと思ってたけど、今初めてかっこよく見えたっす……!」

「………………そうか」


 ネイプルスは一瞬複雑な顔をしたが、それ以上は何も言わず、扉に肩をぶつけはじめた。




□□□


 小さな魔法使いが長い袖に隠れて見えない腕をすっと払うと、ただでさえ低かったユニの泉の水位はみるみる下がり、ついには一滴の水もなくなった。


「これが〈神へ至る階ロードステイル〉、ですか……」


 もはやすっかり空洞となった泉を覗き込みながら、メルはひとり言のように呟いた。


 底が見えないと思っていた泉には、文字通り底がなかった。いや、きっと、あるにはある。泉の淵をぐるぐると、まるで灯台の螺旋階段のように、ただし下向きに巡る階段を下りきった先には。ただそれが、ここからは見えないほどに遠くにあるというだけだ。


「そうだよ。言葉より、あんまり色気はないけどね。天然ものだから」

「天然?」

「そう。この泉だけは最初からここにあったものだからね。神殿や宮殿は後から人間が建てたものだけど」


 ユニにこういう美的センスはないんだよと言いながら、シアは階の最初の段に飛び降りる。最初に会った時と同じく魔法を使ったのだろう、子供の身長よりよほど低い位置にあるそこに、シアは危うげなくふわりと降り立った。シアが段の先に降りるのに続き、メルもぴょんとそこに飛び乗る。ただの土塊で出来た階の幅は狭く、手摺もない。たたらを踏んで壁に手をついたメルを振り返ったシアは、ああそうだ、と思い出したように呟いて、メルに向かって腕を払う。


「うわっ」


 ぱしゃんと水に包まれたような感覚に思わず顔を振るが、顔も髪も濡れてはいない。ぺたぺたと触った体も濡れてはおらず、怪訝に見下ろした視線の先、纏っていた夜着は袖のない、白い簡素なドレスになっていた。妙にすかすかする気がするのはきっと下着をつけていないせいだろう。


「なんですか、これ」

「寝巻きじゃユニが怒りそうだからね。女にはうるさいんだよ、彼」

「……なんか、あの、透けてないですか? いろいろ」

「大丈夫、見えそうで見えないギリギリの線を狙ってるから。しかし君もけっこう気にするようになったね、小娘らしく」


「いやそれは女というより人として」


 言いながらも、落ち着かない気持ちを静めようと、無意識に腰に手を伸ばす。だが、伸ばした手は空を切り、自身の細い腰骨に触れるだけだった。


(……剣が欲しかったな)


 背を向けたシアに続いて階を下りながら、メルはふと思う。

 だって、メルはこれから彼女の〝騎士〟として、戦いに赴くのだから。





□□□


 目覚めると、そこは見覚えのあるベッドの上だった。


「……ここは……私の部屋? 私はあれから……」


 半身を起こし数度頭を振る。朦朧としていた意識が戻り、アリスははっと顔を上げた。


「メル……メルは、どこだ!?」


 閉まっていたベッドの天蓋をあわてて開いたアリスを見て、窓際に座っていた影がゆっくりと腰を上げた。


「メリルローズはユニの元へ行った。そろそろ着いてるんじゃねえかな」

「兄上……あなたは……っ!」


 ベッドに歩み寄る、窓から差し込む月明かりを背に受けて表情の見えない兄をぎりりと睨み、アリスは呻くように低く言った。


「あなたは、メルを私の身代わりに……! 最初からそのつもりだったんだな。そのつもりで彼を私の妻にしたんだな!? メルの命を強引に利用するつもりで!」

「それは違うぜ、アリス。あいつはお前の騎士としてお前を守るために行った。俺はお膳立てはしたが強制はしていない。したくても出来ないさ。魔法だって人の心は動かせない」

「でも……私は、そんなこと……っ!!」


 声を荒げるアリスに反してエリアルは冷静だった。アリスの非難も憤りも、すべて予想の範疇だったというように。

 感情の読めない静かな声で、エリアルは続ける。


「お前はあいつを自分の騎士と認めたんだろ? アリス。だったら受け入れてやれよ。メリルローズの……メルの、お前のために定めた覚悟を」

「いやだ」

「……アリス」

「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! だって、私はもっと、もっとメルと一緒に居たかったんだ。私の役割を肩代わりしてほしかったわけじゃない、私のために死んでほしかったわけじゃない!」


