02




 階段を上がって廊下を歩いていき、一枚の薄い壁の前へと立つ。便利な扉であったが機能を失ってただの薄い壁と成り果てたドアをスライドさせた。

 ――開放感を与える大きくとられた窓。錆が見受けられるデスクセット。ひび割れや破損のあるアンティークな食器棚。ほつれや破れのあるソファ。どれも風景とマッチしているが使用感がある。元々このビルで執務や応接を行っていた場所とも、事を成しやすいように集めたともとれる場所がそこにはあった。

 たしかな足取りで奥のデスクへと向かう。着ているレザージャケットを脱いでイスへとかける。



「必ず見つける。……見つけなければならない」



 イスへと腰掛け、他に誰もいない空間で溢した呟きは空気に溶けていく。己の中で反芻して染み込ませていった。目を閉じて背もたれへと仰け反るようにもたれかかる。大きく息を吐いた。


 ――トラリーとロードの決着はつかない。だが資源は食い潰されていく。

 どちらかの手に渡っていないといいが。あるいは都市の方にある可能性もある。情報を集めなければならない。



 今の世界となってから。

 文明の発展を悪とし、昔のような生活に戻そうという思想の伝統主義と、文明の発展を良しとし、新しき時代を築いていこうという思想の新伝統主義が現れてぶつかり始めた。

 二つの派閥はそれぞれに沿った資材を専有しにかかり、新伝統主義は文明を発展させるための支援や活動を行う。伝統主義は破壊工作を行い、破壊されて出た資材は次へと活かされる。

 そして、どちらにも属さない者たちは、生きるためにあちらこちらから拾い集める。数少ない資源を。それが出来ない者たちは、文明の残る都市を目指す。生活が約束されていなかったとしても。


 下ろしていた瞼を上げ、椅子から立ち上がった。今回使ったライトをデスクへと置き、中身を確認する。



 ――旧式だが、さほどエネルギーは減っていないな。まだ保ちそうだ。



 残量を確認して、棚の上へと置く。壁に手をついて道を辿っていけば、出入口と同じ薄い壁を見つける。そこに手を置きスライドした。



 ――シャワーを浴びたら今日は眠ろう。明日は晴れるといいがな。



 暗い室内を振り返ってから、正面の部屋へと入っていった。


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