第5話 クエスト
――――あれ、ここはどこだ?さっきまで何をしていた。あまり思い出せないが、何故か顔面が痛い。
「やっと起きたか。軟弱者め!」
フェンリルの呆れた声が聞こえる。寝ぼけているのか、ここがどこで何をしていたのかを思い出せない。ただ、頭がガンガンと痛む。
ユウキは痛む頭を左手で抑え、身体を起した。
「・・・・ここはどこだ?」
「なにー!寝ぼけているのだ!しっかりしろ!」
フェンリルは駆け寄り、ユウキに往復ビンタを張る。頬は晴れ上がり、もう誰だかわからない程になっていた。
「ちょっ、待って!起きたから!フェンリル、ちょっと手を放せ!!!!!」
フェンリルはビンタをやめ、腫れあがった顔を凝視する。
「ふん。勝手に気絶した上に、呑気に寝ぼけているからだぞ!!」
「気絶してたのはお前が殴ったからだろ!?」
「私を待たせるお前が悪い!!」
こんなの横暴だ。しかもそんなに待ってないだろ。まぁそんな事よりも、店主と仲良く談笑していたが知り合いなのか?
呆れ顔で頭を掻きため息を吐いている店主は、フェンリルを諭した。
「ユウキも悪気があったわけでもないし、許してやれよフェンリル。」
「む。テュールが言うならしょうがないのだ。特別だぞ!ユウキ!」
珍しくフェンリルが折れ、何故か俺は許されたようだ。「てゆうか、俺は何も悪い事はしてないけどな。」そう心の中でツッコミを入れたが、声には出さなかった。それを言うと、また殴られるのは明白だ。丸く収まってくれるならほっといておこう。
そんな事より俺が気になるのはフェンリルが背負っている背中の物だ。風呂敷の様なもので包んでいるが、とても大きく長い物を背負っている。・・・・嫌な予感がするな。
「それよりも背中の荷物はなんだよ?来るときは持ってなかったよな!?」
「ふふふっ」
フェンリルはいたずらに笑う。
「よくぞ聞いてくれた、ユウキよ!これはお前にプレゼントなのだ!!」
背中に背負っていた物をユウキに差し出し、とても愛くるしい笑顔を向け続ける。
「お前が欲しそうに見ていたと、このテュールに聞いたのでな。可愛い子分に買ってやろうと思ってな」
「ああ、それは有り難いんだけどさ。お前は金なんて持ってたっけ?」
「それはユウキの金で買ったから大丈夫なのだ!!」
「なっなんだってーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ユウキは咄嗟に胸ぐらを掴み、罵声を浴びせていた。
「人の金をなんで勝手に使ってるんだよ!」
「いいじゃん!どうせギャンブルで手に入れた金なんだから」
「全然よくねーよ!どんな論理だ。・・・・で、いくらで使ったんだ?」
「ぜんぶ!!!」
「全部!?」
「うん。別にいいじゃん。また稼げばいいし」
「おい、俺の生活費はどうするんだよ!明日から何を食べていけばいいんだ・・・・」
ユウキは頭を抱えながらうなだれ、なにやら奇声を上げている。フェンリルは少しでも負い目は感じているのか、頬を膨らませ目には涙がこぼれ落ちそうだ。そんな二人を傍から見ている店主のテュールは、ニヤニヤしながら仲裁しに入った。
「まあまあ、お二人さん。喧嘩はよくないですぜ!」
「「お前は黙ってろよ!!」」
二人は声をそろえ怒鳴つけ、鋭い眼光で睨んだ。テュールはそんな事に微塵も動じなく、おどけて見せている。
「てゆうか、テュールさん?・・・・が買わせたんじゃないのか?」
「いやいや、とんでもない言いがかりですぜ。」
どう考えてもテュールが買わせたとしか考えられないんだよな。普段のフェンリルを見ていて、俺にプレゼントをしようなどと言う発想を持ち合わせているとは思えないんだ。現に今までに何回もフェンリルに殴られ気絶をしているが、これまで詫びの一つも受けた事はない。だからフェンリル自身にはこういった発想を持ち合わせていないだろう。だと仮定すると、テュールがフェンリルに働きかけ、高額でトリッキーで使い勝手が悪い武器を売りつけたのだろう。
「いいや!フェンリルが俺のためにプレゼントを買うわけがない!!」
それを聞いていたフェンリルはユウキの頭を小突き、両手を腰に当てふんぞり返る。
「痛い!なにするんだ!いきなり!」
「おい、失礼だぞ。ユウキ!私の命の恩人に向かって!!」
「「なんだと?」」
ユウキとテュールは同時に驚いている。
「なんでお前まで驚いてんだよ!!」
「てゆうか、金返せよ!」
「だから、失礼だぞ!もっと敬意を払え」
ユウキは大きくため息を吐いた。フェンリルが反省どころか、全く悪気がないのが一番たちが悪い。このままやり取りを続けても金は戻りそうもない。その証拠に段々フェンリルの顔が苛立ちを見せている。
「はいはい。・・・・ところで二人はどういう関係なんですか?知り合いみたいだけど」
ユウキが二人に尋ねたその時、壁に掛けられている置時計の鐘が鳴り響く。時計は17時30分を差していた。それを聞くや否や、テュールは早々に片付け、店を閉め始めた。
「もうこんな時間か・・・・閉店の時間だ!悪いが二人もさっさと帰んな」
「おい、ちょっと」
テュールは戸惑う二人を店から摘み出し、看板を中に入れ、ドアを閉めた。突然の出来事に二人は放心状態でその場に立ち尽くす。先に正気に戻ったのはユウキだった。
