お出掛け
香織と再会した翌日の朝、ベッドで寝ていると母さんが俺を起こす声が聞こえてきた。
「和希ー、香ちゃんが来てるわよー。起きなさーい!」
「……は?」
突然の母さんからの報告で驚き、朝一番が疑問系で始まったのは初めてだ。
もぞもぞとベッドから出て眠い目を
「あ、おはよう和くん」
「おはよう、和希」
「あぁ、おはよう。何で香織が家で朝飯を食っているのかはあえて聞かないけど、こんな朝早くから何の用だ?」
香織が家にまた来ること事態はある程度予想(というよりは確信)していたが、まさか昨日の今日、それも朝から来るとは思っていなかった。
「そんなに朝早くはないと思うよ。もう九時過ぎてるよ、ちゃんと夜早く寝てる?」
そう言われて時計を見ると、なるほど確かに短針は九を越えていた。昨日の夜ゲームやり過ぎたかな……。
「久々に親以外の人に説教されたな。それで、結局俺に何の用なんだ? 二度寝をしたいから早くしてくれ」
「んー、それはねー」
香織はトーストの横においてあった牛乳で口を潤し、ニヤリと笑った。
……なぜだろう嫌な予感しかしない。
「和くん、一緒にお出掛けしよ♪」
……予想的中。俺、二度寝したいって言ったよね?
◇ ◇ ◇
そんなこんなで俺は今、香織と一緒に町の中心にあるショッピングモールに来ていた。
今日は平日だが春休み期間中ということもあって、それなりにモール内には人がいた。
「はぁ、何でせっかくの休みなのに外出なんて……」
「もうっ、そんなこと言わないでよ!」
思わず愚痴をこぼすと、香織は頬を膨らませて俺を見上げながら睨んできた。
俺の身長は大体170センチ、香織は155センチぐらいなのでそれなりには身長差がある。だが俺よりも身長が小さいためか、睨まれても全く怖くない。むしろかわいい。
「ほらほら、愚痴言ってないで早く行こうよ和くん!」
言いながら急かすように俺の腕を引っ張って歩き始めた。
「はやくはやく」
「お、おい。ちょっと待て、いきなり歩くと危な……」
「和くんはどこ行きたい?」
「人の話を聞け~~」
「ねぇ、ねぇ次はどこ行く?」
ショッピングモールに入ってからの香織は怒濤だった。ちゃんと行く店を決めていると思ったが、まさか片っ端から回るとは……。
それに、気に入った服があればすぐに試着をして意見を聞いてきた。適当なことを答えるわけにはいかず、香織には悪いが疲れた。
「ちょっ、さすがに少し休憩したい」
「そうだね、休憩のついでで少し遅いけどお昼ご飯にしよっか。和くんはなにか食べたいものある?」
「そうだな……、さっきあったドリアの専門店がいいな」
本当はラーメンが食べたかったが、香織の服にもしもスープが付いてしまったらと考えると言えなかった。
「あ、あったね。私も食べたいから行こっか」
今ふと思い出したが引っ越す前までは香織はチーズが好きだった気がする。そう考えるとなにげにこれは良いチョイスだった気がする。
「うわー、なんかアンティーク調で良い雰囲気だね」
少し遅めの昼ご飯に俺たちが選んだドリアの専門店の中は、どこか懐かしい雰囲気と静けさをあわせ持った店だった。
「そうだな。人もあんまりいなくて落ち着いていてて良い」
「確かにお店の中に入ったら、さっきまでのザワザワした雰囲気が一気になくなったね」
ガラス扉一枚を挟んだ向こう側は今も多くの人が往きっかているが、ここは静かだ。
「えへへ、なんかデートみたいだね」
「今まで平気だったからいいけど、そう言われると一気に恥ずかしくなるからやめてくれ」
「えー、和くんの顔が赤くなるとこ見てみたい」
「おい」
「うそうそ、冗談だって」
そんな冗談を交わしながらメニューに目を通す。いろいろな種類のドリアメニューがあったが、もっとも目を引いたのが、
「よしっ、ハンバーグドリアにしよう」
「おー、そう言えば和くんハンバーグ好きだったもんね。うーん……、私はこのチーズドリアにしよ」
ビシッと香織が指をさしたドリアの説明を見て驚いた。
「パルメザンチーズの上にゴーダチーズ、さらにその上にチェダーチーズがのってるのか。すごいな」
「私、チーズ大好きだからね」
香織と雑談をしていると頼んだ料理を持った店員がきた。
「「おぉー」」
思わず二人して声を上げてしまった。それほどまでに見た目が美味しそうだったのだ。
「美味しそうだね」
「あぁ、いただきます」
スプーンでドリアをすくうとチーズがいい感じに伸びてきた。
「熱っ!」
あまりにもお腹が空いていたので、息もかけずにドリアを口に入れてしまった。そんな俺を心配したように声をかけてきた。
「かふくん、はいひょうふ? (和くん、大丈夫?)」
「だ、大丈夫……」
何を言ってるのか、しっかりとは分からなかったけど大体ニュアンスは伝わった。
それにしてもこのドリアも美味しいが、ハンバーグも十分美味しい。素人だから断言できないがこれだけでもお店が出せる美味しさだ。
ちらりと香織に視線を向けると、なにか物欲しそうな目でこちらを見ていた。
「ねぇねぇ、和くん」
「ん?」
「一口ちょうだい」
「……だと思った、ほれ」
ドリアの皿を差し出そうとすると、なぜか香織は目を閉じ、口を開けていた。
……ん? もしかして「あーん」ってしてほしいのか? いくら相手が幼馴染でも恥ずかしくなる。
「和くん、はやくはやく」
閉じていた目を開き、ウィンクの状態で催促されたので、どうにでもなれ精神で香織の口にドリアを入れた。
「う~ん、こっちも美味しいね。はい、私のもあげる。あーん」
言いながらスプーンを俺の方に差し出してきた。
香織は気にしてなかったから、俺もできるだけ平常を装って食べた。
「んぉ? これもけっこう美味しいな」
「でしょでしょ」
「「ごちそうさまでした」」
「美味しかったね」
「ここを選んで正解だったな」
帰る準備をするために椅子から立ち上がろうとすると、
「デザートはなに食べる、和くん? 私はチーズケーキ食べるけど」
香織はメニューのデザートのページを開いて差し出した。チーズが大量に乗ったドリアを食べたあとにチーズケーキを頼むほどチーズが好きなのか。
「俺はこのチョコレートケーキかな」
結局、デザートの誘惑に負けて俺もチョコレートケーキを頼んだ。
「うーん、美味しかった。和くん、そろそろ帰ろっか」
「そうだな、お腹が重くなったしそろそろ帰るか」
俺は香織が持っていた伝票を持って会計をした。
「え、いいよ自分の分は自分で払うから」
「俺がここがいいって言ったんだから、俺に払わせてくれ」
普段の言葉遣いよりも少し強めに言うと「……分かった」としぶしぶ同意してくれた。
◇ ◇ ◇
「今日はありがとね、和くん」
二人で半分ほど沈んだ太陽を背に歩いているとき、突然足を止めて香織がお礼をいってきた。
「俺の方こそありがとう。香織のおかげで今日は楽しかったよ」
素直にそう思った。最初はあまり楽しくなかったが、だんだん一緒にいるのが楽しくなってきている自分がいた。
「うん、また一緒にお出掛けに行こうね!」
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