 ぼろぼろと涙が落ちる。

 感情は昂ってぐちゃぐちゃで、理論だった思考はできない。ただ、悲しかった。寂しかった。覚悟なんていらない。自分の前から居なくなってしまうならそんなものはなくていい。


「なんで、私はいつも何もしらないで、置いていかれるばっかりなんだ? 父上も母上も兄上も、会いに来てくれたってすぐにまた帰ってしまうし屋敷の人だってすぐ居なくなって、シェンナだっていい年なんだからいつまでも私の面倒ばっかり見させてちゃかわいそうだし、そういうのはわかってるけどでも寂しくて」

「いやいい年って怒られるぞ、アリス、シェンナはまだはた」

「でも、メルはずっと……傍にいるって言ってくれたんだ」


 ひっく、としゃくりあげたアリスは、それきりぴたりと黙りこんだ。嗚咽の声だけが暗い部屋に響く。


「……アリス」


 ひどく困ったような声で、兄はアリスに呼びかけた。だがアリスは首を振る。もう何も聞きたくない。メルが居ない。何もできなかった。その二つだけで、アリスの心は許容量を越えていた。


 頑なに顔を上げないアリスを途方に暮れたように見下ろしたエリアルがもう一度妹の名を呼ぼうとしたその時、居間の扉がコンコン、と叩かれる。


 はっと顔を上げたエリアルはすぐに眦を鋭くし、静かに扉へ歩み寄った。


「……誰だ」

「え、エリアル様~。すみません、逃げられちゃいました……」

「アンバーてめえほんっとうに役に立たねぇな!? 毟るまじ毟る――……ガッ!?」

「…………??? あにうえ……?」


 扉が開く気配の後で急に途切れた声と、同時に聞こえた鈍い音にきょとんと顔を上げたアリスはベッドを降り、涙に濡れた顔を手近にあった肩掛けで拭いながらよろよろと扉へ歩んだ。


「うわあああエリアル様すみません脅されたんですでも逃げられたのはうそじゃないですからぁああっていうか血が! シェンナ君ちょっとやりすぎ!?」

「意外と人の頭というのはすぐ割れるものなのですね……早く治療しないと手遅れになりますよ、お兄様」

「……シェンナ? それに……オペラまで」


 ぽかんと瞠ったアリスのすっかり赤くなった目に映ったのは、戸口にできた血溜まりと、その上にぶっ倒れている兄、そして兄に取りすがるアンバー。加えて太い棒切れを肩に担いだシェンナと、泣きそうに瞳を潤ませてこちらに駆け寄ってきたオペラの姿だった。


「あ……アリステア様!」


 倒れた兄の上をひらりと飛び越えてアリスに抱きついたオペラは、潤んだ目からぼろりと大粒の涙を零して唇を震わせて、ごめんなさい、と小さく言った。


「……いいよ。知らずにはすまないことだったし、君の好意を踏みにじったのは確かだから」


 柔らかい頬に落ちる涙を拭って笑うと、オペラは濡れた頬をぽっと赤くした。


「そっ、それはアリステア様のせいじゃないですわ、その……あの……」

「アリス様、女の子をたらしている場合ではありません。急ぎませんと」


 もじもじしはじめたオペラの脇を抜け、アリスの腕を掴んだシェンナは、さあ、と廊下に向かって歩き始めた。


「へ? おい、シェンナ、どこへ……」


 あわてて問うアリスを少しだけ振り返り、シェンナはほんの僅か口角を上げて言った。


「決まっているでしょう、アリス様。手間のかかる奥様を……いえ、騎士様を助けに、です」





□□□


 〈神へ至る階ロードステイル〉を下り始め、どのくらいの時間が経っただろうか。


 一向に果てる気配のない階を進みながら、メルは一定の速度で前を歩み続ける小さな背中に声をかけた。


「……長い階段ですね」

「そうだね。慣れればそうも感じなくなるが……初めてここを通った時は、僕も果てなく感じたよ。明かりもなかったし、この暗闇と階段が無限に続くんじゃないかってね」

「シア様が初めて通ったのは、魔法使いになるためですか?」

 この階を自分の足で下るのは禊の一環らしいが、それにしたって長すぎる階段に飽いていたのと、高まる緊張をごまかすのとの両方の気持ちから問いを投げると、シアはしばしの間の後、思いがけない答えを返した。

