お泊まり

 夜ご飯食べ終わりスマホをいじくっていると、家のチャイムが鳴った。玄関を開けると、風呂上がりなのか少しだけ頬の赤くなった香織が入ってきた。


「お風呂上がりだけど、さすがにパジャマで外に出ると寒いね」


「パジャマで来る方がどうかと思うけどな」


 香織は薄い黄色を基調とした、フードのついた足首まで隠れるワンピースタイプのパジャマを着ていた。


「なんでそんな服で来るんだか……」


「可愛いでしょ」


「いや、まぁ……可愛いよ」


「あれれぇ、もしかして恥ずかしがってる?」


 からかうように、俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。

 風呂上がりで余計に香織のふわりとしたいいにおいが、鼻孔をくすぐり、思わずたじろぐ。


「あぁ、恥ずかしいよ。恥ずかしいからそうやって覗き込むのは止めてくれ」


「しょうがないなぁ」


 覗き込むのを止め、俺の部屋の方へ歩いていった香織の横顔は、来たときよりも少しだけ赤くなっているような気がした。


         ◇ ◇ ◇


「和くんの部屋、昔のままだー」


「当たり前だろ、ゲームカセット以外置くもの無いんだし」


 俺は趣味がゲーム以外なにもない。しかし、最近普及してきたスマホゲームではなく、ゲーム機を主としているため、どんどんカセットが増えていく。


「ねぇねぇ、久しぶりにこれやらない?」


 そう言いながら香織は某有名ゲーム会社の作った、レースゲームのカセットケースを取り出した。


「別にいいけど……香織それめちゃくちゃ遅かったよな?」


「むー、あのときよりも成長したかもしれないじゃん。いいからやろうよ!」


「へいへい」


 俺は香織の持っているカセットケースからカセットを取り出し、テレビ接続をしたままのゲーム機に入れ、本体の両サイドについているジョイコンの片方を香織にわたした。


「よしっ、頑張るぞー」





 とまぁ、意気込みは十分だったのだが……


「和くん置いていかないで~、なんでそんなに速いの~」


「いや、香織が下手なだけだろ。大体香織のこと待ってたら俺たちのチーム負けるから」


「そんな~」


 結果は七年前と変わらず。四レース全てで俺が一位、香織がビリで終わった。俺がいなかったら相手チームに惨敗していただろう。


「他のゲームやろう!」


「おい」


「だって負けてばっかりでつまらないんだもん」


「分かったよ、何やりたいんだ?」


 香織は立ち上がってなんのゲームをするか選び始めた。


「これがいい!」


「おう」


         ◇ ◇ ◇


「疲れたー、もう今日は寝ようよ和くん」


「負け続きで飽きただけだろ」


 音ゲーをやってもアクションゲーをやっても香織は負け続けていた。

 ここまでできないのもある種の才能なのか? とすら思ってしまうほどだ。


「そんなことないよ、もう少しで日付をまたいじゃうし」


 言われて初めて時計を見ると、後十分ほどで今日が終わってしまう時刻だった。


「そうだな、少し早いけど寝るか。布団持ってくるからちょっと待ってて、ベッドと布団どっちで寝る?」


「うーん、和くんと一緒に寝る!」


「誰が一緒に寝るか!」


 こいつ俺の理性を吹き飛ばす気か。


       ◇ ◇ ◇


 ……寝れない。

 布団に入ってから早一時、俺はまだ寝られていなかった(結局香織がベッド、俺が布団になった)。枕が違うとかそう言うのではなく、単純に隣で誰かが寝ているのに違和感があったのだ。


「起きてる、和くん?」


「起きてるよ」


 ごそごそと香織の動く音がした。体の向きでも変えてるのかと思ったら、


「なっ!? ちょっ、おまっ!」


 俺の布団にわざわざ入ってきた。近い、過去一番近い。


「いいじゃん、幼馴染なんだし。小さい頃も一緒に寝たことあるじゃん」


 幼馴染の特権強いなおい。それにいつの話してるんだよ、香織と一緒に寝たのなんて何年前だ? 一二三四……九、九年前の話だぞ、全然成長してないのかこいつ。


「あのなぁ、俺も一応男だからな?」


「うん、だから?」


 ナチュラルに返された、何て言えばいいんだ。だめだ、緊張して思考がおかしなことになってきている。

 もういいや、諦めよう。


「いや、なんでもない」


「そっか。寂しいからここで寝てもいい?」


 俺の方を向きながら子猫のような目で聞いてきた。


「はぁ、いいよ。今日だけな」


「今日ってことはまた今度もあるの?」


「いい間違えただけだよ」


「そっか」


「今度こそ寝るからな、お休み」


 少し残念そうな顔をしたが、香織は直ぐにニコリと笑って目を閉じた。


「お休み、和くん」


 ……あれ? 結局一緒の布団で寝てね? まあいいや。

 香織が隣で寝ているのに、その後直ぐに夢の中へと落ちていった。


 

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