解釈の相違

その世界ではさ、誰も他人を罵ったりしないの。相手を敬うのが当たり前で、多少上手くできなくてももたもたしちゃっても、馬鹿にされたりしなくて丁寧に対処してもらえるんだ。


だからいがみ合うこともない。


そんな世界に、主人公は転移してくるんだよ。神様がどうとかじゃなくて、本当に偶発的に起こった、自然現象としての転移。


その世界には魔法とかなくて、こっちの世界とは百年ほど科学文明は遅れてるけど、ホントに普通に人間が生きてるだけの普通の世界。


主人公はもちろん戸惑うし狼狽える。で、現地の人達からしたら<言動のおかしい人>になっちゃうんだけど、そこの人達はそんな主人公のことも馬鹿にはしないんだ。


何らかの事情でちょっと混乱しちゃってるだけってことですごく丁寧に接してくれる。


そうして主人公は、身寄りのない人達を保護する施設で保護されて、生活を始めることになるんだよね。


そこで暮らしてる人達も、ただ、『他に身寄りがなくて、しかも上手く仕事とかできなくて普通には生きられない』ってだけですごく穏やかで真面目でいい人達なんだよ。そしてそんな施設を管理してる職員達も、入所者を決して馬鹿にしたり見下したりしない。


できない人に無理にやらせようとするんじゃなく、できる人にやってもらうようにしてね。


そして、Aという作業はできない人でも、Bという作業ができるならそれをやってもらうというのが当たり前に行われてた。


主人公も最初は、まったく身寄りも生活基盤も頼れる相手もいないって状態の自分に親切にしてくれるその施設がありがたくて世話になるんだ。


だけど、作業中、何度も同じことを訊いてくる入所者に苛立って、


「何度同じこと言わせんだよ! いい加減覚えろよ!」


って声を荒げちゃって。


すると、場の空気が凍り付いて。


職員がすぐに駆けつけてきて、


「どうなさいましたか?」


声を荒げた主人公にも丁寧に接してくれて、主人公に怒鳴られて怯えてる入所者のこともフォローしてくれて。


ただ、主人公は、


『その入所者と組み合わせたことが良くなかった』


と判断されて別の部署に。だけどそこでは、長時間同じ作業ができない入所者とペアになって、その入所者が十五分ごとに絵を描いたりしてるのが『サボってる』ように思えて、そこでも、


「まじめに仕事しろよ!」


ってまた声を荒げちゃって。


でも、今度の入所者も、『長時間同じ作業ができない』ことは周知の事実だったからそういう勤務形態なだけで、しかもそうやって実質的な勤務時間が短い分、給金も働きに見合った分しかもらってなかったんだよ。


そして入所者の方も、自分がそうだっていうのを自覚してて、納得して働いてた。


『まじめに仕事しろよ!』


と主人公は言うけど、入所者の方は、本人なりに真面目にやってたんだ。


<解釈の相違>


ってやつだね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る