第二幕

01










 空は重い鉛色が支配し、静かに、かつ長く降り続ける嫌な雨の日だ

 情報を集めるために、ゼロは外に出ていた。辛うじて機能しているといった内装のバルに入る。最新の機械が正しく機能しなくなり、その影響はあらゆる場に出たせいで、町にある販売店や、飲食店は激減した。だが、行くところのない人間は、光に集う蛾のように、こういった店に訪れる。

 どれも以前と比べ物にならないくらい高騰していて、それでいてろくな物は置いていない。当然、質の高さなども求めるだけ無駄だ。だがそれでも、行き場が無ければ来るしかない。しかし、因縁なんてつけようものなら、そういった客に慣れた店主により、路地で転がされるだけだ。こんな時代になって尚、店を出しているくらいだ。それくらい出来る店主だけが残っていく



「ご注文は」

「安い食べ物なら何がある?」

「チョコレートスティックとポテトならどっちが好きだ?」

「チョコレートスティック」



 シート部分が何ヵ所か禿げた席に座って、注文をする。カウンターに箱に入ったチョコレート菓子が置かれた。ゼロは開けて食べながら、横目で店内を見る。この店では安い物を頼み、それを時間をかけて食べながら過ごす客が何人もいた



「そろそろまともな飯でも食いたいところだぜ」

「作物は作り直しになったからな。しかも昔のやり方で」

「って言っても、もう出来てる頃だろ? 食べ物に関してはいい加減復活するんじゃないか?」



 時間を潰すために、世間話に興じる二人組の話がゼロの耳に届く。輸入品に関してはほとんど入ってこなくなったが、自国で作っている物は違う。一時期からは立ち直ってきており、少しずつ食料は出来始めている。それでも生産量の問題で、行き渡ってはいない。少なくともこの町では貴重品だ。だが、皮肉な事に、国全体で人口が減ってきている。食料に関しては幾分マシと言えた

 まるで随分昔の事のように話す二人組の話を聞いていたが、他の客に意識を傾ける。そうして話を聞いていると、隣の席に男が座って、ゼロの顔を覗き込んだ



「お? ずいぶん綺麗な顔をしてるな。この辺じゃ珍しい。そういう奴らは都市に行ったかと思ったぜ。その見目で商売でもしてるのか?」

「そんな物が大事な時代は滅びたと思うが。今はこれがモノを言う時代だ」



 何でもないように、男の視界に入れたのは武器――拳銃だ。外の危険性から武器の所有、使用は許可をされている。人間、獣、機械から身を守るための手段として。しかし、その自衛手段も全ての人間が持っている訳ではない。ナイフ程度ならまだ手に入りやすいが、銃となると持つものは限られる。更に銃弾が必要なものか、そうでないかでも違ってくる。ゼロの物は後者だった

 男が両手を挙げて身を引くと、ゼロは銃をしまい込んだ。



「悪かった。この町が長そうだ。詫びに良い事教えてやるよ」



 気に障った訳ではないゼロだったが、情報を得られると知って、聴覚に意識を集中させた。横目で男の様子を確認すれば、店主に酒を頼んでいる。



「町から結構離れるが、昔、研究者が一時利用していたっていう場所があってな。今は完全に廃棄されたが、もしかしたらだ良いモンが残っているかも知らねぇぞ」

「……有名な話か?」

「さあな。俺も人から聞いた話だ。だが、そこに建物があるのは知ってる。この目で見たからな」

「そうか。もう少し詳しい場所が知りたい」



 人づてならば、知っている者は多いかも知れない。この男が嘘を言っていないとも限らない。それでもゼロは、町の地図を取り出した。紙に書かれた手書きの物だが、服の中にしまわれていたため、濡れてはいない。男が地図を覗き込んで、場所を示した。経路を目で辿った後、ゼロは場所だけを今は記憶して地図を畳む。

 元の場所へ戻すと、立ち上がって店主に声をかけた。自身の分と、男の一杯の酒代を支払う。男は目を見開いてゼロを見上げた



「おい……?」

「情報料だ」



 男には一瞥もくれず、ゼロは言って店を出ていった。男は肩を竦める



「律儀なヤローだ」



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