02









 入口へと近付くと、機械が設置されているのが黙視できる。関係者だけが通れるように、認識して開くシステムだ。こちら側からアクションを起こす物ではなく、人物を機械が読み取って自動的に認証は行われる。機械は静かで動いている様子はない。人がいなくなり、風化して眠りについた機械だが、ゼロにとっては好都合だ。機械が作動している時は一枚の壁のようにびくりとも動かないが、今は厳重なロックはされていない。ロック自体はされているようだが。

 万が一、システムに何らかが生じた際に抉じ開けられるように扉には緊急時用の開け方が存在する。その手順は何パターンかあるが、どれが採用されているか分からない。ゼロは扉をあちこちノックする。硬質な感触の扉から軽い音が鳴った。何度も叩いた後に、周囲を見渡す。真っ平らという程では無いが、機械が組み込まれている部分を除けば平らで、押下するような箇所もない。それなりに高さはあるが、侵入路となりそうな所は見当たらなかった。実にシンプルな構造となっている。


 科学が発展したこの世の中では、科学者は安定した職となっており地位の上下差はあるものの、基本的には高給な為目指す者も多い。。発展すればする程多くの人材が求められ、競争率も高く優秀な者は特に高給だ。国からの支援も大きかった。だから、成果を上げようと研究者達はこぞって研究を行った。今は新人は入れず、今いる者達で元に戻す――または以前よりも良くする為に動いている事だろう。多くの人々が仕事が無くなった中でまだ仕事が山程ある身となるが、賃金の関係で人は減っているかもしれない。もしくはどこかしらで給金が減らされているか。それでも、今の世を変えられるというやり甲斐か、現状で職を失う事を忌避してか皆続けるだろう。


 彼らは、国を左右する者達だ。


 そんな立場の人間たちが主に過ごす事になる場所は、機能的で高水準な環境だ。交通の便が良かったり、効率を上げるために内部の施設の充実や、緑を取り入れたりとしていた。他の負担を減らす為に、機械も新しいものをどんどん導入している。お金を掛けている、という訳だ。お金を注ぎ込んで設備を充実させた結果――極彩色で煌めく様な派手なものでは無いが、外観は割りと目立ちがちになる。スペースを取られているという事もあり、目につきやすかった。特に町の中心部のもの程である。

 しかし、ゼロの前に建っている施設はひっそりと。まるで隠れるようで。昔の倉庫の様だった。住居は近くにはなく、交通機関も遠い。一般的な研究施設には当てはまらない。ただ、自費で行うような、フリーの科学者の可能性はある。もしくは研究対象の関係。

 フリーもしくは研究対象の関係ではないかという考えにゼロが行き着いた時、一瞬目を伏せた。睫毛を揺らして瞼を上げると同時に銃を抜き出す。銃口を一定の場所へ向けて引き金を引いた。瞬間的に放たれたのは、弾丸と呼ぶには相応しくない、一筋の光じみた銃弾だ。扉の一部分を焼いている。貫通はしていないようだ。しかし、焼いたその箇所にも、地面にも弾らしき物は転がっていない。位置をずらして再度撃てば、また扉の一部は焼けて溶ける。銃弾につく線条痕のように、同じ焼け跡がついていった。


 ――さすがに強固だな、と。ゼロは心中で呟く。


 既に壊れた場所に、更に破壊を重ねて綻びを生み出し、扉の内部が露わになった。だが、依然として向こう側は見えない。それでも、内部は剥き出しになった。そこにあった解錠のための部分に指を差し込んで、手探りで解錠する。解錠すると、確かめるようにドアを横に押した。ここまで科学が発展しても尚、手動という保険を残す人類にキスの一つでもしたくなる瞬間だ。

 機械が組み込まれているため、やや重さのあるドアをスライドさせて、漸く内部を見る。日中だというのに中は薄暗く、しんと静まり返っていて人の気配を感じられない。ジャケットのポケットから小型のライトを取り出して、光を出す。小さいが光は眩い程に強く、左右に振れば十分に周囲を確認出来た。廊下が続き、扉があるのが見える。靴音を鳴らし、数歩足を踏み入れて、まずは手近な扉に近付いた。当然の如く自動で開きはしない。入口ほどのセキュリティではないが、ロックされていた。ゼロは自身の銃の弾を確認する。



 ――エネルギー残量はある。予備もある、が。



 余裕があるのを確かめてから左右を見る。部屋はまだあり、全てにロックが掛かっている可能性があった。無駄遣いは出来ない。これ以上の一人での捜索は一時中断して、二人の到着を待った。

 入口で待っていれば、黒い車体が敷地内に滑り込むように入ったのがゼロの視界に映る。横付けして、降りた二人は扉の付近にいるゼロへと近付いた。ライは既に破壊されている扉に視線をやる。



「お。もう出入り自由になってるのか」

「待ってくれていたのね、ゼロ。さ、行きましょ」



 ライの言葉で、シンシアの視線も扉に向く。開閉出来るようになっている事だけ確認すると、促した。それに応えて、今度は三人で踏み込んだ。


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