お手伝い パート2
朝ごはんを二人で食べた後(なぜか一緒に食べた)、部屋の片付けの二日目をしに来ていた。
今日は香織の両親は仕事でいないらしい。昨日は父さんたちの話し声が聞こえた香織の家は今日は静かだった。
「今日こそ片付けを終わらせるぞ」
ただ、静かだろうとうるさかろうが、やらなくてはいけないことはある。そのためにわざわざ二日も連続で来ているんだし。
「うん」
昨日は一日費やし三分の二ほど進んだので、おそらく午前中、遅くとも三時には片付け終わるだろう。
「とりあえず雑誌とプリント類を片付けよう。俺にはどれが要るのかどうかが分からないから、香織は仕分けをしといてくれ」
「分かった、和くんは何をするの?」
「俺はこの部屋に置くカラーボックスとかを組み立てるから」
「手が必要だったら言ってね」
「もしそうなったら頼むよ」
部屋の奥に積み上げられている、雑誌の山を片付けようと早足で向かったのが災いしたのだろう。
香織の足が、床にあったプリントをちょうど踏んでしまった。
「あ」と声を漏らしながら、体勢を崩した。反射的に香織の手を握り、引き寄せたまではよかったのだが、引っ張った勢いが強すぎたのか今度は逆に俺の方に体勢が傾いた。
ドスンっと尻と床がぶつかる音が部屋に響き渡った。
「いてててて」
「ご、ごめんね和くん。お尻大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。それよりもどいてくれないか?」
俺がこう言うのには原因がある。
今の香織は、俺を下にして覆い被さっている。要するに、床ドンである。
さらに、体勢がつらいのか徐々に香織の体が下がってきている。
「ごめん、無理そう。……我慢してね」
ニコリと笑った次の瞬間に、香織は一気に俺の胸の上に落ちてきた。
思わず「ぐへぇ」と変な声が出てきてしまった。
「あのー、香織さん。そろそろ退いてくれませんか? 何でだんだん下に来て、人の胸に耳を当てて心臓の音聞いてるです?」
「和くんも生きているんだなーて」
「そりゃ、生きてるんだから動いてるわ」
「なんか落ち着く。もう少しこのままでもいい?」
「……いいよ」
俺たちの家は静かな住宅街のなかに建っている。まだギリギリ朝と言える時間でも、耳を済ませば鳥の鳴き声が聞こえるほどだ。
「よしっ、和くんパワーを貰ったことだし頑張ろう」
「和くんパワーって、とりあえず始めるぞ」
「うん!」
◇ ◇ ◇
「終わったー」
「疲れたねー」
そう発した途端に体の力が一気に抜けて、床に二人して『大』の字に転がった。
時計を見ると十三時を少し越えた時間だった。
きれいになった部屋を見回すと、ピンクのパステルカラーで統一された『これぞ女子の部屋』とわかる、小物やバッグ、コルクボードなどのある部屋になっていた。
「じゃあ俺はそろそろ帰るから」
そう言って立ち去ろうとすると。
「もう帰っちゃうの? お昼ご飯作るよ」
「……食べる」
どうやら食欲には抗えないようだ。
リビングで香織の料理風景を見ていたら、ふと疑問に思った。
「料理なんてできたっけ?」
「中学校に入ってからお母さんに習い始めたんだよ。入試期間中はあんまり作ってなかったから、少し鈍っているかもしれないけどね」
そういいながらも香織の動きは、無駄がほとんどなかったように思える。
「よしっ、完成!」
そう言って料理を皿に盛り付け、俺の前に置いた。
「炒飯だよ、簡単なものでごめんね」
簡単なもとはいえ料理は料理だ。それに、簡単なものだからこそ味の違いがわかると言うものだ。
俺は炒飯をスプーンですくい、口の中に入れた。
「どう、どう?」
「……ちゃ…………い」
「うん?」
「めちゃめちゃ上手い! こんなに料理上手いのか。毎日食べたいぐらいだよ!」
「じゃ、じゃあ。今度から学校の日はお弁当を作ってあげようか?」
少し遠慮したような、でも期待したような目で聞いてきた。
「大変じゃないのか?」
この地域は中学校でも給食がないため、母さんが弁当を作れないときは自分で作っていた。だが、弁当を作るのは予想以上に大変だということは作ったことがあるからわかる。それを毎日二人分も作るのは大変なのではないだろうか。
「平気だよ。和くんが喜んでくれるんだったら全然大変じゃないから」
「うーん、それでもな……。そうだ、水曜日だけは俺が弁当を作る」
「え? 和くんお料理できるの?」
普通そうだよな、男子って一部の例外を除きあんまり料理はできないし。そもそも女子ですら料理ができないことが多い。
「それなりにできるぞ」
「じゃあ、私が水曜日以外、和くんが水曜日にお弁当を作るでいい?」
「分かった」
「和くんのお弁当楽しみにしているね」
「あんまりハードルを上げないでくれ」
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