06
襲ってきた『番犬』と思われる相手への疑問は各々あったが、今は戦闘態勢に入るのが優先だ。番犬はこの場所を守るため、侵入者である三人に対して牙を剥いているのは明白だった。相手が獣の形をしているのであれば、速度に叶わぬ可能性が高い。シンシアは出来るだけ離れさせた。代わりにライが前に飛び出す。
務めを果たすために、番犬は動く。腕と思われる部位が眼前にいるゼロに向かって振るわれた。後ろで光が照らし続けているため、その動きを視認してゼロは半身をズラすようにして躱す。
「グ、ル……ルル」
腹の底にまで響くような低音が途切れ途切れに三人の耳に届く。低い唸り声を漏らした後、その巨体は手当たり次第といった様相で、目の前にいる人間に向かって突進しようとした。咄嗟にライが腕を広げて、勢いを増す前に食い止める。それでも自分達よりも幾分も体重のある相手だ。ライの体には衝撃が走り、一瞬顔が歪む。案ずる声がシンシアから飛び、そのチャンスを逃すまいとゼロが数発、ライから遠い箇所に向かって発泡した。止める限界が訪れ、突き飛ばすように離すと同時に身を逸らしておくが追撃は来ない。
腕を擦りながらライは敵を睨み、脳に過ぎった考えに視線を外して眉間に皺を寄せる。番犬は今にまでに何発も銃撃を喰らっているが、血を流している様子も、傷を気にしている様子もない。
「こいつ、生物か?」
「恐らく違うだろうな」
「え、
世に広く普及し、最新の物は次々に新しい部品が導入され――現在のような悲劇が起きてからは大半は敵となったオートマタ。一見巨大な獣に見えるそれは、中身は機械であり外見は獣に見えるように造られている『番犬』だ。いつ頃造られ、どのような部品が使われているかは現時点ではわからないものの、生物相手ではない感覚が二人に違和感を抱かせたのは確かだった。
そして一つ、不幸な事に機械であるという事は銃の効力が薄い。旧式であっても、よほど安価な物や代替でもしていない限り、装甲には光線に対して耐性がある。ゼロの使っているタイプの銃は相性が悪いのだ。人や獣には効果が高く、実弾ではなくエネルギーの転換によるものである点が利点だが、そういった不利な点もあるのだ。しかし、扉の開錠に役立てられたように、まったく効かない訳ではないのが幸いと言えよう。
「ゼロ、武器は銃だけ?」
「ナイフも持ってきてはいる、が」
「刺さんのか? あれに?」
「ライの言うように、刺さらないだろうな」
携帯用のナイフをゼロは取り出す。手の上で踊るように回転させて、柄を握った。新品では無く、煤けた色の箇所がある。ナイフには鞘がついているが傷がついていた。古い印象は与えるがまだ使える品である。普段は使えるその武器も、今は使えないが。
無用となってしまっているナイフを所定の場所へと戻した時だ。番犬がいつまでも待ってくれる訳もなく、毛を振り乱しながらライに噛みつきにかかった。驚きに軽く声を上げながらもしゃがみ、拳は顎を捉え衝撃を叩き込む。数秒間の静止。だがその次には腕部が動き、転げるように回避した。
「他の機械なら既にスクラップにでもなってるってのによ! どこのバカがこんな無駄にデカイの造りやがったんだ」
「それより、戦うの? 打つ手がないなら一旦部屋の外に逃げない?」
「追いつかれなきゃな」
「追いつかれはしないだろう」
断定的な口調でゼロは言った。それにライが首を傾げる。
「なんでそう言い切れる?」
「あんな姿をしているが、速度に関しては遅い。対処しきれている程だ。人間程の速さしかないだろう。御しれるようにか、予めそう造ったか……」
「或いは、中身が錆びてやがるか、か」
「考えるためにも、ひとまず引きましょ!」
稀に見る敵への対処を話し合う必要がある。誰かしらが狙われる現状では対策もまともに話し合えない。一時退却を選んだ三人は光を頼りに、出入り口に向かって駆け出した。背後からは巨体が揺れ動いている。床の振動からも追ってきている事が分かった。
滑るように廊下へと飛び込む。先ほどの広間から出て扉を閉めた。開いていた扉が閉まっていくまでに見えた巨体が見えなくなる。扉から離れて少し待ってみるが音もしない。扉を認識して、寸前で止まったのだろう。静かになった場に三人はほぼ同時に息を吐いた。
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