『異世界に転移する』なんていう事象は、フィクションの中にしか確認されていないことを知る彼女にとっては

もっとも、『なし崩し的に人間の味方をする』と言っても、彼女は、


<人間を守るために作られたロボット>


だから、他に選択肢はなかったんだけどね。


その一方で、ロボットである彼女は、


『自分が異世界に転移した』


とは、考えてなかったりもする。


だって、女の子を助けた時に取得したバイタルサインを見る限りでも、女の子は間違いなく<人間>で、


<人間によく似た別の種>


ということを示すような所見がなかったんだ。


確かに、彼女が作られた西暦一万二千年頃の文明を窺わせるような技術はまったくなく、地名とかも彼女のデータにはないものだったけど、それでも、


『異世界に転移する』


なんていう事象は、フィクションの中にしか確認されていないことを知る彼女にとっては、


『何らかの事情で他の惑星との交流が完全に断たれ、それまでの技術が失われた惑星かもしれない』


と考えた方がまだ現実味があるんだよね。


実際、彼女のその考えが必ずしも突飛なものじゃないことを示す事実はあって、


<科学技術に依存した文明を否定する人間達が住む惑星>


というのも現にあったんだ。


科学技術の権化とも言うべき大規模テラフォーミングで開発されて、恒星間航行技術によって入植しておいて、


『科学技術に依存した文明を否定する』


とか酷い矛盾もあったもんだけど、でもまあとにかく、その入植者達は、科学技術のほとんどを封印。地球の中世頃の生活を再現しつつ暮らし始めたんだって。


まあそんなことが本当に可能なのかどうかは置いといて、もしかすると、自分は、<不活化保存カプセル>に封入されてその惑星に運び込まれ、何らかの任務をこなすはずだったのが長期に亘って放置され、その間に<科学技術に依存した文明を否定したコミュニティ>の住人達が世代を重ねてかつての記録も失伝し、本当に中世頃の世界に退行してしまったところに目覚めたのかもしれない、と、推測したりもするわけ。


ちなみに、<不活化保存カプセル>というのは、一切の化学反応を抑制する<不活化ガス>が充填されたカプセルの中に物品を保管して、一万年単位での保存を可能にするというものなんだ。


それにロボットを封入すると、それこそ一万年でも劣化せずに保管できるっていう、本来は貴重な資料とかを保存しておくためのもので、資料としてロボットも保管されてたりするんだけど、彼女がそれに選ばれたかどうかは、データが残ってないから分からない。


もっとも、彼女がそうして保管される合理的な理由もないんだけどさ。


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