計画

「来週からせっかくのゴールデンウィークなんだから、この四人でどこか行かない?」


 翠がそんな提案をしてきたのは、五月に入ってはじめての金曜日の昼休み。いつものように俺、香織、翠と大地の四人で机を合わせ、弁当を食べていた時だ。


「『どこか行く』って言ってもどこに行くんだよ?」


「それを今から決めるんだよ。皆ゴールデンウィークは何か予定入ってる?」


「俺は何も予定はない」


 うちは基本、親が両方とも休みと言うことがないのでどこかに出掛けることはほとんどないから、俺は基本的に家にいる。


「私もどこか行くような用事は入ってなかったな」


「僕は旅行に行くけど、最後の二日間だからその日以外なら」


「なるほどー、大地だけ裏切り者か。それで、どこに行く?」


「あはは……」


 翠の言葉に少し大地が気分が落ちたように見えたが、翠に絡まれると面倒なのでスルーする。ごめん、大地。


「はいっ。私、お買い物に行きたい!」


 ビシッと手を挙げ、香織が提案した。つい数週間前に映画の帰りに、買い物に行ったばっかりなのにまた買い物に行きたいのか、相変わらずその考えが俺には分からない。


「いいねー。和希はどこかある?」


 そう言って右手で持った箸を俺に向けた。


「無難に遊園地でいいんじゃないか?」


人が多いかもしれないが、それを抜きにしても十分楽しめるはずだ。


「おー、テンプレ。大地は?」


「僕はどこでもいいよ」


 大地は基本的に俺や翠に意見することはほとんどない。多分、翠と一緒ならどこでも良いんだと思う。翠にべた惚れだし。


「うーん、遊園地が近くにあって買い物できるところかー。意見募集ー」


「ディズニーランドはどうかな?」


「うーん、人が多すぎて大半が待ち時間で終わっちゃいそうだからなー」


「そっか……そうだね」


「そ、そんなに落ち込まないでよ。卒業遠足でもディズニー行くんだからそのときに一緒にいけばいいよ」


 少し残念そうにしたが、翠が上手くフォローしたお陰ですぐに別の案を考え出した。

 まあ、確かにアトラクションに乗るだけでも余裕で一時間待ちとかがあるような場所だ。大半が待ち時間で終わる。


「……みなとみらいは? あそこなら遊園地もあって、すぐ近くにクイーンズスクエアもあるから良いかと思ったんだが……」


「和くんの意見に賛成! 私も久しぶりに行きたい」


「じゃあ、みなとみらいに決定でいい?」


 全員が賛成したため、行く場所はみなとみらいに決定した。次は、


「遊園地……コスモワールドだっけ? と、買い物どっちを先にする? 俺はどっちでもいいけど」


 買い物を先にすると後の遊園地で荷物が邪魔になり、先に遊園地に行くと疲れて買い物気分じゃなくなるかもしれない。


「私は、お洋服とかじゃなくて、アクセサリーとか小物を買えればいいかな」


「私もかおちゃんの意見に賛成ー。せっかく行くんだから観覧車からの夜景も見たいから、後に遊園地の方がいいと思う」


「じゃあ、それで決定で。そろそろチャイムなるから後のことは今日の夜にLINEで決めよう」


 ガタッと椅子を引き自分の席に戻ろうとすると、翠が黒板の前にある時計を見て、……固まった。


「うわー、もうチャイムなっちゃうの!? 三人とも話してたのに何で私だけ食べ終わってないの~」


「ずっと話していたからだろ。早く食べないと授業始まるぞ」


         ◇ ◇ ◇


 午後の授業も滞りなく終わり、翠と大地と一緒に帰るつもりだったが用事があるようだったので、香織と二人で帰っているとき、なにやらニコニコしながら話しかけてきた。


「久しぶりだね、和くんと一緒に遊園地に行くのなんて。たしか……最後に一緒に行ったのもコスモワールドだったよね?」


「……覚えていたのか」


 最後に行ったときはたしか、珍しくうちの両親と香織パパ・ママがいた気がする。


「ちゃんと覚えてるよ。二人でじゃんけんして何に乗るのか決めてたよね」


「香織の身長が足りなかったりして乗れないのもあったけどな」


 思い出し笑いをすると、「もうっ」と言いながら香織は俺の腕をポカポカ叩いてきた。


「そのとき最後に透明なゴンドラの観覧車に乗って、香織すごい喜んでたよな」


「うんっ、それもちゃんと覚えてるよ。最初は怖かったけど途中から楽しくなっちゃった。逆に和くんは、和ママに引っ付いていたけどね~」


 さっきのお返しだろうか、今度は香織が「ふふっ」と思い出し笑いをした。


「普通怖いだろ、香織がおかしかったんだよ。さすがに今は平気だから」


「本当に? じゃあ、もう一回一緒に透明なやつに乗ろうよ」


「信じてないのか? いいよ、乗ろう」


「やった、約束だよ!」


「小学校低学年みたいな聞き方だな……。分かってるよ、ちゃんと約束は守る」


 観覧車に乗れるのが嬉しいのか、はたまた一緒に出掛けるのが楽しみなのか、香織の歩くスピードはさっきよりも少しだけ早くなった。


「ねぇ、和くん」


「ん?」


「楽しみだね、ゴールデンウィーク」


「そうだな」


 香織が引っ越して来てから、俺はよく外に遊びに行くようになった気がする。

 前までは絶対に人混みには行かなかったのに、香織が一緒だと家から出ようと思うようになった。いいこと……なのか?

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