05










 トレジャーハンターにでもなったかのように、まだ見ぬお宝を求めて意気揚々と先に進むライに続いて、ゼロとシンシアも中へと入った。

 最後の部屋は酷く暗かった。室内は広いが暗く、先程までいた廊下がとても明るく感じられるくらいだ。窓はないようで、外からの光が入るのは扉くらいだ。足元すら見えない暗闇に、シンシアの手が何度もゼロの体を叩いて存在を確かめている。先刻のライの茶化しが効いているようで、怯えているようだ。灯りはあるが、それでも不安らしい。



「ぜ、ゼロ、いる? ライー? 先に先に行ってないわよね?」



 震えた声で二人に声を掛けるシンシアに、ゼロもライもライトを揺らして応える。若干胸を撫で下ろしたようだが、シンシアの持つライトの光は、忙しなく揺れていた。



「扉があの状態なくらいだ。非常灯には期待できない事はわかっていたが……暗すぎるな」



 三人ともライトはあるし、光量はある方だ。しかし所詮は携帯用の小型ライト。仮にいつの間にか一人ぐらいしれっと増えていても、気付かないだろう。照らしても照らしても壁が見えないため、慎重に歩を進めていく。曲線を描く床に従って進みながらも、出来うる限り真っ直ぐに進んだ。突き当たりにはもう一つ扉がある。以前であれば認証システムでもない限り、自動扉が進行を邪魔しないように開いていてくれていた。だが今は作動していないため、一つ一つの引っ掛かりが扉を多く感じさせ不便さを感じさせる。ライは不便に感じたのか、目の前の扉を仇でも見るように睨めつけていた。

 一枚の扉は、相変わらず目の前に立っても何も反応を示さない。扉の傍らには、機械に打ち込まれたのだろう文字が書かれていた。後付けのようだが、モニターではない辺り、それ以外の文字をここに置くつもりは無い事が窺える。



「フェンリルの確認を怠らぬ事……」

「フェンリル?」



 そこに書かれている文字を読み上げて、皆で首を傾げる。フェンリルとは、神話に出てくる巨大な狼の事だ。しかし知名度の高さから、屡々しばしば何かの名称に使われる。本物のフェンリルがいる訳でもあるまい。三人が思い浮かんだのも何かを指しているという事だ。



「そのフェンリルってのが扉を開く鍵か?」

「特殊なロックとかの名前だとかあり得るわよね。作動してないだろうけど、一応フェンリルっていうのを探しましょ」



 開かない扉を開けるヒントと捉えて探す方針に固まった時だ。

 地面を這うような唸り声じみた声がしたのは。先刻の恐怖を引き摺っているシンシアは反射的に灯りを落としてしまう。形状の関係で転がっていってしまった。徐々に勢いを無くして、ある程度の場所で止まる。何かがいる。そう思いながらも灯りの有無は重要だ。恐る恐るシンシアはライトを追い掛けて、手を伸ばす。

 そこまでの距離に近付いて、点灯したままのライトが何かを照らしている事に気付く。それは、何かの足のようだった。咄嗟にライトを諦めて身を引いたシンシアに向かって影が襲い掛かる。



「カミカゼ! 相手を照らせ!」



 傍らから一本のライトがシンシアに向かって投げるように渡される。落としかけたが両手で掴んで、後ろに下がりながらライトを当てる。その影の形が先程よりも浮かび上がったと同時に、ゼロが蹴りを入れて止めた。だが違和感を覚えて銃を抜いて撃ち込む。射出をしたが、シンシアに後ろへと下がらせ自身も下がった。

 シンシアが照らしていたが、それは全体を明らかにはしてくれなかった。浮かび上がっていたのは一部だったのだ。頭部と思わしき場所には毛と思われる物で覆われている。顔は人の形ではなく、獣の形をしていた。驚くべきは大きさだ。三人の中で一番背の高い二メートル近くあるライよりも高く、照らしているだけでも尾が未だ見えない図体をしている。



「――なるほど、こいつが『番犬』か」


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