09





 『番犬』が動かなくなり、番犬が所定の位置にいた場所の近くまで三人で見に行った。棚や機械が置いてあり、シンシアが一部にライトを当てながら指差す。そこには機械と共に文字が刻まれていた。



「フェンリル……」

「そう。この子がフェンリルだったみたい」

「ならドア開いてるのか?」

「番犬自体に開閉が備わってる可能性がある。見てくる」



 番犬フェンリルを強制的に停止したお陰で、落ちていたライトも持ち主の手の中へと戻った。各々で開閉の手を探し出す。シンシアはその場に留まり、ライは扉の方へと向かい、ゼロは番犬の元へと戻った。

 ゼロが光を体へと当てる。片方の目の部分は破砕し、片腕は折れ曲がっているが、他はほとんど損傷はない。尻尾もついており毛量もそれなりにある。よく見れば首輪も装着していた。首輪も機械で出来ており表面上は首輪そのものだが、機械が組み込まれており、外部装置として補助の役割を担っていると思われた。光を隈なく当て続けていると、不意に光が反射する。首輪の辺りで光を浴びて何かが光った。首輪に引っ掛かっているようで、裏側にそれはあった。前屈みになって、それを手にして見るやポケットへと突っ込む。扉が開いたようでライの呼ぶ声がして、残りの二人も奥へ向かった。

 最後の扉には複数のモニターが壁に埋め込まれていた。大きなテーブルが中央を占め、棚も設置されている。機械はどれも動かず、道具類は一つもない。



「ハズレ? 何にもない。くじ入りのクッキーにくじが入っていなかった時みたいな気分」

「……こんなものだ」

「何にもないって事はねぇだろ。一番の収穫はあれだな」



 番犬フェンリルを止め、ようやく部屋に辿り着いたその結果にシンシアは肩を落とす。ライは部屋の外に顔を出し、ライトを向けた。光で照らしだしたのは停止したままの番犬フェンリルだ。



「バラせるもんはバラして、持って帰ろうぜ」

「え、解体しちゃうの?」



 気遣わしげにシンシアが光の当たった番犬を見る。ライは構わず、ゼロにナイフを要求し受け取るや近付いていった。どこから部品をとろうかと体が揺れている。



「この場所自体放棄されてて、こいつも置いていかれてる。飼い主サマは戻ってこねえだろうし、その内エネルギーも無くなるだろ。なら持って帰れるだけでも持っていって使った方が良いんじゃねぇか? つっても、なかなか剥がれねえな、クソ」

「うーん……」



 部品を剥がそうと、手やナイフを使って手をつけ始めている。その後ろからシンシアは見ているが、腑に落ちていない顔だ。シンシアの隣へとゼロが赴いた。



「分解しない限りは元から出されないサイズだ。人間が制御できるように、最初から色々と調整されていた。恐らくはこの場限りだったのだろう」

「……そんな感じよね。これだけの大きさなら結構エネルギー積んでそうだし、それで動いていたのかも」



 ゼロの言葉で先刻よりも得心いったようだが、それでも何か言いたげにシンシアは見ていた。


 三人が外に出る頃、外は陽が落ちてきていた。剥がせるだけ剥がしたパーツを、持てるだけ持ったライが、バイクの内側にパーツを詰め込んだ。先にシンシアとライで戻る事となり、ゼロは見送る。

 バイクが遠く離れると、ポケットの中身を取り出す。落ちかけた太陽が照らしたそれはペンダントだった。時代は移ろい発展しても装飾品は大きくは変わらない。素材やデザインは変わりゆくが、古きものも残し形もそのままである。それはシンプルだが上品なデザインのペンダントで、あまり傷は見られなかった。定番の形で、古い印象は受けない。

 ただ、本体部分に埋められた宝石は数種類あり、色合いが美しくも主張しすぎず調和している。それが特徴的でもあった。ゼロの手はそのペンダントを握る。



「レティシャ……」



 小さな呟きがゼロから零れる。零れた一言は、茜色の空間に溶けていった。



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