コーディネート

 異様にテンションが高い香織と翠のあとを追いかけ、併設されているショッピングセンターにやって来た。

 土曜日ということもあり、多くの家族連れやカップル、友達同士で遊びに来た人たちがいた。

 そして、最初に通りがかったたブティックショップで、


「――あ、これ可愛い! 絶対かおりん似合う!」


「ほんとうに? ちょっと試着してみようかな……」


 ……早速俺のことを無視して、ショッピングに勤しんでいた。

 服を選ぶ二人をはたから見ると良い女友達だった。……俺はどう見られているんだろう?

 翠に進められ、香織はくつを脱ぎ試着室のカーテンの向こうに消えた。


 それとなくその動作を見ていると、ニヤリと笑いながら翠が話しかけてきた。


「むふふ……カーテンの向こうを覗いてみたくなーい?」


「ばっ、お前!」


 小さな子供のように大きな声を出してしまったため、店の中にいた人や前のストリートを歩いている人たちが振り返った。


「トップスもパンツも渡したから今下着姿だよ。見たくないの?」


「……別に……」


 嘘だ、本当はみたい。好きな子の下着姿をみたいと思うのは仕方がない。


「相変わらずの分かりやすい嘘だねー」


「うっせ、翠みたいに俺はエロ親父じゃないんだよ」


「私は香織と同姓だから、エロ親父って言われてもなんとも思わないけどねー。それに香お、かおりんって同じ女としてみてもけっこういいプロポーションしてるんだよねー、とくに胸が」


 一緒の布団で寝たときなどに、細い体つきながら、以外と大きくて驚いた。

 それにしても翠、香織の呼び名たまにもとに戻ってるな。

 翠と一緒にいるのが恥ずかしくなり、俺はそっぽを向いた。


 やがて――シャッというカーテンを開ける音がなり、試着室から香織が顔を覗かせた。


「ど、どうかな……」


「……っ!」


 香織を見た瞬間、からだが動かなくなった。比喩でもなんでもなく本当に動かなくなった。

 白のカットソーにぶかぶかの黒色のパンツ、という少し大人っぽいコーディネートに少し恥ずかしいのか顔を赤くしながらこちらを見てきた。

 なんというか……その――、


「ヤバい、かおりんめっちゃ可愛い。このままうちにお持ち帰りしたい」


「あはは……」


 翠の言葉に少し引き気味な声を漏らした後、香織はこっちを向いた。


「和くんはどう思う……?」


 不安混じりなその問いに――


「……めちゃくちゃ似合ってる、すげぇ可愛い」


 心の底からそう思った。マジで可愛い。


「あ、ありがとう」


 恥ずかしくなったのか、香織はカーテンを閉めもとの服に着替えた。

 着替え終わり、香織が試着室から出てくると翠が興奮した様子で香織に促した。


「かおりん、かおりん。その服絶対買った方がいいよ!」


「うーん、でもちょっと予算オーバーだから今回はやめておくよ」


 値札を見て少し残念そうにする香織。その顔を見てつい、


「じゃあ俺が香織に買うよ」


「え?」


「いや、ほらっ、またその服を着た香織を見たいというか、もったいないというかなんというか……」


 提案された当の本人は、あまりのことに驚いているのか固まっていた。次いで一気に耳が赤くなり、


「……ありがと」


 と小さい声で言った。


 香織が持っていた服を買うために一緒にレジに向かい、お金を払ったときに店員が「良い彼氏さんをお持ちですね」と香織に話しかけたことで、さらに顔まで赤くなった。

 ちなみに翠はその横で、必死に笑いをこらえていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る