本当に、自分の家族や身内や身近な誰かが他人を傷付けようとしてるのを止められないのに、どうして見ず知らずの赤の他人を止められると思えるんだろうね

本当に、自分の家族や身内や身近な誰かが他人を傷付けようとしてるのを止められないのに、どうして見ず知らずの赤の他人を止められると思えるんだろうね。


謎が過ぎるよ。


この世界の主人公の母親も、赤の他人を止められるとかは思ってない。


でも、だからこそ、自分の子供が他人様を傷付けるのを許さない。


自分が勝手にこの世に送り出したんだから。


『もしあの子が誰かを傷付けようとするなら、身をもって止めなきゃ』


母親はそう覚悟しながら毎日を過ごす。


一方、主人公の方はと言えば、愛想よくできないのは相変わらずだけど、それでも大きな衝突は起こさずに済んでるんだよね。


何しろ、同じ軍での正式な採用を目指す連中も、それぞれ大概<訳あり>の人生送ってきてて、主人公も、


『自分だけが苦しい人生を送ってるわけじゃない』


ってのを思い知らされたりもするしさ。


『世の中に復讐するってことは、そういう、<自分と同じように苦しんできた者達>も巻き添えにする』


ということだってのに薄々気付くんだよ。


しかも、この世界での両親も、いい養親に出逢えたとはいえ、元の世界で若くして命を落としてこっちに転生して、なのにその親には捨てられたわけで、決して順風満帆な人生を送ってきたわけじゃない。


別に<勝組>ってわけじゃない。


そんな両親に何を<復讐>しなきゃならない理由がある?


ましてや、こっちの世界の両親は自分に理不尽なことをしなかった。いつだって自分のことを見て、言葉を聞いて、その上で、一緒に考えようとしてくれてた。


両親が自分にしてくれたことを真似たら、周りの人間も自分を気遣ってくれた。


なのに、それに目を瞑り耳を貸さずってしてきたのは、他でもない主人公の方だ。


確かに、前世では辛い思いをしたかもしれない。人間の悪辣な面ばかりを見てきたかもしれない。


だけどそれは、<世界のすべて>じゃなかった。世界のごくごく一部分でしかなかった。


そんな一部分だけを見て、主人公は、世界のすべてを分かった気になってたんだ。


とは言え、だからってすぐに心を入れ替えるなんてそんな都合のいいこともできないけどさ。


ただ、主人公が晴れて正式に軍に入れることが決まった頃には、


<世の中への復讐>


に対する執念は、すっかり薄れちゃっててね。


だけど、ちょうどその頃、主人公が暮らす国に、ある意味じゃ戦争より厄介な問題が。


<軍隊すら恐れない、超強力な武装強盗団>


が付近に潜伏してるって情報がもたらされるんだ。


そいつらは、どこかの国が要する軍隊じゃないから、<戦争の作法>みたいなものもまったくお構いなし。宣戦布告さえせずにいきなりただ蹂躙するっていう、恐ろしい集団だったんだ。


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