03







「あまり刺激を与えない方が良い。圧迫もあった以上、体勢もだ」

「あ、そっすよね!」



 安堵しきっている二人に、静かな声でゼロが現実に返らせると、こくこくと頷いた。子供は疲弊しているらしく、大人しい。ゼロが対処法などを教え、それにアルフォンスが従う。駆動音が不意に場に駆けた。瞬間、ゼロが銃を引き抜いて身構えて撃つ。先程道で座り込んでいた機械が動き出していた。左右に傾くように歩いて、光線を受けて一時停止する。



「まだエネルギーが残っていたか」

「ぜ、ゼロさん」

「子供を優先だ。水分を取らせ、先程話した処置を。救助のあとに死亡しては意味がない」



 子供を抱えたアルフォンスの手に力が籠もる。瓦礫の下にいたのだから、救助したからといって油断はならない状態だ。アルフォンスは短く返事をする。オートマタは元は人間に近い見た目だったのだろう。人間のような外装部分があるが、素体のような剥き出しの状態だ。破損した腕部の繋ぎ目からは、破裂音が鳴っている。必要以上に傾いて、ゼロ達に迫った。進攻を一筋の光が邪魔をする。光で焼き切るというよりは、光の弾丸だ。圧縮されたエネルギーの弾丸が宙を駆け抜け、的確に足を狙った。ただでさえ不安定な体は、衝撃で揺れる。撃ち出したあと、跳ね上がった銃の前方を下げて戻し、ゼロは瞥見した。



「連射は出来ない。早く処置を。すぐに片付ける」

「あ、ありがとうございます!」



 子供をしっかりと抱え、アルフォンスはオートマタの横を通り抜けた。人間が通ったのを認識したオートマタは、体を回転させる。背中を向けたオートマタの背中に光が撃ち込まれた。金属で殴り付けられでもしたような力が衝突し、体は大きく揺れる。やがて後ろ向きに倒れた。

 復活するために回すエネルギーはもう残っていないようで、起き上がりはしない。聞こえていた音も静止した。ゼロは息を吐いて、銃を見る。



「今回はこれを持ってきて正解だったか」



 廃棄された研究所に持っていった物とも、行き倒れだった彼と会った時に持っていた物とも違う銃。チャージに時間がかかるが、威力が高く光線型の中でも、機械にも割合通用する物だ。ただ、ゼロが持っている型は数代前の物で重く、反動も強めである。自衛のために持っては来たが、性能を重視するあまりサイズも大きめで携帯には不向きである。ギリギリしまえるくらいだ。

 エネルギー残量を示すメーターがあるが、そのメーターを見る限り既に半分近い。エネルギーもかなり喰う大食いなのである。進んで使い辛いが、威力は間違いない。短期的であり、急を要する――機械や瓦礫など硬質な物が絡みそうな――依頼である今回には相応しいと言えた。


 襲ってきた対象の処理を終えたため、ゼロは来た道を戻っていく。店の外まで出たが、あの青年の姿はない。すぐ近くの路地で座り込んでいる男性や、雨を凌ぎながら、雨を見ている二人組以外に周囲に人はいない。

 大人の庇護のない子供は簡単にこの町から消えていく。それこそ、彼が見付けなければその短い生に別れを告げていた事だろう。守ってくれる保護者がいたとしても、子供自体が少ない。子供を連れている彼は目立つ。周囲の者に訊けば彼の足取りは終えるだろうが、ゼロはそうしなかった。雨を凌ぐ二人組に目がいく。片方の男性が、雨を仇でも見るように見ていた。



「早く止んでくれ。俺の故郷に降った酸性雨を思い出して、気分が悪い」

「ああ……帰れなくなったんだっけか」



 汚染の酷い地域の出身なのだろう男の呟きを、隣の男は聞いて返答をしている。隣の男は酸性雨の酷さを知っているのか、ただ深慮する性格なのか、それ以上は言葉を紡がなかった。二人組の会話を聞いたゼロは、視線を空に向ける。雨に当たった体が、今頃冷えを思い出して寒さを感じた。

 見当たらないアルフォンスの姿に、ゼロはひとまず待つ事とした。


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