04
「戻ったぞー、あん?」
力のある黒い大男ことライがアジトに入ると、ゼロとアルフォンスが向かい合ってソファに座っていた。ゼロは一言も言葉を発しておらず、アルフォンスもまた無言で、ただただ小さくなっている。どういう状況か呑み込めずにいるライは、クソ甘い手土産を一本ゼロの前に置いた。残りのもう一本を持ってソファに腰掛け、片腕を背もたれに掛けながら手土産を開ける。棒状のチョコレートの風味のそれに、食らい付いた。口の中にへばりつく甘味を噛み砕き、喉を通す。
隣で食べ物にありついている男に、ゼロが視線を投げる。流れるように視線を落としてテーブルの上に置かれたチョコレートバーを見るが手には取らなかった。
「あの……お、怒ってますか?」
「怒っていないし、理解もしている」
おずおずとアルフォンスが尋ねると、ゼロはきっぱりと答えた。言葉通り、その声調からは怒りは感じられない。口数が少なく、現時点で表情も柔らかくはない為、分かりづらくはあるが。アルフォンス自身が、自分の中にある意識のせいで怒っているように見せていた。
ここまでの過程を知らないライは、ただ首を捻っている。横目でゼロがそれを視認すると口を開いた。
「昨日、彼アルフォンス・パレットから依頼があったんだ。内容は子供の捜索、救助。戦闘は軽く、一体」
「あ、お陰で子供は無事っす!」
依頼について、ライに説明をした。助け出した子供に関してはアルフォンスの方から補足が入る。早急に手当てを施したお陰か、子供は命に別状は無かった。保護者はおらず、あの付近で暮らしていたようで、ひとまず安全そうな地帯には送ったという話だ。その後果たしてあの子供が生き延びられるかは兎も角、アルフォンスは救えた事に明るい表情をしていた。
あまり興味無さそうに「ふーん」と漏らしてライはチョコレートバーを食べ進める。室内にある食料を纏めた場所から、飲み物をとって、甘い塊を胃に流し込んだ。
「依頼料は何だったんだ? それなら、まあまあ良いの貰えただろ」
依頼主がいる前で、ケタケタと笑ってライはゼロに問い掛けた。明るかったアルフォンスの表情が凍りつく。ぎこちなく目を泳がせた。そしてテーブルに手を置く。手を退ければ、あまりにも依頼内容と釣り合ってない額がそこにはあった。
「すみません……その、助けるのに飲み物とか、買っちゃって……家帰ってかき集めたんですけど……オレ現金、あんまり持ってなくて」
「良かったな、こいつが四本くらい買えるぞ」
まだ手をつけていないゼロの分のチョコレートバーを手にとって、左右に振る。アルフォンスは目を丸くした。
「いやいや、それなら一〇本ぐらい買えるっすよ」
「馬鹿め。今は四本買えりゃ良いとこだ。アレが起きたのは数日前か?」
そこで、冗談では無く認識がズレている事に気付いてアルフォンスは茫然とする。昨日買った物の値段も思い出しているのか、明後日の方向を見ていた。テーブルの上の金が如何に報酬として足りていないか。更に自分が分けてもらった食料の価値。以前までと大きく異なっているのだと。それを理解し、また縮こまって、言葉が上手く出せなくなる。
テーブルに戻って来たチョコレートバーを、ゼロが手にする。包みを開けて食べ始めた。静寂の訪れた場に、アルフォンスは様子を盗み見る。ゼロは無心で食べ進めているが、ライの方は眉間に皺を寄せていた。
「オレ……世界が変わってからは、ほとんど家かその周辺にいて。食べ物とかは度々送ってきてもらってたやつとか、保存食とかたくさん残っていましたし……」
「あるのか? 食い物」
「いや、それが……底を尽きそうで」
食べ物と聞いて、前のめりになったライの体が後ろに傾ぐ。
ここまで出てきたのは今日が初めてか、つい最近だったようだ。外が危険である事は知っていたようで、外出は控えていた。だが、そのために市場の変化を知らずにいたようだ。自身の甘さに、アルフォンスは肩を落としている。
深呼吸し、息を吸ったところで顔を上げる。食べ続けているチョコレートバーは、半分程に減っていた。視線に気付いたゼロが焦点をアルフォンスに合わせる。アルフォンスは意を決した様相でまっすぐ見つめていた。
「あのっ、オレも入れてもらえませんか。ここで働かせてください!」
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