04
灯りを持ち歩いているとはいえ、足元が見えず、上りにくい階段を昇る。ライが先頭に立って先に二階へと上がり、二番目に上がったゼロが最後尾のシンシアに片手を出して補助した。礼を口にしながら最後の一人も二階に上がって、二階に部分を見る。ライトで照らして見えたのは、奥に部屋が一つ、左右に一つずつ部屋があるだけだった。
まず入ったのは右手にある部屋だ。よく使われていたのか、壁に傷や汚れやヒビが見られるが、ここも一階と同様で何もない。
左の部屋は、ラックと机が残っていた。しかしラックには何もなく、机には上も下も何も見付からない。無いが在るばかりの状態に、シンシアが頭を抱えていた。しかし不意に、目を丸くして辺りを見回す。
「ねぇ、今何か聞こえなかった?」
「ゴーストか? 金属だらけの街で行き場を無くした連中が、ここに集まってるって? 価値上がったな、ここ」
「ジョーク言ってるんじゃないのよ。本当に何か聞こえたの。ああもう、余計な事言うせいで、急に怖くなってきちゃったじゃない」
薄暗い、寂れた建物の一室で探し物をしている現状を振り返ってしまい、シンシアは身を震わせ、腕を擦った。返ってきた言葉を聞いたライは「お嬢様がよ」と独りごちている。
「考え事をしていたせいか、私にも聞こえなかった。どんな音だった」
「音っていうか……声? 獣の鳴き声みたいな……」
「獣」
獣と聞いて『番犬』の話を思い出す。番犬について知っている事は多くはない。この辺りにいるという話を聞くという事だけだ。姿形はもちろん、具体的にどこにいるのか、生物なのか、無機物なのか、何の番をしているのか。そんな大枠の部分も知らない。話にあっただけだが、実際にこの周辺にいる可能性が浮上してきた。ただ、ここまでに遭遇しておらず、残りも奥にあった部屋だけだ。帰り道に出会ってしまう事も考慮しつつも、最後の部屋へと向かった。
奥の部屋は一面が部屋へ続く構造となっており、扉も大きい。光を扉全体に当て、光は何度も揺れながら全体像を把握させる。パズルのように得た情報を頭の中で当てはめて構築した。その結果で理解した扉の構造に、ゼロが扉に手をあてる。
「ここだけロックが違うな」
「壊してもダメなのか?」
「壊せればいいが……他よりも頑丈だろうな」
物は試し、と言わんばかりにライは構える。体を捻って片腕を振りかぶり、足に力を入れて上半身を力強く支えて拳を振った。扉にかつての何かのヒーローの一撃を決めるシーンのようにパワフルな打撃を放ったが、他のドアのように歪みはしない。むしろ、ライの方が片手を振っていた。
「チクショウ! かってぇな」
「一番怪しそうな場所は一番厳重って事ね」
「力技では恐らく厳しい」
吐き捨てるようにDを口にするライを横目に、ゼロは拳銃を抜き出して扉に撃ち込む。撃ち込まれた箇所を、すかさず光が照らした。しかしそこにあるのは、表面についた焼け跡だけだ。ここまでのように突破するには、拳も銃も効かなさそうだ。
「どうする?」とリーダーからの判断を待つ目がシンシアとライがゼロに向ける。ゼロはライトを扉に向けた状態で考え込んでいた。
「人物に対する認証ではなさそうだ。非常用のエネルギーが残っていれば、それを使えば或いは。もしくは非常用の解錠が別にあるか」
「非常用のエネルギーねぇ。ここってまだ新しいのか?」
「交換ぐらいしてるんじゃない? 見えづらいけど……どこかにあるはずよ」
その場にしゃがんで、まずは近場からシンシアは探し始めた。それに倣って二人も探す。存外、すぐに見付ける事が出来た。壁に溶け込むように、同じく平面になっていたので暗さもあって見落としていたようだ。開いて、扉を動かすように専用のボタンを押したが、静まり返っている。エネルギー残量を確認してみれば、空だった。
「交換してないの? そんなに古い建物には見えないのに」
「……持ってきている物と互換性がある。ひとまずはそれで補おう」
「ここ、全体的に簡素だし予算に余裕が無かったのかしら。もしくは時期が被ったか」
持っているライトを、近くにいるシンシアに手渡してからゼロはエネルギー装置を取り出して、入れ換える。再度開閉を試してみれば、今度は動きもしなかったドアが開いた。ひゅう、と風が鳴る音がライの唇から出る。
「さーて、お宝の一つでもありゃいいけどな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。