02






「――子供?」

「そうなんです! 子供っぽい声が聞こえて」



 移動しながら、ゼロは依頼内容を聞いた。

 アルフォンス曰く、とある場所から子供の声がしたと。ただ、それは大きくはなく、詳細な場所は分からない。子供を見付けて救いだしてほしい。それが彼からの依頼だった。

 焦った様子で話したアルフォンスは雨も気にせず足早に向かっている。地面に溜まった雨水が跳ね、音を鳴らしながら先を行く青年の姿を後ろから眺めながら灯りのセットをする。彼の行く先を辿っていくと、不意に足を止めた。



「ここです」



 場所はアジトよりそう遠くはなかった。歩いて二〇分程度である。そこには何かの店をしていたような形跡があった。文字とロゴが形作られていただろう看板が崩れ落ちている。ドアに寄り添うように自動機械らしき物がいるが、体の中心部からオイルを漏らし、足は破損していた。ドア部分は虫食いのような大きな穴がある。開放的になっているその中は、折り重なるように瓦礫が積まれているかと思えば、空間があったりとしていた。営業時は、光を帯びていただろう座席も見える。

 だ。状態を見たゼロは、そう憶測を立てる。そしてここは、元は飲食店だとも。ならば、人が食べ物を求めて来ていたとしてもおかしくはない。ゼロは、下手投げでライトを一本投げ渡した。



「衝撃と破損で他の部分も脆くなっている。埋もれている可能性もある。その時は声を出せたが、今は声が出せない状態かもしれない。隈なく照らした方がいい」

「はっ、はい!」



 ライトを握って、アルフォンスは辺りに細かく光を当てだした。店内の明かりは落ちているために、薄暗い中を歩く。動く光を一瞥しつつ、ゼロもライトで店内を照らしていく。床には時々人型の機械が転がっていた。ショートしてイカレた機械の暴走の果てに沈黙したようだ。奥のカウンターの向こう側らしき場所には、機械が並んでいる。店で出している料理を調理して、提供するための機械だ。だが、材料などはなくなってしまってる。床には材料だった物らしき物が散らばってはいるが、セットもされていなければ補充分も無い。注文用のモニターらしき物も店内には見えるが、動きそうにない。

 スタッフ用のスペース側に二つの光は向かう。棚が横向きに倒れており、それを乗り越えて奥へと入った。アルフォンスは光を左右に振りながら自身も頭を動かして、辺りを窺う。



「誰かーいるかー!」



 アルフォンスの声が室内に届いていく。聞いてくれているのは壁や棚などだけで、生命体からの応答は無い。返事は無くとも、アルフォンスは進んでいき、声を掛け続けている。ゼロは周囲を見ており、たまに落ちている道具なども見ていた。暗くなっている部分も灯りで照らして見ていく。先を行くアルフォンスが覗き込みながら声を出してライトを向けていたが、不意に「あっ」と声を上げた。耳に届いたアルフォンスの声に、ゼロが視線を向ける。



「何か見つけたか?」



 声を掛けたが、アルフォンスは返さず体を傾けて側面を向ける。耳をそばだてていた。それを目にしたゼロは、それ以上は声を掛けずに黙って様子を見る。微かに奥の方から音が立った。意識を傾けていたアルフォンスは、勢いよくゼロの方に振り返る。



「しました、声!」

「正確な位置はわかるか」

「そこまでは……ただ、えっとこっちの方です」



 記憶を辿りながら、聞こえた方を指差す。物や機械が積み重なった方角だ。飛び越えられぬ訳ではないが、足場が悪い。押し退けて道を作って奥へと入り込んでいく。道の脇にはオートマタが座り込んでいる。腕部の繋ぎ目から電流が走っていた。損傷はそのくらいではあるが、それ以外の部分は静まり返っている。ここまで入り込んで来ていたと知り、自然とゼロの手は銃にかかっていた。取り出してライトを持つ手と持ち替えておく。警戒を強めながら進めば、アルフォンスが眼前にある壁だった金属の破片を持ち上げて、横に置いた。ゼロが奥へと光を向ければ、一桁程の年の頃の子供が瓦礫の間でうつ伏せになって倒れている。

 先にアルフォンスが駆け寄り、周囲を確認してからゼロも傍らまで赴いた。子供は痛そうに呻いている。アルフォンスは顔を子供の耳元まで近づけた。



「助けに来たぞ。もう大丈夫だからな」

「支えて、一つずつ退ける。上から順に、小さな物からだ。無理には動かすな」

「了解っす」



 辺りの気配が無い事を再度確かめたのち、すぐに取り出せる位置に銃を収める。アルフォンスが上の瓦礫に手をかけ、ゼロが下から持ち上げ、片手だけにするともう片手でその下を支えた。注意を払って除去していく。抜け出せない程に、子供の足にかかっている重量を退けて、瓦礫の下から抱き上げるようにして救出した。

 痛みから何度も泣いたのだろう。頬は濡れて乾いていたり濡れていたりとしている。ぼんやりとアルフォンスを見つめ、自分の現状を理解した子供は安堵したのか温かな涙が瞳から次々に滴り落ちた。アルフォンスもまた安堵と、共に泣いている事に困ったように笑って背中を優しく叩く。



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