イヤリング
「ねえねえ、かおちゃん。かおちゃんはどこに行きたい?」
目的としていたクイーンズスクエアには着いたが、この先の予定はさっぱり決めていない。決めているとしたら、夜になったら観覧車に乗り、夜景を眺めることぐらいだ。
「うーん、あんまり荷物になるものは買わない方がいいから、アクセサリーとか見たいな」
この後は目の前にある遊園地に行く予定なので、服やバッグなど荷物の大きいものは買えない。
フロア案内でアクセサリー店を探したが、どれも高校生が手をつけられるような価格帯の店ではなかったので、結局はぶらぶら歩いて気に入った店があれば入る、という感じになった。
『荷物にならないもの』とはいえメモ帳やシャーペン、小さなストラップなど、どんどん買っていくのでそれなりの量になった。
翠との買い物で慣れているのか、買ったものを何食わぬ顔でスッと持つ大地が流石だと思ったのは秘密だ。
確かに代わりに荷物をもってあげるべきかもしれない。そんなことを考えていると、香織が店ロゴの入った紙袋を手に下げながら出てきた。
「俺が持とうか?」
「う、うん」
そう言って香織はおずおずと俺に紙袋を差し出した。そのとき、少しだけ俺の手と香織の手が触れた。
「……っ!」と俺にだけ聞こえるぐらい小さな声で動揺してしまった。
「さーて、次に行こう! あれっ、かおちゃん、顔赤いけどどうしたの?」
「なっ、何でもないよ!」
……俺と手が触れて照れている? そんなわけないか。
「なんとも初々しい二人だね」
既に三つほどの紙袋をぶら下げた大地が、普段は翠が言いそうなワードを口にしながら、話しかけてきた。
「好きな子と手が触れたら、そりゃあ緊張するもんだろ?」
「どうだろうね? 僕は小さい頃から翠と一緒にいるからあんまり気にしたことはないけど」
「幼馴染カップルは言うことが違うな」
「一応和希と香織ちゃんも幼馴染の関係でしょ……」
いや、俺と香織も正真正銘の幼馴染関係だが、七年間会っていなかったためか少しだけアドバンテージを感じてしまい、どう接したらいいのかわからなくなる。
それに俺は、香織と幼馴染以上の関係になりたいわけで……、そんな俺の心を察したのか大地は、
「まあ、いろいろと頑張ってね。応援しているよ」
そう言い残し、翠と香織を追いかけた。
……なんか最近翠と香織においていかれてばっかりな気がする。
◇ ◇ ◇
回った店の数がそろそろ二桁に上るというときに、それは起きた。
四人でイヤリングの売っているショップを物色していると、突然翠が「私、少しお手洗いに行ってくるねー」と言い残し、何故か大地を連れて出ていってしまった。
「何で大地まで?」
「さあ? あっ、これ可愛い!」
香織は、四つ葉のクローバーの形をしたイヤリングを手に取った。
「着けてみよっ」
「いいのか、勝手に?」
「このお店はいいんだって。さっきお店の人が言ってた」
そう言って香織はイヤリングを着けようとするが……、
「あれっ、鏡がないや」
確かに回りを探しても鏡がない。それどころか店にはいつの間にか店員もいなくなっており、俺と香織だけだった。
「その、和くん。一回着けてみたいんだけど、私鏡ないとつけれないから、和くん着けてくれない」
上目使いで足をもじもじさせながらそう言われては「いやだ」とも言えるわけもなく。
「分かった」
「ありがとう」
そう言って香織は耳に茶色い髪の毛をかけた。その耳は真っ赤に染まっていて、香織の耳にイヤリングを着ける俺の耳も、さぞ赤くなっているのだろう。
香織から受け取ったクローバーの裏についているネジを回し、着けるために香織の耳に触れる。
「ひゃっ」
「頼むから声を出さないでくれ……。俺も……その、緊張するから」
「ご、ごめん」
もう一度確認の真っ赤な耳に触れ、イヤリングのネジを回す。恥ずかしいのか香織は目をつぶっていた。
「……着け終わったよ」
「ありがとう。どう、かな? 似合ってる?」
俺の方に振り返った香織はキラリとイヤリングを光らせ、耳だけでなく頬も真っ赤にさせて聞いてきた。
「か、可愛いと思う。似合ってる」
「えへへ、そっか」
そう言って香織はイヤリングの
「ん? 自分で外せるんだったら、自分で着けられたんじゃないのか?」
すると香織は明らかに動揺した。
「そっ、そんなことないよ。ほら、外すのは簡単だし」
言葉が途切れ途切れなところが怪しいが、知らないことにしておこう。ちょうど香織がイヤリングをはずし終わったところで、翠と大地がトイレから帰ってきた。
「かおちゃんなんか良ーのあった?」
「……うん」
どうやら香織はさっきのイヤリングが気に入ったようだ。
「四つ葉のクローバーかー。かわいいね」
「うん、買ってくるね」
店内を見渡すと、いつの間に戻ってきてのか店員がレジの前に立っていた。
レジで財布を出しかけた香織を手で制し、財布から金を出した。
「か、和くんそれは私が――」
「ほら、思い出がまたできただろ?」
そうなだめるように言い「うん、そうだねっ。ありがとう!」とはにかむように笑い、納得してくれた。
ぶっちゃけ香織のその笑顔だけでこのイヤリングを払っただけの価値はあると思っている。
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