02
――真偽はともかく、一つ情報は得た
拠点に帰りついたゼロは、地図に印をつける。雨により雫がついた銀の髪を手で纏めて、圧迫して水分を床に落とした。雨雲のせいで外は暗い為、光は入らず室内は暗い。それでも夜ではないだけ明るさがある。
灯りをつけず、シンシアから提供された物資を手に取り、割合明るめの場所で確認する。確認して、テーブルへと置いたり戻したりと分けていく。そうしているとノック音が響いた。咄嗟に自身の持つ武器の所在の部分に手を当てる
「マーチャントです。ゼロ様はいらっしゃいますか?」
「レッドか。入っていい」
物腰が柔らかい――というよりは商売慣れした声調が向こう側からした。聞き覚えのある声にゼロは入室を促す声で返答する。少しの間を置いて扉は開いた。中肉中背の男性が中へと入ってくる。古めかしい大きな鞄を背負っており、顔には笑顔が浮かんでいる。ゼロが正面の席を勧めれば、ソファへと座り鞄を降ろした。鞄を開いて、男は中の物を取り出す。テーブルの上にはカンテラが置かれ、続いて物品が並んでいった。食料やエネルギー物資の必需品や、銃やナイフなどの自衛に使える武器、更には見た目からは使い方がわからない変わった物まである
――自らを
「少しお早いかと思いましたが、いかがでしょう? 何か不足している品はありますか?」
「……この辺りは出来るだけ欲しいところだが……今回のレート次第だな。出せる品がこちらは少ないんだ」
ゼロが指差したのは、日常的に必要なエネルギー関係と、食料だ。しかし、それを購入するための物が少ない。というのも貨幣の価値が低い事もあって、レッドが求めるのは硬貨や紙幣ではなく、物だ。物々交換で成り立っている。ほとんどを受け付けてくれるが、特にパーツ類を喜び基準になっていた。そのため、ライは交換に見合う部品を漁りに行ったのだが、レッドが予定よりも早く訪れてしまったのである
それに対し、レッドは寛容な態度を見せた。うんうんと頷いて、理解を示している
「そうでしたか、そうでしたか。ゼロ様はお得意様ですので、後払いでも可能ですよ?」
相手の言葉を呑み込んで、ゼロの視線はテーブルへと落ちる。カンテラの僅かな灯りに照らされた商品たちを見てから、席を立った。先程仕分けた中からいくつかを取り、テーブルへと置く。レッドがカンテラを持ち上げて光に当て、一つ一つをまじまじと見つめた
「せっかくの申し出だが、次回必ず渡せる保証がない。これらでエネルギー類は買えるか?」
「左様ですか。そうですねぇ、ゼロ様は相変わらず良い物を持っていらっしゃいますから……これら全てとの交換という事で」
シンシアへの感謝を胸中に抱きながら、取引を成立させた。互いの手に渡った品を自身の方へと引き寄せる。レッドは購入とならなかった品も、大きな鞄の中へと収めていく。
彼が立ち去る前に、ゼロは地図を拡げてレッドに見せた。先刻男から聞いて印をつけた箇所を指差す。レッドは商品を収容する手を止めて、覗き込んだ
「ここに研究施設のようなものがあるという話だが、何か知らないか」
「……町のはずれの方ですね。私は情報の売買はしておりませんので、はっきりとは申し上げられないのですが……この辺りを歩いた際に、それらしき建築物があるのは見掛けましたね。ただ古くなっていて、使われていなさそうな雰囲気でしたので私は近寄った事はありませんでしたが」
「十分だ。感謝する」
レッドからも話を聞いて情報が合致した事で、研究施設ではないかも知れないが、何か建築物のようなものがある可能性は高まった。確定ではなくても、ゼロにとっては有り難い情報だ。感謝を述べると、レッドは何か言いづらそうに続けた
「それに、そのぉ~……この辺りには『番犬』がいると噂で」
「……番犬? 使われていない可能性が高いのに飼い犬の声が聞こえるという事か?」
「 そこまでは私にも……しかし、もし行かれるのでしたらお気をつけください。また近い内に訪れましょうか? ライ様にも武器が必要でしょう」
「あいつは……銃火器の類は使わなくてな。手に着ける物や、力に任せた物なら買うかもしれない」
「それでしたら、手に入りますよ。またお持ちします」
にっこりと営業スマイルを見せて、レッドは鞄に全ての商品を収めて立ち上がった。大きな鞄をまた背負い、ゼロが扉を開けて帰路への道を作れば礼を言って、去り際まで商売人らしく丁寧な振る舞いをして拠点から立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。