「ていうか、金返せよ!!!!!!!」
ユウキは武器屋のドアの前で絶叫する。その声は町中に轟き、フェンリルは正気に戻ったが、テュールの返事はなかった。
あのまま待っていてもテュールは出てきそうない。仕方なく二人はギルドに戻り、食事をしていた。
「いつまで、ふてくされてるつもりなのだ。ユウキ!」
「こんな顔にもなる。俺はまた一文無しに逆戻りだし・・・・」
「ふん。良かったではないか。ユウキでも扱える武器が手に入ったのに何が不満なのだ!!!」
「何が不満かって?使えない武器を売りつけられたもんだろ。この武器は飛距離はかなりあるみたいだけど、魔物の数ミリしかない急所に、ピンポイントで当てないとほぼダメージがないなんてゴミだろ!」
「逆に当てたらどんな敵も一撃で倒せる超強力な武器なのだぞ!たとえ魔王でも倒せるらしいしな!」
「巨大な魔物の数ミリしかない急所を狙える奴がどこにいるんだ。しかもその急所は、身体のどこにあるか不明で個体によっても場所が変わるから調べる事も出来ない。こんなの無理ゲーだ!」
「まぁ頑張れ、ぷぷっ」
「笑ってんじゃねーよ!他人事だと思いやがって。今も金がないから水しか飲んでないんだぞ!!」
「仕方ないなぁ。ここは私が奢ってやろう!」
「当たり前だ!!」
「その後でちゃんとクエストに付き合ってもらうぞ!!」
「ん?ああ、わかった。」
ユウキは、食事に夢中で聞き流していた。何も気づいていないユウキの様子を見て、フェンリルはニヤリとほくそ笑む。
数時間後、時刻は深夜を回っていた。二人はクエストのため、町に出かけていた。昼とは比べられない程、人影のなく殺風景になった町を徘徊している。
「・・・・で、こんな夜中になんで俺達は町にいるんだ?」
満腹になり爆睡していたユウキはフェンリルに叩き起こされ、半ば無理やり連れて来られ不機嫌な様子だ。冷えた身体を縮こませ、バカでかい銃を抱えいるからか息が上がり、今にも死にそうな顔をしている。
「ユウキが金がないって愚痴っていたから、こうして金を稼ぎにきたんだろう?」
フェンリルはしれっと淡々と言い放つ。
「いや、誰のせいだよ!!」
「ふん、働かざる者食うべからずなのだ!!」
「いやいやいやいや。お前のせいだからな!?金がないのは!!金返せ!」
「過ぎた事をネチネチと姑か、お前は・・・・」
半日を過ぎた今でも、怒りが収まらないユウキを余所に、他人事の様にため息を吐く。ユウキはこれ以上責めても何も進展しない。さらに、いつ逆ギレを起こし暴力に訴えて来るかもしれないのだ。仕方なく話題をそらす。
「・・・・そういえば、このクエストは何をするんだ?」
「よくぞ聞いてくれたぞ。今回のクエストは、この町エルサレムに最近よく出現している辻斬りの討伐なのだ!」
「辻斬り?」
「うん、辻斬り。被害者の数は五十人以上で、タナハも困っていたみたいなのだ。しかも勇者を送っても、みんな殺されるか大けがの重症を負って帰ってくるから、誰もクエストを受けなくなったみたいだぞ!!」
「無理無理無理!!!!!!!そんなヤバいやつ!!」
「大丈夫!私がついてるのだ!!しかも、コイツを討伐出来たら、タナハでもヒーロー扱いだぞ!良い事尽くしなのだ!!!!金ももらえるし」
「でも、死ぬ可能性が高いんだけど。・・・・俺はスライムにも勝てない男だぞ!!」
「威張るな!!それに、ユウキは天才なのだろ?」
そんな会話をしながら、歩いていた二人だが、周囲のある異変に気づき足を止めた。今までの道は白い石で出来た道だった。しかしいつの間にか、黒の様な紫の様な色の道になっていた。
「なぁ、エルサレムにはこんな気持ち悪い道があったのか?」
「いや?エルサレムに私が初めて来た時は、とても綺麗な白い町だったよ?」
ユウキはフェンリルより先に気づき、青ざめる。
「・・・・じゃあ。この道はまさか・・t」
「危ない!」
敵からの殺意に気づいたフェンリルが、ユウキを突き飛ばす。鋭い刃物がユウキの頬を掠め、頬から熱い液体が流れ、傷口が脈を打つ。
しかし、フェンリルの力が強かったのだろう。そのまま壁に激突し、壁にはヒビが入り、ユウキは鼻が折れあばら骨には数本ヒビが入った。
「大丈夫か?ユウキ!」
先の出来事で虫の息なユウキは血まみれになりながら、かろうじて答える。
「大丈夫なわけがねーだろ!!!!見ろ、あいつよりお前に殺されかけたわ!!」
フェンリルは、ユウキの様子を一見すると直ぐにユウキに斬りかかった相手に目を移す。その人は全身を黒いマントで覆っていてよく見えないが、恐らく男だろう。しかも、かなりガタイが大きく、無数の武器を携帯している様だった。
「貴様があの辻斬りか!」
「ふん、フェンリルか。やっと出てきたな」
「なに?なぜ私の事を知ってるんだ!?」
フェンリルは眉をひそめる。辻斬りはその様子を見て、不気味にニヤニヤとほくそ笑んでいる。二人は一瞬の油断も許されない程、殺気立っている。
「てゆうか俺を無視すんな」
緊迫した空気をぶち壊す様に、二人の間に割って入っていった。
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