「ちがうよ。神をぶっ飛ばしたかったんだ。君と同じだよ」

「えっ!?」


 見透かすようなことを言われぎくりと身を強張らせたメルに、シアは背中だけでくつくつと笑った。


「実のところ、君の気持ちはよくわかる。……僕もあの時は見た目通りの子供でね。ただ一人を犠牲にすればいいと考える周りの奴ら全てに憤ってた。受け入れる本人にもね。だから僕はこの階を下った。――それがまさか、こうなるとは思わなかったけど」

「シア様……?」


 顔の見えない魔法使いの表情がそれでも気になり、窺うように名を呼んだその時、下ろした足が段とは違う感触を拾った。顔を上げれば、ここは暗い泉の底らしい。ぽっかりと丸い空間はごつごつした岩場に似て、その奥に一本だけ、闇が裂けたような道があった。


「さて、着いた。この道の先がユニの居城さ。――さあ、どうぞ、『神に所望された娘サクリファイス』の騎士」

「――……ご丁寧にどうも、小さな魔法使い殿」


 皮肉げに発された呼称に皮肉で返し、自分を鼓舞するように口角を上げたメルは、先の見えない細い闇へと一歩を踏み出した。ぱたり。間抜けな音が闇の中に響く。


「……?」


 訝しく思い視線を下げる。そこでメルは、自分の足がひっかけているのが、いつか靴擦れをした際にアリスが持ってきてくれたふわふわのスリッパだったと今更気付き、ふっと軽く吹きだした。緊張が解け、肩が軽くなる。顔をあげ、よし、と一つ息をつく。


 改めて踏み出した足が闇に入るその直前、背後からどさりと大きな音がした。




「し……しぬ……これはきっと死んでしまう……なんか出た……」

「おい、スノウ。大丈夫か? 剣は無事か?」

「うっわあ先輩ひでえや! 時間ないから飛び降りるって言ったの自分のくせに何で俺が下敷き!? 俺の方が小さいのに何で俺が先に落ちたの!? 理不尽! 重力すら理不尽!」

「お前ら……な、なんでここに……!?」


 会話から察するに泉の上から果敢にダイブをかましてきたらしいスノウとネイプルスに、メルはしかし突っ込む気持ちもわかず、ただ呆然とそう問いかけた。

 普通に立ち上がったネイプルスと手にした長い棒を支えによろよろと立ち上がったスノウを交互に見て、結局メルは無言で呆ける。そんなメルによちよちと歩み寄ったスノウは、手にした棒を真っ直ぐに差し出した。


