06






  その後、何か余計な事を伝えた為か「シャワーでも浴びるか」とライは逃れるように横の扉を開けた。このアジトには、シャワーがついているのかとアルフォンスが興味津々に隣室を覗き込む。一息つく時間が訪れ、グラスを手にソファに座ったゼロの背後からは、驚きと困惑するアルフォンスの声が耳に届いた。急にここも騒がしくなったな、とゼロは独りごちた。


 今日は雨が降っておらず、外はまだ明るい時間。明るい内に今日は帰る事にしたらしく、暫くしてアルフォンスは帰っていった。

 少しずつ口に含んで味と香りを楽しみ、息を深く吐いてゼロは寛ぐ。心身を休めているゼロの隣に、ライが腰掛けた。シャワーを浴びた後でも、髪を邪魔に感じているのか後ろに撫で付けている。



「頼まれてたあの研究所の調査だけどよ。誰が使ってたか、とか何のために、とかまったくわからなかった。誰も知らねえとよ」

「……そうか」



 先日調査に入った研究所。せっかく見付けたパーツだからと、道具を持ってライは再度回収に向かった。再訪するならばと、ついでにあの研究所についての仔細の聞き込みをゼロから頼まれていた。回収を終えたライは、持ち帰ったのちに調査に赴き、いつもの如く何処からかチョコレートバーを手に戻ってきたのだ。ただ、持ち帰れたのは部品と食料だけ。調査の結果は芳しくはなかった。何も情報を得られなかったようだ。

 ゼロの様子を盗み見る。結果を聞いたが、肩を落とした様子はない。収穫が無い事は想定していたのだろう。吃驚きっきょうもなく、受け入れている。



「しかし、また若いのが入ったな。シンシアでも若いと思っていたのによ」

「シンシアは言うほど変わらないだろう」

「お前はな」



 報告を終えたライは、話題を変える。その内容は今一番ホットな話題の新入りに関してだ。ゼロの主目的は探し物だが、それでも立て続けに加入者が出ている。人手が増えればやれる事が増える。食い繋ぐための組織の方も、依頼が増えて収入が増えるかもしれない。今後の活動はより広く出来そうだ。



「シンシアはともかく、あいつは食いモン手に入れられんのかね」

「頑張りと運次第だな。だが、そろそろ二台目のバイクが本格的に必要だな」

「つっても、オモチャにしたり独り占めする連中がいるからな」



 破壊活動の結果や、街に転がっている壊れた機械達から部品を回収する伝統主義者や、都市からの資源を得る新伝統主義者。人員が増えるならば移動手段を増やしたいが、肝心の材料を彼らに先に入手されてしまう。それが問題だった。

 見付かれば造るとは事前に話してはいたが、必要性が出てきてしまった。



「バイクに限らず、移動に使えるものが手に入ればいいが」

「捜索範囲も拡げねえといけねえしな。懐古野郎トラリーどもが骨までしゃぶるみてえに、どんどんパーツ持っていきやがるせいで、回収場所がどんどん減ってるんだよな。また場所探しておかねえと」

「次の調査場所も探しておかなければならない。どのみち、情報集めだな」



 首を左右に傾け、肩を上げては下ろしてからライは席を立った。話し合いで定まった方針について呑み込み、承服を代わりに示す。室内に纏めて置いてあるゴミを持って退室した。

 それを見送って、静寂の訪れた部屋でゼロはグラスに口をつけた。


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