勉強会
ゴールデンウィークの最終日。せっかく最後なんだから、思いっきりだらだらして過ごそうと思い昼前まで寝ていると、枕もとにおいてあったスマホが着信音を部屋に響かせた。
「――はい……」
「あっ、和希? 私だけどさー」
「……おれおれ詐欺ならぬ私私詐欺ですか。通報しますよ」
「和希、そんなキャラだったっけ?」
「寝起きなんだよ、それで何の用だよ翠?」
俺を着信音で起こしたのは翠だ。寝起きに翠のハスキーボイスはかなり頭に響く。
「もうすぐ中間テストだから、いつもの四人で勉強会しない?」
「別にいいけど……」
「じゃあ今から、和希の家に行くね」
「は? 今から俺の家で?」
「そうそう」
「俺、寝起きって言ったよな」
「こんな時間から寝ているのが悪いんだよ、じゃ」
そんなこんなで、翠から電話がかかってきたと思ったら、一方的に話が進められ、一方的に俺の家で勉強会をすることが決められた。
部屋着に着替え、眠い目を擦りながらペタペタと足音をならしながら階段を降りていると、早速チャイムがなった。
玄関を開けると翠と香織が立っていた。
「悪いねー、急に押し掛けて」
「悪いと思うんだったら、押し掛けて来るな」
少し口をこぼすと「はいはーい」と言いながら、なんの気兼ねもなくリビングに入っていった。
「ったく」
「か、和くん……」
「っ……」
この前出掛けたことの内容が否が応でもフラッシュバックしてしまい、ついつい香織からの視線から目をそらしてしまう。
「あんまり、その……この前のことを思い出さないで欲しいんだ。私も和くんもちゃんと話せなくなっちゃうから……」
「努力はします」
「うん、私も努力はする」
家に上がり、香織は自分のと翠のくつを揃えた。
リビングに入ると、テレビの前にあるローテーブルの上に教科書を広げている翠がいた。
「話は終わった?」
「……気の利いている行動だったのかもしれないけど、今の発言で台無しだな」
「えー、それで? もういいの?」
「大丈夫だよ、あります翠ちゃん」
「そっか、じゃー勉強を始めよー」
「うん」
珍しく勉強にやる気を出した翠が、ワークに向かい、香織が翠の前に座った。
俺もテスト勉強をするための教材を取りに部屋に向かい、リビングに戻るとぐったりとした様子の翠がいた。
「どうしたんだよ」
「わからない!」
「教えてやるから、やる気をなくすような態度を直せ」
「ここがー」
翠はシャーペンをプラプラさせながら、ワークのわからない問題のところをつついた。
「――って書いてあるんだから、5!×2!になるだろ」
「あっ、ほんとだ。出来た」
丁寧に教えればできるが、丁寧に教えなければできないのが翠だ。高校受験の時にさんざん教えたから、翠に教える手腕だけはあると思う。
ふと、反対から視線を感じ、目を写すと香織が驚いたような顔をしていた。
「どうしたんだよ」
「いや、本当に勉強が出来たんだなあって思って」
よく言われる。普段ゲームばかりしているのになぜそんなに勉強ができるのか、と。俺もわからないから、永遠の謎なんだろう。
「あ、私もここ分からないから教えて」
両手で英語の教科書を俺の方に差し出した。
「あ、無理」
「なんで?」
「和希は英語ができないんだよ」
横から翠が首を突っ込む。
「へー、英語ができないんだ。何点だったの?」
「……30点」
「え?」
「30点しかとってない」
「ちなみに他の教科は?」
「軒並み95点以上」
「凄い差だね……」
少し香織が引きぎみで話す。
「だから英語は教えられない、ごめん」
頭を垂らすと、手をブンブン振りながら香織が慰めた。
「そんなこといよ。完璧な人より、苦手な教科が一つぐらいあってもいいんじゃないかな」
「大丈夫だよ、かおりん。そろそろ文系だけ異常にできるのが来るから」
「それって……」
香織がなにかを察したとたんに、家のインターフォンが鳴る。
「開けてくるよ」
ガチャリと鍵を開けると、いつも通りの涼しい顔の大地がいた。
「こないだぶりだね」
「そうだな、もうみんな来てる。早速だけど香織に英語を教えてやってくれ」
そう、文系だけ完璧にできるのは大地だ。ちなみに理系はさっぱりできない。
「和希は英語ができないからね」
「お互い様だろ」
苦笑した後にくつを揃え、リビングに入る。
「やあ」と軽い挨拶を翠にして、大地は早速香織に勉強を教え始めた。
「――俺も勉強するか」
「和希ー、ここわかんなーい」
……自分の勉強に取りかかるのは、まだまだ先になりそうだ。
◇ ◇ ◇
途中で俺が昼ごはんを食べていないことを思いだし、適当に準備しようとすると、香織が手際よくおにぎりを作ってくれた。
そして、休憩などを挟みながら、勉強会をはじめて早四時間、翠が飽きた。
「つーまーらーなーいー」
「自分から始めておいて……」
「あはは……」
「頑張って、翠ちゃん」
香織が促し、少しだけ進んだが途中で切れた。
「よしっ、おやつ食べよう!」
がばっと顔をあげ、自分の家からおやつを取りに行くためか、急いでリビングから出ていった。
「私もなにか取ってくるね」と言って香織も家に帰った。大地は用意がよく、持ってきたバックの中からクッキーを取り出した。
「はあ、先が思いやられる」
そんな愚痴をこぼしながらも、台所にお菓子と追加の飲み物を取りに行く俺を見て、大地は笑っていた。
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