初めて
テスト期間が終了し、今日はテストの返却がすべて終わり、有頂天になっている人や憂鬱になっている人など、クラスの中はさまざまな声であふれかえっていた。
テスト返却のある日は、基本的に普段の授業よりも早く終わる。今日もその例外ではなく、事実俺たちは弁当を持ってきていない。
「和希ー、大地ー、帰ろー」
黒板の前で教科書を積めていた俺を翠が教室中に響くどでかい声で呼ぶ。
もう慣れたものだけど、最初の方はみんな俺や大地の方を向いてきていた。今は「またか」ぐらいにしか思っていないのか、ほとんどの人は反応しない。
「行こうか」
後ろから声が聞こえ、声のした方に振り替えると、帰る準備が終わったのか、大地が俺の横に立っていた。
「おう」
「遅いぞー、二人とも」
「そんなに待たせてないだろ」
「レディーを待たせたらダメなんだよ、和くん」
当然だよ、といいたげな顔でほほを膨らませる。
「まあいいや。帰ろうぜ」
うん、ああいう面倒くさいのは無視するのに限る。
「人を待たせておいてひどいぞー、和希」
「へいへい、悪かったって」
こんな会話も、何の変哲もないいつもの日常。
ただ、ひとつ変わったことはといえば――、
「ちーちゃん、一緒に帰ろー!」
昇降口に向かう廊下の途中で、翠が教室の扉を開けその人物を呼ぶと、例のプラチナブロンドの髪の子――夜叉神さんが、翠に手を惹かれながら教室から出てきた。
そう、図書室の一件の後から夜叉神さんと仲良くなった
変わったことといえば、これぐらい。いつも通りの日常。俺はこの四人と一緒に他愛もない会話をするのが好きだ。
◇ ◇ ◇
「ちーちゃんはテストどうだった?」
五人で帰っていると、やはり学年首席のテストの点数が気になるのか、翠が夜叉神さんにテストの点数を聞いた。
「国語以外は95点を越えていましたよ。国語は現国の範囲で、ミスを連発してしまい……」
「それで、何点だったの?」
国語の点数も知りたいのか、さらに問う。さすがに言い渋っているのに、それはないだろうと思い止めようとしたが、あっさりと夜叉神さんは答えた。
「91点でした……お恥ずかしい」
「ちーちゃんすごい頭いいんだね、さすが学年首席さんだね」
「香織だってテストの点数はそんなに悪くなかっただろ?」
「うんっ、みんなと一緒にテスト勉強したからすらすら解けたよ!」
確か香織は、上位の点数こそとっていなかったが、大体がクラスで10以内に入っていたと思う。
「それにしても、そんなにテストの点数をとっても満足しないのか」
「え?」
「いや、そんなに点数が軒並みいいのに、落ち込むなんて目標が高いな、と思って」
「学年一位の教科が、数学Aと1しかなかったのもあるんですよ……」
「あー、それは大地と和希が悪いねー」
ニヤリと俺と大地の方を向き、翠は暴露した。
「だって、和希と大地の二人で、ちーちゃんが取れなかった学年一位を総舐めしているからね」
「本当ですかっ!?」
いつにもなく多きな声を出した夜叉神さんの反応に少し驚きながらも、俺と大地は頷く。
「そうだったんですか……。なら、納得ですね」
まあ確かに、図書室で夜叉神さんと会ってからは、それ以降ほぼ毎日のように俺たち四人で図書室に通っていた。
そのときに、わからない問題の教え合いなどもしていたので、自然と俺の得意教科などもわかったのだろう。
「ねえねえみんな、お腹空かない?」
テストの話題から方向が急展開した。
「そりゃあ、十三時も過ぎればおなかがすくだろ」
スマホの時間は十三時を少し過ぎたぐらい。いつもならとっくに弁当を食べている時間だ。
「だったらさー、みんなでどっかに食べに行こうよ! せっかくちーちゃんもいるんだし」
「私と和くんはいいけど……ちーちゃんは大丈夫なの?」
元々今日の昼ご飯は、香織が作ってくれる予定だったので、俺は香織が大丈夫なら問題ない。どうやら翠や大地、夜叉神さんも門限までに帰ってくれば何の問題もないようなので、下校とちゅうにある、ファミレスに入った。
「私、初めてファミレスに来ました……」
「へー、今まで千華さんは外食はどうしてたの?」
俺も気になる。ファミレスに行ったことがないのは結構レアな気が。
「ええ、基本的に外食といったらホテルの中のレストランなどしかなくて」
そういえば、前から夜叉神さんの家は、かなりのお金持ちだというのは匂わせていたが、まさかそこまでとは。
「じゃあ、ちーちゃんの初めてのファミレスに私たちと行くのか」
「根掘り葉掘りファミレスのことを教えてあげるからねー」
翠が手をアニメの変態キャラがやるそれのように動かした。
「おい」
「いった! 何でチョップするのさ」
「あんまり変態なことするな」
「同性だからいいんですー」
「めんどくせぇ、ほら、とっとと行くぞ」
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