「これ……なんだ?」

「何だって、剣だよ、剣。親父さんからもらったお前の大事な剣!」

「だって、え? なんでお前らが……?」

「主が不在のところ申し訳ないが、勝手に部屋から持ってきた。女性の寝室をあさるのでは気が引けるが、メル様はどうやら男性のようなのでまあいいかと」


 それは性別とかそういう問題でもない気がしたが、今の論点はそこではなかった。


「どうして持ってきてくれたんだ? こんな所まで?」

「どうしてって、メルは戦うために来たんだろ? 友達だもん、それくらいわかるさ!」


 当然のように片目を瞑ってスノウは笑う。対してネイプルスは生真面目に言った。


「俺はまだ詫びていなかったので。乱暴な真似をして申し訳ありませんでした」


 ぽかんとしたメルに折り目正しく頭を下げたネイプルスは、その後でぽつりと言った。


「まあ男だったからべつにいいかな今更という気もしますけど」

「うん……まあ、そうだな。ええと……つまり、あれだ。お前たちは俺を応援してくれてるってことか? 俺はユニと……この国の神と戦おうとしてるのに?」


 間抜けに口ごもりながら問いかけるメルに、スノウとネイプルスは顔を見合わせた後、


「あんまり深く考えてなかったけど、メルは友達だし」

「まあ多分そういうことです」


 と軽く頷いた。

 気の抜けた返答に吹きだし、メルはようやく向けられたままだった剣を受け取る。


 メルの耳に、呆れたような面白がるような低い声が届いたのは、その時だった。


「……やれやれ。騒がしい〝食料〟だな」


「――……ッ!?」


 ばっと声の出所を振り返る。それは、岩の裂け目のような闇の奥だった。


「メル? どうした?」

「何か聞こえましたか?」


 不思議そうな二人を見るに、声を聞いたのはメルだけのようだった。――いや、もう一人。まいったね、というように息を吐いた小さな魔法使いもだ。


「起きちゃったみたいだね。やれやれ、機嫌が悪そうだ。めんどうくさいなぁ」


 肩を竦めた魔法使いは言うやいなや、メルに向かって腕を振った。とたんに出現した水の塊が、瞬時に波となってメルを裂け目に押し流す。


「メ、メル——————!?」


 慌てたように叫ぶスノウの声を聞きながら、メルは闇の奥へと体を沈めた。





□□□


 ――びしゃり。


 水揚げされた魚のように、メルは地面に放りだされた。


「……さむい……」


 今回の魔法はどうやら本当に水だったようで、剣にすがりながらずるずると体を起こしたメルの体はしとどに濡れていた。


「なかなかいい格好だな。『神に所望された娘サクリファイス』、アリス・フェルト・フォルベイン――って思ったけどお前誰。ちがくね? アリスちゃんじゃなくない?」

「は――……?」


 上から降ってきたのは、艶のある低い、だがずいぶんと軽い調子の男の声だった。


 濡れて顔にはりつく髪を払いながら見上げた先に居たのは、素朴な木製の食卓に腰かけ、これまた素朴な陶器のマグカップで茶を飲んでいる、二十歳そこそこの、何の変哲もない青年だった。


「へ――あ。あの。どちらさまのお宅ですか」

「なに寝ぼけたこと言ってんだお前。こちらは神様のお宅ですよ」

「は……?」


 ずずずと音を立てて茶を飲んでから青年は言う。メルはぼけっとしたまま、それでも神様のお宅の住人らしい彼を仔細に観察した。


 切れ長の目の色は闇の底のような黒、適当に襟足あたりで自分で切りましたというような不揃いな短いまっすぐな髪も黒。寝巻きに毛が生えた程度の簡素なズボンと丸首の七分丈のシャツをだらしなく身に纏っており、これらの色は黒と青だった。顔の造作は整ってはいるが鋭い瞳以外にさしたる特徴もなく、一言で言えばやはり彼は、第一印象と同じく、何の変哲もない青年だった。


「えーっと……えー……」


 首を巡らせて周囲を見回す。ここは小さな家のようだった。食卓があり、左の奥には台所のような場所があり、カウンターには二つそろいの食器がいくつか置いてある。反対側の突き当りには暖炉が備えられ、その前には丸いラグがひいてあった。上には読み差しらしい本が何冊か散らばっている。総合すると、まるで実家に帰ったような懐かしい心地のする、生活感に溢れた空間だった。


 ひどく居心地はよさそうだがしかし、メルが覚悟を引っさげて訪れようとしていた場所とはやはり異なる気がして、困惑したメルは目の前の青年にもう一度問いかけた。


「……あの……多分ちがうと思うんですけど念のためお聞きしますけど……あなたはユニさんですか?」

「はい、だからそう言ってますよ、さっきから」


 どうでもよさそうに応じた青年は、いつの間にやらメルの脇に立っていたシアに視線を移し、不機嫌そうにこれなに、と問う。


「――今回の『神に所望された娘サクリファイス』だよ」

「え? だってこれアリスちゃんじゃないだろ。アリスちゃんは銀髪のかわいい子だろ? こんな頭の軽そうな金髪の貧乳じゃないだろ?」

「いや胸のサイズはアリスも同じようなもんですから、たぶん」


 とっさに口を挟んだメルを不思議そうに見やった彼は、ふうん? と首を傾げながら簡素な丸椅子を立ち上がった。床に膝をついたままのメルに裸足の足でぺたぺたと歩み寄った彼は腰を折って顔を近づけ、さすがに身構えたメルを探るように、切れ長の瞳を細めて見つめる。そして、口角を上げてにい、と笑った。


「お前、さては〝女〟じゃないな?」

「――……ッ!?」


 言葉と同時に体にかかった圧力に、メルはとっさに後ろに飛び退いた。

 腰を落とし剣を構えたメルを面白そうに見やった彼の黒かった瞳は、今はどうしてか金にその色を変えている。ちかちかと光る猛禽類のような瞳をぎりりと睨みつけ、メルは認めた。この何の変哲もない村人その一みたいな男は――たしかに〝人〟ではない。


