ランニング
「そういえば、ちーちゃんは陸上大会はなんの種目に出るのー?」
パクっと弁当の卵焼きを口のなかにいれながら、珍しく一緒に昼食を食べている夜叉神さんに聞く。
「陸上大会ですか? 私は女子のリレーに出るつもりですよ」
「陸上大会? そんな行事あったっけ?」
「入学式の日にもらったパンフレットに書いてあったはずだけど、大地は何に出るのか決めてるのか?」
「僕はなんでもいいかな。走るのも跳ぶのも好きだから」
「やっぱ運動万能は言うことが違うわ」
少し皮肉を込めながらからかってやる。
別に俺も運動ができないわけではないが、大地ほどではない。この前やった体力テストでも平均を少し上回る程度だったから、悪い方ではないと思う。ただ――、
「へえ、大地くん運動できるんだ。体力テストの順位何位だったの? 私結構自信あるんだ、勝負しない?」
「本当に勝負していいのか?」と言う視線を俺に送ってくる大地。それを首肯で返す。
「この前の体力テストは確か……5位ぐらいだったかな」
「へ?」
「たしか、男子総合で5位だったと思うよ」
「うぅ、負けた。私16位……」
ぐでーっと机に突っ伏す香織。
まあ、負けるのはしょうがない。学年の女子は大体160人いるはずだからその中の16位はかなりすごい。
ただ、もっとすごいのは大地だ。小学校の頃からいつも俺たちと遊んでいたのにも関わらず、体力テストの順位は運動部を抑えてトップレベルだ。
「小学校の頃から何故か大地は運動ができたからねー」
「そう言う翠もそんなに悪い順位じゃないだろ」
「私は30位だからねー。大地と比べちゃうとどうしてもランクが落ちるよねー」
「みなさん運動ができるんですね。羨ましいです」
「和くんは何位だったの?」
「ノーコメントで」
「和希さんはあまり運動が嫌いなんですか?」
「運動自体は嫌いじゃないよ、体育が嫌いなだけ」
よくわからないのか、コテンっと首をかしげる夜叉神さん。
「ほら、体育っていろいろと制限された状況下でやるから自由にできなくてあんまり好きじゃないんだよね」
「でもさー多分和希、運動しなくても言いよって言われたら運動しないでしょー?」
「まあ、多分しない……」
運動することは嫌いじゃないが好きでもない。やらなくてもいいのならおそらくやらないだろう。
「ちゃんと運動しなきゃダメだよ!」
「そういや香織は土日にランニングに行ってるよな」
朝方に家から走って出ていく香織を何度か見たことがある。
「うん、土日のどっちかにはランニングに行ってるよ。平日は体を動かしているからいいけど、 学校がないとなかなか体を動かさないから」
「香織さんは健康的ですね」
「そっそうかな」
誉められたことがうれしいのか少し顔を赤くする香織。
「そっそれより和くん。たまにランニングに行くときに目が合うけど、あの時間にはもう起きてるの?」
「起きてるよ、さすがにいつもじゃないが」
香織が大体ランニングに出かける時間は朝の6時過ぎ。俺が土日に寝るのは6時前後。寝る前にカーテンを閉めるタイミングでちょうど香織と目が合うことが何度かあった。
「和樹さんも早起きなんですね」
「あー、うん早起きだよ」
「ねえ、和樹。その起きてるっていつからの起きてるなの?」
「えっと、前日……」
さすがに同じゲーマーの翠の目は騙せなかったようだ。
「え、じゃあ私と目が合ったのってあれから寝るんだったの?」
「はい……」
「ちゃんと寝なきゃダメだよ。体にも悪いし」
「いつも寝よう寝ようとは思ってるんだけど、どうしてもな……」
香織のランニングの話をしていたのにいつの間にか俺の話になっている。居心地が悪い……。尋問とかってこんな気持ちなのかな。
「いいこと思い付いちゃった」
こちらをニヒヒと笑いながら見てくる香織。悪い予感しかしない。
「今週から和くんは私と一緒にランニングするよ!」
「はい!?」
「だから、今度の土曜日の6時に私と和くんでランニングに行くの。そうすれば早く寝なきゃいけなくなるし運動もできて一石二鳥だよ」
「ちなみに断った場合は……?」
「合鍵を使って和くんの部屋に入って叩き起こす」
「それだけは勘弁。わかったよ、今度の土曜日な」
「うんっ、忘れないでね」
「分かったよ。それだったら翠は連れていかないのか? 翠も多分変な生活してるぞ」
「翠ちゃんは運動できるからいいのっ」
なんとか翠を道ずれにしようとしたがダメだった。
結局これも強制みたいなものだから体育と変わらないが、好きな子と一緒に走るのも悪くないか? と考えていた。
……土曜日のランニングまでは。
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