布団の中で

 息が苦しくなって目が覚めた。

 目を開け、何事かと原因を探すと


「なんだ、香織か」


 香織が俺の体を抱き枕にして寝ていた。

 そういえば昨日俺の布団で寝たいと言ってきたんだっけ。

 顔と顔との距離が近いから必然的に香織の肌の綺麗さがわかる。

 真っ白な肌だな、それにいい匂いもするし。相変わらず可愛いな……。


 俺は香織のことが好き。しかしその気持ちを告白せずに、香織は引っ越してしまった。もし告白をして嫌だと言われたら、なら幼馴染としての関係でもいいのではないか……等と小学校三年生ながら考えていた。

 そんなこともあって俺は画面の中に逃げ、画面の中の少女に恋をした。今考えると、小学校三年生ながらに恋を理解していたのはすごいと思う。

 だが、


「やっぱり心の奥で眠っている、好きな気持ちは変わらないのか……」


 今、こうして香織が隣にいるだけで俺の心臓の音は、張り裂けそうなほどに大きな音をたてていた。

 俺の心臓の音が聞こえたのかそうではないのか、香織が目をゆっくりと開けた。


「おはよう、和くん」


「おはよう」


「なんだか一緒の布団で寝ているのって、新婚さんみたいだね」


 さっきまで香織のことを考えていて、次いでこれである。顔がだんだんと赤くなっていくのが自分でも分かった。


「恥ずかしいから言うな」


「顔が赤くなった和くん、かわいい」


「おい」


「ごめんごめん」


 そう言って子供をあやすように俺の頭を手櫛で梳いた。


「和くんの髪の毛、短くてチクチクしてるけどサラサラだね」


「どっちなんだよ……」


「どっちも、かな。私の髪の毛さわってみる? どんな感じだか和くんの感想を聞いてみたいし」


「――」


 普段だったら断っていただろう。だが、今回はそれができなかった。

 香織の方を向き、右手を茶色の髪の毛に伸ばした。


「ずっとさわっていられるぐらいサラサラだよ」


「あ、ありがとう……」


 いつもなら恥ずかしがっている雰囲気をしない香織が、今回は白い顔をあからさまに赤くしていた。


「珍しく恥ずかしがっているのか?」


「そ、そんなことは……」


「じゃあ風邪でもひいたのか?」


「そんなじゃないもんっ」


「じゃあなんなんだ?」


「もうっ、和くんの意地悪……」


 なぜか怒られた。だがその顔は怒っているのではなく、やっぱり恥ずかしがっているような気がして……。


「なぁ、やっぱり恥ずかしがっているんじゃないか?」


「和くんはどんなときに赤くなる?」


「どんなときって……」


 恥ずかしいときだろ、まさに今のこの状況。じゃあ、恥ずかしいときはどんなときか、最近だといつか……さっきか。てことは香織が可愛いとき?

 その答えに行き着いたとき更に顔が赤くなったような気がした。


「それでどんなとき?」


「……言えない……」


「じゃあ私も言わなくてもいいね」


 その後、「誉められて嬉しいからなんて言える訳ないよ……」と小さく言った。おそらく俺に聞こえないように言ったつもりだったのだろうが、今の俺との距離は十センチもない。

 そろそろ顔をめぐっている血液が沸騰するかもしれない。


「和くんこそ熱があるんじゃないの? 顔が真っ赤だよ」


「いちいち言わんでいい、もう俺は起きるからな」


「じゃあ私も起きようかな」





 その後、親に顔の赤い理由を説明するのにそれなりの時間を要した。真実は言わなかったけど。

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