03
入って先に正面近くのドアに、ライが近付く。ポケットに手を突っ込んで手袋を取り出した。ブラウンの手袋を手に嵌めて、ドアに触れる。一息置いてから、殴り付けた。外側から内側へと衝撃が伝わり、扉は揺れる。拳を打ち込んだ箇所は凹んでいた。扉の状態を見たライは、不服そうにしている。手を手前に引き戻し、ゆっくりと指を何度も折り曲げる動作をした。
「パワーグローブは期待していたよりは、だな。これじゃあタイヤの一つもパンクさせらんねぇぜ」
「あら、どこで買ったの? その素敵なグローブは」
「レッドからだ。私のバイクがパンクされられずに済むなら、最高のグローブだ」
あの後レッドは言葉通り再度訪れた。ライが使えそうな物を携えて。商売チャンスを逃すことなく訪れたレッドが持ち込んだ物に、ライは興味を示した。それがパワーグローブだ。
パワーグローブは、力の無い人のための補助道具だ。動きを阻害しない程度に骨を思わせるパーツが内部に仕込まれている。少量の力でも大きな握力へと変えてくれるので一部からは日常的に使用されている。力を増幅してくれるだけでなく、グローブに使われている特殊な繊維が外傷からも守ってくれる作りだ。現代に適応していて、日常に頻繁に使われる材料や、熱線などにも強い。特化した物と比べれば劣るが、現代の日常的な使用には十分な効果を発揮する。
しかし、ライはもっと攻撃力を期待したようだ。肩を落としている点に関しては構わずに、ゼノは入口で目にした箇所を指さした。それに応えてライは何度も拳を叩き付ける。歪みが強くなり、ドアと壁の間に隙間が出来た。途端に嬉々として、ライは手を差し込み、下ろすようにして引く。力を込め、圧力が掴んでいる部分にかかっていく。
「ライ。ロックがかかっている可能性がある。解錠用の物に触れられればそれで」
「っっっしゃ!」
ドアのロックに関して言い切る前に、扉は開いた。横に滑るように飛んだドアをゼノが見遣る。ロックがされていた跡が目に入った。見ていたシンシアは茫然として、手袋と着用者を交互に見ている。当の本人は大きく息を吐いて、出来たスペースに眉を上げていた。
「お。思ったよりはスムーズに開いたな」
「重いものも運べるグローブとか服はあるけど……パワーグローブもその系統? それとも、ただライが馬鹿力なだけ?」
「腕力と握力があるのは違いない」
頑丈な扉を無理矢理開いた男の姿に、シンシアに次から次に疑問が湧く。
そもそも、格闘で戦う事自体が一般的ではない。それは身を守るために戦う事が当たり前となった現在も、以前も
「もしかして……力方面に遺伝子改造した?」
「あ? ああ、マジで多少な。俺が産まれる前ぐらいの時がちょうど、遺伝子イジって健康にするってのが流行ってたしな。それより見ろよ」
遺伝子に手を加えている事を話していたが、ライが顎で部屋の中を示した。二人が部屋の中を見ると、そこには、資源にもなりそうにない――ゴミしかなかった。何かのクズのような物も落ちている。室内を見渡してみても、他に何も見当たらない。機械類もなかった。
違う部屋も確認する事になり、すぐ隣も入ってみる。隣はロックが掛かっておらず、ライの手だけで開けられた。そこには何もなかった。他にも何部屋か入ってみたが同様だ。古びているだけで何もない。それには眉尻を下げて、シンシアがゼロを見上げる。
「ただの廃棄された場所なのかしら?」
――外れ。
噂で来はしたが、ここに求める物はない。外れを引いてしまったのかと、心配げに見ているが、ゼロは悲観した様子はない。
「いや……むしろ当たりかもしれない」
「え?」
「ここまで何もないのは気になる。引き払ったように見えるな。しかもここまで持ち去っているとすれば余計に気にかかる」
「と、なると……あっちか」
ライが持つライトが照らしたのは、まだ見ていない部分――二階に繋がる部分だ。昇降機は作動していないが、足場になりそうな段差はある。機械が組み込まれていそうな階段も、光も何かが浮かんだりもしない。三人はひとまず、階段を使って上の階を目指した。
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