お弁当
入学式の次の日、午前中の授業がすべて終わり昼休憩の時間となった。
すでに友達を作っり一緒に食べる者、教室から弁当をもって出ていく者など様々だ。だが俺は弁当を持ってきていない。
なぜなら――、
「えっと、和くん。お弁当作ったから一緒に……食べよ?」
照れくさそうに弁当箱を両手に掲げながら、香織が声をかけてきた。
「ありがとう、一緒に食べよう」
さすがに男女二人、教室で弁当を食べるのは気が引けるため、どこかに移動をしようと椅子を引いたところでもう一人声をかけてきた。
「和希、香織ちゃん一緒にお弁当食べ……おやぁ、これはお邪魔ですかなー?」
口に手を当て、ニヤニヤした口を隠しているようだがまる分かりだ。
その仕草を微笑ましい顔で眺めている大地も、翠に誘われたようだ。
「そんなことないよ、一緒に食べよう」
「え? あ、そう」
どうやら翠は、香織の照れるような反応を期待したようだが、全くの的外れだったようだ。俺もなんだけどね。
「じゃあちょっと机を動かそうか」
そう言って大地は、近くにあった四つの机をくっつけ、最初に座った翠の隣の席に座った。
必然的に俺と香織は隣同士になるわけなんだが、何故か香織は耳を赤く染めていた。
「か、和くんの隣の席……」
「どうしたんだ?」
「和くんの隣に座るの始めてだなー、って思って」
俺と香織は、小学校一年生の時以外同じクラスになったことがない。それにグループワークでも同じ班にしかなったことがなく、隣に座ると言うことは今までなかった。
「そんなこと言ってると、弁当食べる時間なくなるぞ」
香織に言われて意識してしまい、恥ずかしさを紛らわすために、椅子をぶっきらぼうに引いて座ると、今度は隠す気もなく翠がニヤニヤしていた。
「なんだよ」
「仲睦まじいなって思っただけだよー」
その言葉で香織の耳の赤さは顔にまで到達し、その赤さが移ったように、俺の耳も赤くなった。当の言った本人は「さて、食べよー」などと呑気なことを言っているがこっちは気が気でない。
「と、とりあえず。和くん、どうぞ」
「ありがとう」
香織から受け取った弁当箱を開けると、ポテトサラダや小さなハンバーグ、厚焼き玉子や色なアクセントにミニトマトなどを使った色とりどりの具材が詰められていた。
「へー、これ全部香織ちゃんが作ったのか。すごいね」
普段料理をしない大地でも、その内容がすごいと思ったのか感嘆の声を漏らしていた。
「うん、朝早く起きて作ったんだ。和くんがハンバーグ好きだからそれも作ったんだよ」
誇らしげに喋る香織の顔は満足感で溢れていた。
「朝からハンバーグまで作ってくれたのか……大変だったろ」
「うん大変だったよ、でも好きな人のためにお弁当を作るのは楽しいよ」
「え?」
「あっ。~~~~っ!」
俺がなぜ聞き返したのか分かったのか、すこしは退いた耳の赤さが先の五割増しほどになった。
当然言われた俺の方も、嬉しいやら恥ずかしいやらの気持ちで一杯になる。そりゃ「好きな人」なんて、思いを寄せている人に直接言われたら嬉しくもなる。
「そ、その。この場合の好きな人って言うのはね、その……」
あたふたしながら必死に弁解している香織を見て、翠はまたもいじりにかかった。
「いいんだよ香織ちゃん。ちゃんと分かっているからー」
ポンポンと香織の肩を叩くが、その顔はニヤニヤしっぱなしだ。
「うぅ~」
言い返せないのが悔しいのか、香織はとうとう黙りこくってしまった。
恥ずかしい気持ちを紛らわすために、ハンバーグを口に入れた。
「んぉ!?」
「ど、どう?」
「すごく美味しいよ! こないだの炒飯も美味しかったけどこっちはもっと美味しい」
恐らく塩分などを気遣い、調味料を少な目にしているのだろう。だがそれでも味がしっかりしていてこのハンバーグは美味しい。
「良かった、頑張って作った甲斐があるよ」
本当に安心したと言う顔でホッとしていた香織を見ると、自分の好きな人が、自分のために作ってくた物を味わって食べようと改めて思った。
あっという間に弁当の中身は、綺麗になくなってしまった。
「ごちそうさまでした。ありがとう、香織。すごく美味しかったよ」
「お、お粗末様……です」
正直香織があそこまでのレベルの弁当を作ってくるとは思っていなかったため、大満足だ。これを毎日学校で食べられると思うと、昼休憩が楽しみになる。
「やったね香織ちゃん。完璧に和希の胃袋を掴んだね」
「なんだかその言い方だと、他にもあるような気もするけど……うん、喜んでもらえて私も嬉しいよ」
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