「俺は〝女〟だ。体はな。あんたの〝食料〟に中身がどうなんて条件はないんだろ? なあ――ユニ?」


 名を呼ばれ、ユニはすっと顎を上げてメルを見た。背が高い。ということはリーチも長い。油断なく彼の動向を見守りながら、メルは言葉を続ける。


「あんたの〝食料〟たるのは、命を捧げる覚悟を持った、王族の血を引く純潔の〝女〟。俺でも条件は満たしてるはずだ。そうだろ」

「――純潔、ねぇ? どっちかっつーと童貞野郎の匂いがするけど」

「うるっせぇよ!!」


 思わず怒鳴ったメルにくつくつと笑い、ユニは続けた。


「まあ、いいや。バカっぽいけどおまえ見た目はかわいいし年頃だし、だったら俺は細かいことは気にしないぜ。人間は見た目が大事だよなァ。なぁ、アルテミシア?」

「…………うるさいよ」


 部屋の隅に避難するように移動していたシアを振り返りからかうように笑うユニに、小さな魔法使いは恨みがましい視線で応じた。


「とにかく、だな。俺は最近は腹減りすぎてて外界の様子もろくに見えないが、察するにお前はアリスちゃんの代わりに、俺に命を捧げる覚悟をしてきたんだろ? ――だったら、その剣は一体なんだ?」

「覚悟はしてきた。でも、それはあんたに捧げるものじゃない」


 顔の前に剣を掲げる。そうしてから、メルはまっすぐに、ユニの顔に剣先を定めた。


「俺がしたのは――命を懸けてあの子のために戦う覚悟だ!!」


 叫ぶと同時に、メルは強く床を蹴った。ぎらりと光ったユニの目が放つ圧力に後退りそうな体を必死で留め、上体を捻りユニの脇腹を目掛けて一閃を繰り出す。後ろに飛び退いて一撃目をかわしたユニは、はっと愉快そうに息を吐くと腕を振り、刀身の黒い一本の剣を手の中に生み出した。


「なるほど――そういう趣向かよ! いいだろう、だったら相手をしてやんなきゃなァ!!」

「――ッ!!」


 上から降りてきた強い一撃を両手で握った柄の近くで受けたメルだが、男の力にはやはり勝てない。横に飛んで力を逃がし、一度距離を置こうと後ろにすり足で下がろうとしたメルの足の下で、ずるりと床が動いた。


(え――……!?)


 そのまま足を取られてひっくり返ったところで、バサリと紙束が落ちる音がする。落ちていた本に引っかかったらしいと気付いたが、気付いたところで無意味だった。取り落とした剣を拾おうと身を捻ったメルがそれを果たす寸前、あっと言う間に距離を詰めたユニは、メルを縫いとめるように顔の横にダン! と剣を突き立てる。


「……っくそ、片付けくらいしとけってんだよ……!」


 食いしばった歯の隙間から吐き出すメルを跨ぐように立ち、ユニは馬鹿にしたようにはっと笑った。


「まァ、前菜としちゃ悪くなかったぜ、お嬢さん」

「――……ッ、ぐ……」


 腰を落としたユニの指が、メルの首をぎりりと強く押さえ込んだ。そのままゆっくりと犬歯の目立つ口が近付いてくる。


 ――食われる。


 そう思い、酸欠で霞みはじめた目を瞑った瞬間、聞こえるはずのない声が狭い部屋に響いた。


「――メル!!」


 瞬間、メルは弾かれたように目を瞠った。

 近くにあるユニの瞳も驚いたようにぶれ、金色の光が一瞬消える。


 ユニの意識が逸れた一瞬の隙に、メルは手探りで顔の脇に落ちた剣を取り、首を押さえるユニの肩に突き刺した。


「……っ、なるほどな。神を刃を立てるとは、なかなかどうして、いい覚悟だ。――だがな、お嬢さん。神に鉄の刃が効くと思ったか?」


 口角を更に吊り上げたユニは、刺されたはずの腕の力をなお強くしてメルの首を締め上げる。


「……っ!!」

「盛りのついた雄猫ほど鬱陶しいものはないからな。……お前にはこの〝呪い〟をやろう」

「――――メル!!」


 不吉に笑みを含んだユニの声に、アリスが悲鳴じみた叫びを上げた。

 だが、ユニの動きを止めるには至らない。

 肩に刺さった刃を更にその身に食い込ませながら上体を伏せたユニは、そのままメルの食いしばった唇に噛み付くように口付けた。


 瞬間、空気が凍った。



「――――――――――――――――――――ッ!!!!!?????」


 一瞬体を凍らせたあと、我に返ったようにじたばたと暴れ始めたメルの抵抗をものともせず、酸欠かそれ以外の何かが原因か、ともかくメルが再び体の動きを止めるまで長々と唇を合わせた後、ユニはようやくメルを解放した。


