お誘い
「翠ちゃんと大地くん遅いね」
「そうですね」
「どうせまた誰かと話して遅くなってるんだろ」
今週は翠と大地が掃除の当番のため、俺と香織、夜叉神さんの三人で二人を待っている。
「どうせ、という口ぶりからするに前にも何度かあったのですか?」
「話すことに夢中になってたり、途中で人助けとかをして予定時間に遅刻したことは何度かあるな。一番ひどいのだと、そもそも約束を忘れられたことがある」
最初の方はいちいち怒っていたが、それが数回続いた頃には特になにも言わなくなっていた。
それに、ちゃんと重要な用事の時や楽しみにしているときは、しっかりと時間に間に合う。この前の遊園地に遊びに行ったのがいい例だ。
「翠ちゃんはいつもマイペースだからね」
「確かに言われてみればそうですね。何にも囚われずに生きている気がしますね」
「たしかにそれはそうなんだけど……」
「?」
香織と夜叉神さんが、揃って首をコテンっと傾けて続きを促す。
「いや、ものはいいようだって思って」
「どう言うこと、和くん?」
「ほら、マイペースって良い意味もあるけど悪い意味もあるだろ? 『芯がしっかりしている』って言えば聞こえはいいかもしれないけど、重要じゃないものは放ったらかす『遅刻魔』って聞いたらまんまり良いイメージがわかないだろ?」
「うーん、たし……かに?」
「遅刻魔……ですか。あまり良いイメージではないですね。ふふっ」
「な?」
「なになにー、何の話しをしてるのー」
背中をバシッと叩きながら、掃除が終わったのであろう翠と大地がいた。
翠は叩いたことになにも思うところがないのか、そのまま香織と夜叉神さんと会話を始める。
「背中、大丈夫? 結構パチンって音がなったけど」
「ああ、そんなに痛くはないから大丈夫。それよりも、なんでこんなに遅くなったんだ?」
大方、翠のせいだとは思うが、わざわざ香織たちとの会話をと切らせて聞くことでもない。
「予想はしているとは思うけど、翠がずっと話していてね。割り込むのも気が引けたんだ。ごめん」
申し訳そうな顔をしながら大地は謝ってきた。
「いや、大地が謝ることじゃないと思うけど」
「それでも一応、待たせたことには代わりはないから」
翠と一緒にいることが当たり前になっている大地にとって、翠がしたことは自分もしたこと、と思っているのだろうか。
優しいやら思いやら。多分大地は、翠がいなくなったら壊れてしまうだろう。
「ほらっ、早く帰ろうぜ」
大地の肩をポンッと叩きながら、翠たちの方へ顔を向ける。
「せっかちだなー。せっかく私たちは、大地と和希の会話が終わるまで待っていてあげたのにー」
「俺たちだって翠のことを待ってたんだけどな……まあいいや、早く帰ろうぜ」
◇ ◇ ◇
「そしたら、谷川がふざけんなーって怒ってよ――」
学校からの帰り道、俺は大地に学校での愚痴を話し、後ろでは女子三人がよくわからないが、シャーペンの話をしていた。
「ああ、だから叫んでたのか。クラス中の人が見てたよ」
「だよなぁ」と返そうとしたとき、不意に横をプラチナブロンドの髪が通りすぎる。言わずもがな、夜叉神さんだ。
彼女は俺と大地、いや、正確には俺たち四人に向き直った。
「どうしたの?」
いきなりの行動に、香織が夜叉神さんに声をかける。
「あのっ……そのっ……」
言いづらそうに、腕を後ろで組んで、顔をうつむかせる。
――やがて決心したのか、「うんっ」と小さくうなずき、
「えっと、もしも嫌だったらいいのですが、こ……今度の日曜日に、う……うちで遊びません……か?」
いきなりの夜叉神さんからの誘いに驚いて声のでない俺たち。思わず隣の大地にも視線を向けるが、珍しく大地も驚きを表に出していた。
そんなリアクションが恥ずかしかったのか、夜叉神さんが顔を伏せる。……が、
「あったりまえじゃん! 遊ぼうよ、ちーちゃんの家で!」
「ほっ、本当ですか?」
「俺も行くよ」
「私も行きたいな、ちーちゃんのお家」
「僕も行かせてもらっていいかな?」
「もちろんですっ! ……皆さん、ありがとうございます」
顔をパァアっと輝かせる夜叉神さん。
次いで、夜叉神の真っ白なほほを透明な雫が走る。
「す、すみません。友達を遊びに誘ったことがなかったので、つい」
「ぜんぜんいいよー、むしろ美少女の涙を見れて満足だよー」
「そっ、そう……ですか。良かった……です」
翠の変態発言に、若干引く夜叉神さん。
「夜叉神さん、あんまり相手にしない方がいいよ。ああなると、翠はめんどくさいから」
「ひどいなー、美少女の涙なんでそうそう拝めないんだぞ」
「翠ちゃん、崇拝する対象が他の人とはずいぶんかけ離れてるね」
「かおりんまでー。助けてー大地ー」
「今回はフォローできないから一人で頑張って」
大地までフォローしてくれないと知り、俺に視線を向けるが、
「ふいっ」
「おい、なんだその『ふいっ』って」
「いや、どーせ和希も駄目だろうなって思って」
「まぁ、無理だけど……。ってそんなことはどうでもいいんだよ。そんなことよりも日曜日の予定。夜叉神さん」
「はい?」
「何時ぐらいに行った方がいいとかある?」
「うちは何時でもいいですよ」
「そっか、じゃあ後でグループLINEで決めよう」
グループLINEにはちょうどこの五人が入っている。話した内容も忘れないようにするにも、LINEの方が都合がいいだろう。
「そうですね、では今日の夜にでもまた」
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