体育大会っぽいなにか
香織とのランニングをはじめてから二週間後――体育大会の日がやって来た。
俺たちの高校では市内にある競技場を借りて体育大会をやる。
今は校長先生・体育教師の諸注意などが終わり、やっと最初の種目の女子の100メートル走が始まったところだ。
俺は特になにもすることもないので、大地と一緒に準備運動をしている。
「なあ、大地」
「ん?」
「前から思ってたんだけどさ、体育大会って騎馬戦とかマラソンとかやるもんだよな?」
「そうだね」
「なんでうちは体育大会じゃくて陸上大会になってるんだ?」
「さあ? 僕に聞かれても分からないよ」
そう、うちの高校は体育大会という名前の行事はあるが、その実は陸上大会だ。ハードル走や高跳び、幅跳びやリレーなどの陸上競技しかない。別にあれこれ言うわけではないが、おかしくね? と昨日ふと思ったのだ。
「なになにー、なんの話してるの?」
「なんだ翠か」
翠は女子の100メートル走から帰ってきて疲れているのだろうか、額の汗をタオルで拭いながら俺たちの後ろに立っていた。
「酷いなー和希は。それよりもなんの話してたの?」
「なんでうちの体育大会は、中身が陸上大会なんだろうなって話だよ」
「ふーん、そんなところに気づくとは相当和希は暇人なんだねー」
「翠ちゃんもこの前そんなこと言ってなかったけ?」
いつからいたのか分からないが、香織が俺たちの話に入ってきた。香織の後ろには夜叉神さんも一緒にいた。
「香織の出番はまだなのか?」
「うん、和くんの100メートル走の後だよ」
「夜叉神さんは女子のリレーで大地が男子のリレーだったっけ?」
「はい」
「そうだよ、僕たちのリレーだけは午後だからお腹が痛くならないことを祈るよ」
と、そんな話をしていると俺の出る100メートル走に収集がかかった。
「んじゃ、言ってる来るわ」
「頑張ってね、和くん」
香織はポンッと俺の背中を軽く押した。
「まあ、たまには頑張るよ」
◇ ◇ ◇
「お帰りー和希。良かったね一位だったじゃん」
「あれを本当に一位と言っていいのかわからないけどな」
「一番早かった人がの人が靴が脱げて、次に速かった人が転んで、三番目の和希さんが結果的に一位のゴール。凄いことですよね」
ちなみにあと二人いたが、その二人は俺よりも少し足が遅いほどで結果、五人中俺が一位となってしまった。
「で、でも和くんかっこ良かったよ!」
ずいっと顔を近づけて俺のことを励ます香織。ふわっと香織のいいにおいが鼻孔をくすぐる。
「香織」
「なに?」
「その、走ってきて汗の臭いすると思うからもう少し離れてもらうと……」
瞬間、香織の顔がゆでダコのように赤くなる。
何度見たか分からない香織のこの赤さだが、俺もまんざらではない。
「かおりん、そろそろ出番だよー。頑張ってきてねー」
「頑張ってくださいね」
「うんっ、二人ともありがとう!」
そう言って香織は背中を向けて歩き出す。
「香織!」
「どうしたの、和くん?」
「そのっ、……頑張れよ」
俺が言ったのが意外だったのだろうか、しばらく呆ける香織。次いで、下を向きながら小さく「……ありがとう」と呟き、走っていってしまった。
◇ ◇ ◇
「なあ、遅くないか香織?」
香織の出場した女子・男子の幅跳びが終わり、今はもう女子の高跳びやっているが一向に香織が戻ってくる気配がない。
「そうですね、少し心配です。先生に聞いてきますね」
そう言って夜叉神さんは先生を探しに行くために席から立ったが、
「あっ、待ってちーちゃん。かおりん戻ってきたよ」
翠が指を指した方向を見ると、香織が他のクラスの女子の肩を借りながらこちらに向かってきた。
「遅くなってごめんね、準備体操しないでやったからかな、着地の時に足を捻っちゃって少し冷やしてたら遅くなっちゃった」
申し訳そうに香りは頭を下げる。
「大丈夫だよー。それよりもかおりんの足は大丈夫なの?」
「うんっ、少し捻っちゃっただけだから大丈夫だよ」
「そうですか、不幸中の幸いでしたね」
「そうだね、下手したらすぐにでも病院に行かなきゃいけなかっただろうし」
「ちょっと捻っちゃっただけで良かったよ。このぐらいならすぐに治るだろうし」
そうは言ってはいるが、一瞬だけ香織の顔が苦痛に歪んだのを俺は見逃さなかった。
ただ、香織が嘘をついてまで心配させまいとしていることを追求する気にもなれずに、黙ってしまう。
「和くん?」
さっきから一言も話さなかったことを疑問に思ったのだろうか。香織が心配そうな顔で聞いてくる。
「いや、何でもない。そんなことよりも、土曜のランニングとのときに『準備体操は大切』って言ってたのは誰だっけか?」
少し暗い雰囲気を紛らわすために、香織をいじる。
「む~、それを言われるとなんにも言えなくなる。和くんの意地悪」
プイッと言いながら顔を振り、怒ってますよアピールをする香織。
「ふふっ」
「夜叉神さん?」
「いえ、本当に仲が良いのだな、と思っただけですよ。羨ましい限りです」
『羨ましい』と露骨に言われ、露骨にキョドる俺と香織。
「夫婦円満なのは良いことだよー」
「「夫婦じゃない(よ)!」」
「息ピッタリすぎてこわいねー、二人ともー」
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