「――まあ、ゲテモノはゲテモノだが、とりあえず腹にはたまったから良しとするか。でもま、俺を欺こうとした罰だ、お前は一生そのかわいい姿でいるがいいさ」


 唇をぬぐいながら言ったユニは、起き上がる気配のないメルから興味をなくしたように退いて、呆然と立ち尽くすアリスにひらひらと手を振った。


「お、君がアリスちゃんか。どうだいまだ腹に余裕はあるから女に戻って俺の〝糧〟に」

「――め、メル! 大丈夫か、メル!?」


 何やら喋っているユニの言葉など耳に入らず、アリスは未だ仰向けに倒れたままのメルのもとへ駆け寄った。


「ア……リス……?」

「だ、大丈夫だ、メル! 君は生きてる! 呪いとかなんとか言ってたけど……って、呪いってなんだ? シア」


 慌てて振り向くと、シアはよっこらしょ、と卓に腰かけるユニを責めるように半眼で睨みつけていた。


「……悪趣味なことをするね、ユニ。これじゃあ、メルは一生小娘のままじゃないか。かわいそうに」

「なに人のせいみたいに言ってんだ。そもそもお前が俺を欺こうなんてするからだろ、アルテミシア。なんでお前こういうことすんの? 反抗期か?」

「なっなにが反抗期だよ! そうやっていちいち子供扱いするのは止めてくれるかな!?」


 珍しく余裕のない口調でシアは喚く。

 なんだかよくわからないが、とりあえずアリスは倒れたままのメルの傍らに膝をつき、小さな頭を抱き起こした。するとメルは光のない目で虚ろにアリスを見返し、唇を震わせて細く息を吐いた。


「大丈夫か、メル! しっかりしろ!」

「お……俺はもうだめです、アリス……こんな体じゃ、もうあなたと一緒には……」


 震える声で言うメルに、アリスは自分の胸に、一つの覚悟が生まれたのを知る。

 メルはアリスのために、命をかけて覚悟を示してくれた。体が男であれ女であれ、そんなのはささいなことだ。メルが一緒に居てくれれば、アリスはそれでいい。

 その気持ちを、メルの手を握りしめ、アリスは告げる。


「……そんなこと言わないでくれ、メル。君の体が女でもいい。それなら、私はずっと男でもいいから、だから、これからも一緒に――」

「お……男に……男にファーストキスを……!」

「そっちか!?」


 呪い云々の言葉はショックで頭に入っていなかったらしい。

 口に出したことで放心状態から覚め、なおさら悲しみが深まったのか、メルは緑色の目を本気で潤ませる。泣きそうなメルの表情に、すうはあと息を吸って意を決したアリスは、えいやと前振りなしに小さな口にキスをした。


「……っ!?」


 数秒を置いてから唇を離したアリスは、ぽかんと瞠られたメルの目を見て、改めて告げる。


「メル。――私のために戦ってくれて……私を守ってくれて、ありがとう」

「アリ……ス……」

「でも、私は君がいなくなるのは嫌だ。君が男でも女でも何でもいいから、君は私の騎士だから……だから泣くな。傍に居てくれ。君が何になったって、私が責任を取るから!」


 言い終えて、震える体を抱き締める。

 すると、どくんと胸が鳴った後で、視界が上下にぐらりとぶれた。

 目を開くと、腕の中には明るい緑の目を瞠る、男に戻ったメルが居た。そして彼の瞳の中にはやはり、本来の姿に戻った自分が居る。


「……え? これって……」


 ――呪いが解けた、ということだろうか。


 ぽかんと見つめあい沈黙する二人に、ユニはあーあ、とつまらなそうな声を上げた。


「なんだよ、定着する前にんなことすっから半分になっちまったじゃないか。あーもう面白くない。俺、寝るわ。後片付けは頼むな、アルテミシア。――じゃ、お前らはさっさと帰れ」


 ユニがぱちんと指を弾くと同時、アリスとメルとシアと、ユニの居城には至れなかったため泉の底に残してきたシェンナとオペラとスノウとネイプルス、つまるところ全員が、ひたひたと水の溢れる泉の淵に舞い戻っていた。

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