動く歩道
俺を含めた4人でみなとみらいに行くことが決定した夜、グループLINEで詳細を日がまたぐほどまで話し合って決めた。
実際、予定自体はすぐに決まったが、途中から翠が雑談を始めたために長引いたのだが……。翠の雑談にだんだんと飽きてきて、寝ようとするタイミングで「和希はどう思う?」とくるから寝られなかった。
なんや家でごろごろしていればあっという間に数日が過ぎてしまい、当日――
「おはよう、和くん。いい天気だね」
「おはよう、香織」
雲ひとつない……は嘘だけど、青々とした空が広がっていた。
別に待ち合わせをしていたわけではないが、香織しっかりと俺のことを家の前で待っていた。
「今日の服、どう……かな?」
家の鍵を閉め、香織の方に再び向き帰ると顔を赤らめながら聞いてきた。
こないだ買った服だろうか、白のカットソーの上にジーンズのアウターを羽織り、ベージュのパンツに白と黒のスニーカーを履いていた。
「どう返すのが正解なのかは分からないけど、……可愛いと思う」
「えへへ、ありがとう……」
香織が喜んでいるならそれでいいんだが、こっちも恥ずかしい。その気持ちを紛らわすように、無意識のうちに少し早足になっていた。
◇ ◇ ◇
「おーい、遅いぞー」
駅につくとそこには既に、翠と大地がいた。
「ごめんね翠ちゃん、遅れちゃって」
「いやいやいや、遅れてないからちゃんと集合時間前についているから」
左手につけた時計を見ると、まだ集合時間の五分前を指している。
「でもさー、五分前だったら全部の信号に引っ掛かったら、簡単に過ぎちゃうよ?」
「僕はたまたま早くついちゃったんだけど、そのときにもう翠はいたからね。たしか……二十分前ぐらいだったかな?」
「そんなに早くについていたのかよ。家が隣なんだから俺たちと一緒に行けば良かったのに」
「いやー、二人の仲睦まじいところに私が入り込むのもねー」
こないだ三人で映画に行ったばかりなのに、今さら感が否めない。
「それだけ楽しみにしていたんじゃないのかな?」
大地のフォローとも煽りとも受け取れる言葉に、珍しく翠がほほを赤めた。
「っ~~~~! ほらっ、早くしないと電車が来ちゃうよっ!」
いたたまれない雰囲気になったためか、翠はICカードを取り出し、さっさっと改札方面に歩いて行ってしまった。その後ろを香織が追いかけていった。
その光景を見ていると思わず笑いが込み上げてきた。隣を見ると、珍しく大地もいつもの涼しい顔を崩して笑っていた。
「追いかけようか」
「あぁ。……なんかこのシチュエーション、この間もやった気がするな」
「同感、僕もそう思う」
◇ ◇ ◇
横浜駅で根岸線で乗り換えをし、桜木町駅で降りた。予定ではみなとみらい線に乗りみなとみらい駅で降りる予定だった。
なぜ桜木町駅で降りたかと言うと、横浜駅までの車内で突然翠が「これに乗りたい!」といったからだ。それは……
「動く歩道に乗るの久しぶりだー」
動く歩道に乗るためだ。それだけのためにわざわざ目的地から遠い、桜木町駅で降りた。
「ほらほら大地早く行くよ」
子供のように大地の腕を引っ張って、翠はずんずん進んでいく。そして、二本ある動く歩道の一本目にいざ乗ると言うときに「あ」と声を漏らし、
「かおちゃんと和希先に行っていいよー」
なにか含みのある言い方でそういったが、香織が「行こ?」と上目遣いで聞いてきたため、香織、俺、その後ろに翠、大地の順番に乗っ……て来てない!? は? どう言うことだ? 俺と香織は既に動く歩道に乗っているため引き返すことができない。すると翠が、
「ちょっとだけだけど、二人の時を楽しんでねー」
と、ニコニコしながら(俺には黒い笑みにしか見えないが)手を降った。
その光景を見ていた回りの人は、俺と香織を微笑ましい顔で視線を送ってきた。そんな視線を全く真に受けず香織は俺に話しかけてきた。
「――? あれっ、翠ちゃんと大地くんは?」
「あー、なんかあとから来るらしい。理由は知らないけど」
「そっか、じゃあ少しだけ二人っきりだね」
少しだけドキッとしたが、それ以降特に何もなく動く歩道を降りた。
しばらくして、翠と大地が談笑をしながら俺たちのもとに来た。
「どうだった?」
いたずらが成功した子供のような顔で話しかけてきた。
「どうだったもなにも、なにもなかったよ」
「えー、せっかく二人の時間を提供してあげたのにー」
「余計なお世話だ」
「そっ、ならいいや。かおちゃん行こー」
今度は香織の手を引きながら翠は動く歩道に乗り、その後ろを少し間を開けて大地、俺の順で乗った。しばらくして、大地がポツリと独り言のように話始めた。
「翠は香織ちゃんと和希を早くくっつけようとしているだけなんだ」
「……? どうしたんだよ急に」
「いや、翠は和希が幸せになってほしいから、あんな行動に出ているのを知って欲しかっただけだよ」
翠はああ見えて観察力が高く、どうせ言わなくても俺が香織のことを好きなのは分かっているんだろう。だから余計に、
「過剰に反応しすぎるんだよな」
「あんまり、そこには気にしていないようだけどね。っと、もうそろそろで終わるね」
前を見れば翠と香織が降りた先で俺たちを待っていた。
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