間違い
結局俺たちは、学校からの帰り道にある、イタリア料理がメインのファミリーレストランに入った。
「さーて、なに食べるー?」
メニューをペラペラしながら翠が聞いてきた。
「私はカルボナーラを食べようかな。……ん? ちーちゃんどうしたの?」
俺は香織の夜叉神さんを心配した声に反応し、メニューから顔をあげ、夜叉神さんを見ると、夜叉神さんは店内にある絵画に釘付けになっていた。
「おーい、ちーちゃーん」
香織が夜叉神さんの視線を遮るように手を振ると、やっと気づいたのかはっと顔を動かし、パシパシと瞬きをした。
「どうしたの、ちーちゃん?」
いつものおちゃらけたテンションではなく、珍しく真面目な声音で翠は夜叉神さんに問った。
「いえ、まさかあんなにも有名な絵画が失礼ながらこんなにファミリーレストランにあるとは予想もしておらず、少し驚いていたのです」
夜叉神さんが釘付けになっていた絵画をもう一度見ると、口の開いた大きな貝の上に全裸の女の人が立っている絵があった。何度も教科書などで見た有名な絵画だが……、
「あれ、本物じゃなくてコピーだぞ」
「えっ」
普通に考えてこんなにも有名な絵画が、ファミレスに置くはずがない。
「本物ではないのですか……?」
残念そうな顔をしながら、俺や大地、香織や翠を見回すが、
「ちーちゃん、あれは本物じゃなくてコピー。イタリア感を出すために作られた模造作品だよ」
翠はきっぱりと言った。
「っ~~~~」
本物だと信じていたことが恥ずかしかったのか、夜叉神さんの顔はみるみるうちに赤くなった。
白い肌と髪の毛と対比で遠目から見てもわかるほどだ。
「それで、ちーちゃんは何を食べるの?」
「え?」
「え?」
何を食べるのか聞いたのに「え?」、と返されることを予想していなかったのか、質問した翠も同じく聞き返していた。
「あちらの方のように、料理が勝手に出てくるのではないのですか……?」
夜叉神さんの視線の先には店員が他の客に、料理を届けているところだった。
「あー、ちーちゃん。ここは頼まれた料理しか出てこないんだよ」
翠が苦笑しながらも、夜叉神さんに教える。
「そっ、そうだったんですか」
とうとう恥ずかしさに耐えられなくなったのか、夜叉神さんは俯いてしまった。
「夜叉神さん、安心していいよ。さっき翠が、ファミレスの事を、根掘り葉掘り教えてあげるって言ってたでしょ?」
大地がいい感じのフォローをしたことで、夜叉神さんはうつむいた顔をゆっくりと上げ、翠を見た。
「大丈夫っ。こう見えてもちゃんと約束は守るからー」
「私もだよ」
「俺も」
「僕だよ。だから、ねっ?」
「みなさん……ありがとうございます!」
夜叉神さんは嬉しかったのか、頬を赤ではなくピンクになっていたような気がする。
◇ ◇ ◇
その後も夜叉神さんは、ドリンクバーの使い方がわからなかったり、注文の方法がわからなかったりといろいろとあった。しかし、初めてのファミレスを十分に満喫することができたのか、帰る頃にはあたふたしながらもその感覚を楽しんでいるように見えた。
「それじゃあ、私と大地はちーちゃんを送って帰るからー」
家の方向が大地と夜叉神さんは同じのようで、最初は二人で帰ろうとしていたが、翠も一緒に帰ると言い出し、結局俺と香織が二人だけで帰ることになってしまった。
「じゃあねー、和希、かおりん」
「おう」
「じゃあね」
「幸せな一時をどうぞ」
そう言って翠は、先に歩き始めていた大地と夜叉神さんの背中を追った。
「なっ!? おまっ!」
少し言い返そうとしたが、そのときにはすでに大きな声を出さなければ届かないようなところにいた。さすがに大声を出すのはためらわれるので、今度言うことにする。
「ちっ」
隣にいる香織は顔を赤くして「はふ~~」と言って顔を赤くしていた。
「帰ろうぜ」
「うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます