おんぶ
「かおりん本当に大丈夫?」
「うん、ちょっとひねっただけだから。駅から家まではそんなに距離もないし、和くんもいるからクラスのみんなで私の分も打ち上げのカラオケ楽しんできてね」
「うぅ、かおりんがそういうならしょうがないか。和希、頼んだよ」
母親が我が子を心配するような視線を翠は俺に向けてきた。
その目には本当に香織のことを心配していることが伺える。
「大丈夫だって、家も隣なんだし心配せずにお前らはカラオケ行ってこい」
「何かあったら連絡するんだよ? 二人のためならなんでもするから」
オーバーな気もするが、大地も心配しているのかいつもの爽やかな雰囲気がすこし乱れている。
「あぁ、分かってるよ。じゃあな、また来週」
そう言って俺と香織は家の方に歩き出した。
◇ ◇ ◇
「――ごめんね、和くん。荷物まで持ってもらっちゃって」
二人で帰り道を歩いていると、ふと香織が謝ってきた。その声音は本当に申し訳なさが溢れていて、今にも抱き締めて支えてあげたいほどだ。
(まぁ、怪我人にそんなことするわけないが)
「気にすんな。なんか他にもあるならちゃんと言えよ」
なんともなしに言った言葉だが、幸か不幸か、その言葉が原因で俺たちの関係が崩れたことを後に少しだけ後悔している。
「じゃあ――」
「?」
「おんぶ、してほしい……」
「おんぶ?」
「……うん、少し歩いていたら足が痛くなってきちゃったからおんぶしてほしいなー、って思って。もっ、もちろん和くんが嫌ならいいんだよっ?」
当然、嫌だと言うわけとなく、俺は無言で香織に近づいていき、目の前で香織を背にしてしゃがんだ。
「……っ、いいの?」
「ここまで姿勢をつくって嫌なんて言うやつがいると思うか?」
「そっ、そうだけど……」
「なにか不安でもあるのか?」
「重いかもよ?」
「男子高校生をなめんな、女子高生一人おんぶするぐらい平気だ」
自分から言い出したはずなのになぜか戸惑っている香織。やがて「じゃ、じゃあ失礼します……」と言って俺に体を近づけたところで、俺は香織の太ももに手を回し持ち上げた。
「っ……!?」
「かっ、和くん? やっぱり重かった?」
「いやっ、大丈夫。歩くぞ」
「……うん」
はぁ、まさかおんぶのせいで、否応なしに香織の胸が背中に当たってくるとは……。
元からそれなりにあるとは思ってはいたが、まさかここまで強調させられるとは。
ただ、そんなことを顔に出すわけにもいかず(後ろにいるので表情など分からないことに後に気づく)、俺は香織をおぶって黙々と家までの道を歩いた。
◇ ◇ ◇
どれ程の時間が経っただろうか。俺は今、見慣れたお隣さんの家――香織の家の目の前で、香織をおぶって立っていた。
「香織、着いたぞ」
「うん、ありがとう」
香織が俺の背から降りるのが少し名残惜しいが、ずっとこのままのわけにはいかない。俺は腰を屈めようと足を少し折ったところで香織が「待って!」と言う声に静止させられた。
「どうしたんだよ?」
「その……和くんがよければなんだけど、もう少しこのままがいい」
「このままって、人の目もあるし――」
ダメだろ、と言おうと思ったがいくら都市部とはいえ住宅街。さらに俺たちの家は少し入り組んだところにあり、めったに人が通らない。
「――わかったよ。ただし、俺の手が限界が迎えるまでだぞ」
「うん」
そこからは特に俺も香織も話すこともなく、ただおんぶをしていた。
「ねぇ、和くん」
沈黙を破ったのは香織だ。
いきなり話しかけられたので少し肩が震えた。
「ん?」
「小さかった頃、私が鉄棒から落ちちゃったときに和くんが家までおんぶしてくれたことあったよね」
「あぁ、あったな」
確か逆上がりの練習をしていたときに、誤って香織が鉄棒から落ちたんだっけ。幸い大事には至らなかったが、香織はずっと泣いていたことを思い出した。
「あの頃はずっと二人でいたよな、何をするにも、いつも」
「うん、そうだね。これからも、……そう言う関係でいたいな」
「おんなじ高校だろ? 少なくともあと二年半は一緒にいられるだろ」
「そうじゃなくて……ね」
「?」
「ずっと、高校も卒業したあとも二人で一緒にいたいなって思って」
「っ……!?」
「ねぇ、和くん」
「なんだ?」
「私と、お付き合いしてくれませんか?」
「――……」
「ど、どうかな?」
香織の表情は見えない、だが恐らく勇気を振り絞って言ってくれたんだ。それにしっかりと答えなくちゃいけない。
「俺は――」
「うん」
「ごめん」
「え?」
だが、俺の言葉はここで終わらない。
「俺はお前と――」
「ずっと一緒にいたい」
「付き合うだけじゃ足りない、俺には全然足りない」
「……」
「一緒の大学に行って、ある程度お金がたまったら結婚して、その……ゆくゆくは子供をつくって、死の一時まで一緒にいたいんだ。だから……」
結婚を前提に付き合ってほしい
今まで悩んで悩んで悩みまくったことを今この瞬間に、やっと吐き出すことができた。
誰かが言っていた、『告白とは人間関係を壊す爆弾である』と。確かにそうだと思う。お互いが告白した以上、もう俺たちは『幼馴染』と言う関係に戻ることはできない。
でも、……それでも俺はやっぱり香織が好きだ。
香織のどこが好きかと言われれば、なぜ好きなのかと言われれば正直まったくわからない。しょうがないじゃないか、気づいたら香織のことをずっと意識していたんだ。
だから、俺はこの言葉に悔いはない。
「……和くん」
「なんだ?」
「ほんとにずっと一緒にいてくれる?」
「何を今さら。ずっと一緒にいてやるよ、それが俺の――願いだ」
「ありがとう、それじゃあ――」
それじゃあこれからもずっとずーと、死ぬ瞬間までよろしくね
そう耳元で囁いて香織は俺の背から降り、そばにおいてあった自分の鞄を持ってそそくさと家のなかに入っていってしまった。
「なんだよ、歩けるんじゃないか」
もしかしたらおんぶをしてほしいと言ったのはわざとだったのかもしれない。
だが、俺にそれをとがめる権利などない。
『それじゃあこれからもずっとずーと、死ぬ瞬間までよろしくね』あの言葉が頭から離れられない。
初めて香織への恋心に気づいて何年だろう。やっと、思いを伝えることができた。
心にあったもやもやがなくなっていく。
それにしても、
俺の幼馴染み本当にかわいいな
再会した幼馴染との日常(再会した幼馴染が可愛すぎる件) 羽島りゅう @nemuyus
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