ゲームセンター

「ねぇねぇ、和希。久しぶりにゲームセンターに行かない? 高校生初の」


 翠が大地を伴って話しかけてきたのは、入学式が終わり香織と一緒に帰ろうとしたときだ。


「なんでゲーセン?」


「高校生といったら、放課後のゲームセンターとカラオケでしょー」


「その言い方だと、いつかカラオケにも行く気なんだな……。いいぞ、予定もなにもないから行こう」


「よしっ。香織ちゃんも一緒に行かない? ゲームセンター」


「うんっ、ゲームセンターに私行ったこと無いから一緒に行こうかな」


「へー、香織ちゃんは行ったこと無かったんだね。まあ、僕も数回しか行ったことがないけど」


「そういえば大地とはゲーセン行ったことないな」


 俺と翠はよく、中学の帰り道に寄り道をしてゲーセンに行っていたが、大地とは一度も行ったことがない。


「行ったと言っても、デート途中に巻き込まれただけなんだけどね……」


 いつもは涼しい顔をしている大地だが、なにか苦い思いででもあるのか、顔を崩して苦笑していた。


         ◇ ◇ ◇


「うわ~、ここがゲームセンターか~。すごいね和くん」


 初めてのゲーセンで、香織の言葉はこれである。無邪気な子供のように、はにかみながら俺の方を振り返った。


「小さい子供みたいな反応だからやめろ」


「じゃあ和くんがパパだねっ」


「いや、だったら香織はママになれよ」


「え」


「え?」


 しまった、また口が滑った。さっきの大地との会話がどうにも頭から離れていないためか、普段言わない言葉を投下しまくってる。


「いやっ、あの……」


 自分で喋った言葉に、自分で恥ずかしがるというのは、なかなかどうして恥ずかしい。耳が熱くなっていくのを触らなくても分かる。その空気を翠は要らない方向に察し、


「お熱いことですなー、私と大地はお邪魔のようなのですねー。行こう大地」


「じゃあ、また後でね」


「お、おい!」


 大地は翠に腕を引っ張られ、奥の方へと姿を消してしまった。


「力関係が目に見えてるなあのカップル」


「そうだね、私は翠ちゃんみたいにならないから安心してね」


「え?」


「あっ」


 今度は香織が自爆をして、みるみるうちに顔が赤くなっていった。これでお互い様、となるわけもなく、俺たちはしばらくその場で顔の熱が少しでも下がるのを待った。


「と、とりあえずいろいろ見て回ってみるか?」


「うん……」


 顔の赤い男女が二人、ゲーセン内を歩いていたため、通りすがった人は俺たちを微笑ましい顔(もしくは憎たらしい)で見てきた。


「あ、可愛い……」


 ふと香織があるUFOキャッチャーの前で立ち止まった。そのUFOキャッチャーにはストラップほどの大きさから、抱えるほど大きなものまでの、大小さまざまなくまのキャラクターが景品としてあった。


「やってみるか?」


「うん!」


 香織は財布から百円玉を取り出し、投入口に入れた。


 UFOキャッチャー独特の音楽がなり始め、香織は『→』のボタンを一回押した。……そしてもう一度押した……、


「悠人くん、動かなくなっちゃったよ?」


「いや、一回しか押せないから」


「えっ、それじゃあ……」


「そのコースだとなにも取れなさそうだな」


「そんなぁ……」


 結局なにも取れずに終わったことが悔しかったのか、今度は五百円玉を投入口に入れ、さらに六回プレイしたが景品は一個も取れなかった。


「うぅ、悔しい」


 俺は財布から百円玉を財布から出し、投入口に入れた。UFOキャッチャーをやるのはかなり久々で、一か八かのかけだが、香織のあの残念そうな顔を見ていたらそんなことを言えなくなった。


 結果……、


「ほれ、獲れたからあげるよ」


 香織の狙っていた大きなサイズのものは取れなかったが、なんとか一度でくまのストラップを落とすことができた。


「いいの?」


「俺が持っていても、着けないからな」


「じゃあこれもらうね。ありがとう!」


「……おう」


 きっと、心からの笑顔とはこういうのをいうのだろう。その笑顔の前に思わず照れてしまった。

 香織は獲ったストラップをカバンに取り付けた。


「どう?」


「可愛いんじゃないか」


「えへへ、和くん。次はプリクラをやってみたい」


「おう」


 俺はゲーセンに来てやることと言えば、メダルゲームか太鼓を叩くゲームしかやらないため、プリクラ等はやったことは一度もない。だから、香織と同じく俺も初プリクラだ。


 プリクラのある場所には、女子高生らしき人やカップルしかいなかった。……だから避けてたのもあるんだけどな。


「私たちもその、カ、カップルに見えるのかな?」


 顔を赤らめながら上目使いで聞いてきた。


「馬鹿言ってないでとっとと撮るぞ」


 俺はまた顔の赤くなった姿を他人に見られたくため、お金を投入し(背景等などは適当)、すぐに機械? の中に入った。


「思ったよりも広いんだね」


「そうだな」


 中には小さな四角い出っ張りのようなものがあり、そのにディスプレイが表示されていた。


 バシャッとカメラのフラッシュがたかれた後、画面でいろいろ落書きをした。


「楽しかったねー」


「そ、そうだな」


 あの空間絶対悪意あるだろ! あんなに広いのにカメラに写る範囲が狭すぎだろ。そこまでしてくっつけさせたいか。

 ただ、香織と過ごす時間は楽しかったので、結果オーライだ。


「どうだった? 楽しめた?」


「お帰り、二人とも」


 プリクラから出てくるとそこには顔がにやにやで一杯の翠と、いつものように涼しい顔の大地がいた。


「うんっ、楽しかったよ!」


「まあ、……楽しかった」


「うーん、それは何より。そろそろ帰ろっか」


 スマホの時間はいつもならそろそろ風呂に入る時間に差し掛かっていた。


「そうだな、帰ろう」


「うんっ」


「あれっ、香織ちゃん。そのストラップどしたの?」


「和くんが獲ってくれたんだ~」


 ニコニコしながらそう答える香織を見ていると、なんだかこっちまでうれしい気持ちになってきた。

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