お手伝い パート1

「そう言えば和希、明日はなにか予定入ってるか?」


 夕食を食べ、ソファーでくつろいでいると父さんが話しかけてきた。


「なにもないけど、何で?」


「明日は俊一しゅんいちの家の引っ越しの手伝いがあるから、もし暇なんだったら俺と母さんと一緒に手伝いに行かないか?」


 俊一とは香織パパのことだ。すごく優しい人で、小さい頃は香織パパと香織と俺と三人でよく出掛けた(香織パパの代わりに、うちの父さんのときもあった)。


「香織パパとママに久々に会いたいから、一緒に手伝いに行くよ」


「そうか。じゃあ明日の八時半に来てって言われているから、それまでに準備……といっても特にないか。とりあえず寝坊するなよ」


 最近起きるの遅いこと母さんから聞いたのか。


「ちゃんと起きるよ……多分」


「心配だなぁ」


 心配とか言いつつも、その顔はあまり心配をしていないように見える。どちらかというと、俺とのこの会話の空気を楽しんでいるように感じてしまう。


「寝坊しないように今日はもう寝るよ、おやすみ」


「あぁ、おやすみ」


         ◇ ◇ ◇


「おはよう」


「あら? 七時なのに今日はちゃんと起きたの。おはよう」


 朝、リビングに入ると母さんは朝ご飯を作りながら、少しだけ驚いた。


「今日は香織の家の引っ越しの手伝いに一緒に行くから、ちゃんと起きただけだよ」


「そう、あともう少しで朝ご飯できるからテーブルで待っていて」


 テーブルで新聞を読みながら座っている父さんの前に座る。俺の定位置は大体ここだ。


「おはよう、父さん」


「ん? おはよう、ちゃんと起きれたのか」


 新聞を読む目からこちらに目を向け、父さんも少し驚いたように言った。


「父さんも母さんも失礼な」


 テレビをつけても面白いニュースはやっておらず、スマホで今日の天気を調べると、一日中の晴れマークがついていた。


「今日はずっと晴れだって」


「俊一は晴れ男だからなぁ」


 そんな会話をしていると母さんが、テーブルの上に朝ご飯を準備した。


『いただきます』


「随分と久しぶりね、みんなで朝ご飯を食べるの」


「最近は忙しいからな、ごめんな」


 父さんの仕事は医者のため家にあまり帰ってくることがなく、帰ってきても夜は遅く朝は早い。さらに母さんも看護師のため、ほとんど昼間は家に帰ってこないし、夜勤もある。だから、こうして家族全員で食事をとるのは珍しい。

 そんな経緯から俺の家事スキルは、どんどん上がっていったけど。


「俺って今日は何をすればいいの?」


「家具の配置を移動するって言ってた気がするから、それの手伝いじゃないか?」


「行けば分かるか」


         ◇ ◇ ◇


隼人はやとか、久しぶりだな」


 香織パパはチャイムを押すとすぐに出てきた。ちなみに隼人とは父さんのことだ。


「和希君も久しぶりだな。前よりもずいぶん身長が伸びたなぁ」


「身長が伸びてなかったら逆にヤバイと思うけど、しかも前っていったら七年も前だよ」


「そうか? それもそうだな。はっはっはっ」


 久しぶりに香織パパの笑い声を聞いた気がする。小さい頃よく聞いてたから安心するんだよなぁ。


「俊一、俺たちは何をすればいいんだ?」


「隼人は俺と一緒に家具の移動、莉那さんは葵と一緒に皿の片付けなどを頼む」


「おう」

「分かったわ」


 ……あれ、俺は?


「香織パパ俺はなにすればいいの?」


「ん? 和希君は――」


「――和くんは私のお手伝いをするんだよ!」


 タイミングを見計らっていたように、香織が階段から飛び出した。

 朝から何でこう元気でいられるんだか……。


「和パパ、和ママは……久しぶりじゃないけど、お久しぶりです」


「うん、久しぶり」

「昨日ぶりね香ちゃん」


 さっきまで元気キャラだったのが、今度は真面目キャラになった。


「……忙しいなお前」


「何が? とりあえず私の部屋に行こ」


「あ、あぁ」


         ◇ ◇ ◇


「うわぁ、なんじゃこりゃ」


 俺が香織の部屋に入ったときの第一声だ。

 さすがに誰でもこう言うと思うよ、なぜなら


「ゴミ屋敷じゃねぇか!!」


「もともと片付けるのがちょっと苦手でね、あははは……」


「ちょっとってレベルじゃないだろ。だいたい、一昨日引っ越してきたばっかだろ? それがどうしてこうなるんだよ」


「しょうがないと思うよ? 和くんとのお出掛けで着ていく、可愛い服を探してたらこうなっちゃったんだし」


「うぐっ」


 部屋が汚くなった理由が、『和くんのために』なんて言われたら、怒りたくても怒れなくなってしまう。


「だから和くん、一緒に片付け頑張ろう!」


「香織が汚くしたんだろ」


「……ダメなの?」


 少し瞳を潤わせながら、上目使いで聞いてきた。


「いや、まぁ……ダメとは……言ってない」


「やった」と香織はその場で小さくジャンプした。


「おい、さっきの涙はどこ行った」


「……えへ♪」


 うぉい。


         ◇ ◇ ◇


 香織の部屋を片付け初めてはや七時間、お昼ご飯を食べたあとも部屋の片付けは続いた。そして、


「お、終わったー」

「終わったねー」


 やっとほどきれいになった。


「これだけやっても終わらないとは」


「なにも言い返せないよぉ……」


 この七時間、俺と香織は黙々と部屋の片付けをしていた。なのにこれしか進まなかった。


「今日中に終わるのか? これ」


「大丈夫、終わらなかったら和くんの部屋に泊まるから」


「なにが『大丈夫』だ。んな訳ないだろ」


 幼馴染の女子が自分の部屋に泊まる、考えただけでもヤバイ構図だ。


「俺の部屋じゃなくて、親と一緒に寝ればいいだろ」


「うちのパパとママは一緒の部屋で寝てるから」


「空いてる部屋で寝ればいいだろ」


「片付けてない荷物で部屋が埋まってるから」


「俺の家の空いてる部屋……なんてないわ」


 あれ、これ詰んだ?




 コンコンコン


「香織、部屋に入るぞー」


「いいよ」


 部屋に香織パパが入ってきた。ナイスタイミング、香織パパ俺を助けてくれ。


「やっぱり全部は終わらなかったか」


「香織パパ、香織が俺の――」


「ねぇ、パパ。寝る場所がないから今日は和くんの部屋で寝てもいい?」


「う~ん、和希君の部屋だったら……いっか」


「やったー! 今日は和くんの部屋に泊まれる」


「と、言う訳だからよろしくね和くん」


 何言っとるんだこの親は、男子高校生の部屋に娘を泊まらせて不安じゃないのか。それよか、俺の意志は無視かい。


「あ、和希君、隼人と莉那さんが『終ったら帰ってきて』って言ってたよ」


「疲れたんで今日はもう帰ります」


「後で行くからね、和くん」


 そんなことで俺の部屋に香織が泊まることになった。

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